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コルクで実現したい、編集者集団の在り方

新年が明けた。
2024年の誕生日を迎えると45歳になる。いよいよ40代も中盤に差し掛かってきた。

以前に『創業から10年。目指す経営者像が全く変わった』というnoteを投稿したが、ぼくの経営者としての課題意識は、ここ数年でものすごく変わってきている。

創業時から、コルクは「プロフェッショナルな編集者集団」でありたいと思ってきた。
メディアを運営する編集者ではなく、クリエイターの創作活動をエージェントとして支える編集者集団だ。この想いは、現在に至るまで、全く変わらない。

一方で、コルクを10年以上経営する中で、気づいたことがある。それは、メディアを運営する編集者と、クリエイターの創作活動をエージェントとして支える編集者では、求められるものがずいぶん違うことだ。
創業時のぼくは、このふたつの間にある差を理解していなかった。

ぼく自身のキャリアを振り返ると、講談社のモーニング編集部で、メディアを運営する編集者からスタートしている。

モーニング編集部時代は、モーニング読者に受け入れられるヒット作品を生み出すことで、とにかく雑誌に貢献したいと思っていた。そのために、過去のモーニングの名作を読み漁ったり、脚本術を勉強したりして、おもしろい作品の要素とは何かを徹底的に研究した。

モーニングでは「モーニングらしい世界観」とは何かが明確に提示されていた。「読むと元気になる」だ。『ドラゴン桜』も『宇宙兄弟』も、企画を立てる時に、このことをすごく意識した。実際、読者からの感想でも、「挑戦する勇気が湧きました」という内容がすごく多い。

同時に、モーニングに持ち込みをする新人マンガ家も、モーニングという雑誌が好きで、「モーニングらしい作品を作りたい」という想いを持っている人が多い。宇宙兄弟の小山さんも、そのひとりだった。

その結果、打ち合わせでの議論が噛み合いやすい。例えば、「こういう描き方のほうが、モーニング読者には受け入れやすい」といったことを、様々なヒット作品の事例とともにフィードバックすると、相手もそれなりの納得感をもって受け入れることができる。

ある種、モーニングというメディアを中心に考えることで、お互いの視点や考えが揃いやすい。

モーニングという場に、ぼくは育ててもらった。作家も先輩編集者も、その場での振る舞い方を見せてくれて、ぼくはマネながら成長していった。
人に向き合うのではなく、場に向き合えば良かった。

一方、コルクの場合は、メディアではなく、クリエイターが中心になる。

SNSが発展する前は、どこかのメディアに自分の作品を掲載しないと、創作活動を続けることはできなかった。しかし、SNSが発展し、ファンコミュニティによって継続的に収入が発生する現在は、メディアに依存しなくても活動を続けていくことができる。

そうした時代の中で、そのクリエイターの価値を最大に高めていくには、どういう活動が望ましいのか。それをエージェントとしてプロデュースしていくのが、コルクの編集者に求められる役割だ。

そして、このスタイルの場合、クリエイター自身の「どうありたいか」というビジョンが重要となってくる。それが全ての活動の軸となるからだ。

ただ、自分のビジョンを明確にすることは難しい。勢いで高い目標を宣言しても無意味だし、自分の本当の気持ちが籠っていないと、途中で何のために創作活動をしているのかわからなくなってきてしまう。

だから、エージェントとして支える編集者は、作家の中で長時間継続する欲望や感情を引き出すようなアプローチが求められる。
そのためのキーワードが「振り返り」で、そのことは『エージェントにおける、これからの編集者の役割』というnoteに詳しく書いた。

メディアを運営する編集者と、クリエイターの創作活動をエージェントとして支える編集者では、求められるスキルやマインドが少し変わる。

このことに気づいてから、ぼくは自分の編集者としてのあり方をアンラーンするようにしてきた。
コーチングを学んだり、スペインでサッカーの指導者をしている佐伯夕利子さんに自分の振る舞いをフィードバックしてもらったのも、その一環だ。

クリエイターの基本となる活動拠点は、他者がコンセプトを決めるメディアではなく、オープンなSNSになる。複数のSNSを運用していく。
メディアのコンセプトに自分を合わせていくことはできない。自分のコンセプトを固めていく。
そして、複数のSNSを使ってコンテンツを発信していく編成を決める。
マネタイズは「コンテンツそのもの」「広告」「ファンコミュニティでのマーチャンダイズ」の3つが軸になっていく。

雑誌のようなメディアと比べると、場の形が明確ではない。だから、場が人を育てる力が弱い。
人は環境によって育てられる。人と人が向き合っても、人は育たない。

編集者が育つ場作り。
育成のための仕組み作りに、今年は力をより入れていきたい。そして、その仕組みの中に、コルクらしいエッセンスを埋め込んでいきたい。

もちろん、これを実現するのは簡単なことではないだろう。まずは、社内での認識あわせをしっかりと行い、言葉や行動を揃えていかないといけない。だが、昨年一年間を通じて、そうしたことが実行できる下地が着々と整ってきていることを感じている。

創業から10年以上が経って、ようやく自分が実現したいプロフェッショナルな編集者集団の見えてきている。
そこに向けて、歩みを進めていく一年にしていきたい。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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