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エージェントにおける、これからの編集者の役割

ぼくの編集者観は、年を経るごとに変化を続けている。

以前のぼくは、ベテランマンガ家や編集部から学んだ知識や技術を、新人マンガ家に伝えることが編集者の役割だと考えてきた。だが、それだと学びとしては遅い。自分で課題に気づき、自ら調べるほうが圧倒的に成長は早い。

『ドラゴン桜2』で「教師は、教える人から、寄り添う人にならなくてはいけない」と主張しているが、編集者も全く同じだ。

ティーチングからファシリテーターへ。自分の役割をそう変えたいと気づき、ここ数年は思考の癖や習慣をアンラーンすることを意識してきた。

そして、現在。AIの発展により、ティーチングの領域はAIが担えるようになってきている。わかりやすい構成を考えたり、表現のパターン案を複数出したり、文章やセリフの推敲といった領域は、既にAIの得意分野だ。

また、以前に『AIがもたらす、健全なフィードバックの受け方』というnoteを書いたが、人間からのフィードバックより、AIからのフィードバックのほうが、素直に受け取りやすいという一面もある。

人間からフィードバックを受ける場合、「それはあなたの解釈が入っているのではないか」「この人が単にわかっていないだけではないか」と、否定の感情が入ってきやすい。一方、AIに対しての方が、「そういうものか」と一意見として冷静に受け止めやすい。

AIからの客観的でスピーディーなフィードバック。編集者からの主観や経験を交えたフィードバック。SNSやファンコミュニティで繋がっている読者からのフィードバック。こうした様々な角度からの多様なフィードバックを受受け取りながら、作家は自分の表現を磨いていく。

昔は、雑誌に載るのが本番で、載せれる前のレベルのマンガには、練習のような感覚があった。だから、連載前のマンガ家は、絵だけや、ネームだけを練習した。タスクを分解して、とにかく練習を繰り返していた。

SNSであれば、全てが本番。フォロワーが少なくても、みてくれる人がしっかりいる。そこに、一コママンガ、4コママンガ、2ページマンガ、4ページマンガ、と段々と描くものを複雑にしていき、連載にしていく。本番を繰り返していくことで、ファンを増やしながら成長していける。

スポーツの世界では「エコロジカルアプローチ」という概念が広まっていってる。コルクラボでは、この本の著者の植田さんと対談を行った。

その時の様子を見学に来てくれていた今田さんが語っているので、興味がある人は。

このエコロジカルアプローチという概念を使うと、なぜ南米のストリートサッカー出身の人に、クラブチーム出身のエリートが勝てないのかということがよくわかる。

クラブエリートは、タスクを分解して、教えられている。一方、ストリートサッカーでは、多様な環境で、タスクが単純化されている。

学ぶためには、タスクを分解せずに、単純化していく。このことは、スポーツだけでなく、創作にも言える。もちろん、仕事にも。

編集者が、新人作家に知識を教える時代ではなくなった。だから、ぼくは持っている知識を全てYouTubeでオープンにしている。

以前に『目標を自分ごとにする鍵は、振り返り』というnoteを書いたが、振り返りを日常的に行うことで、自分がどういう時に、どんな感情を抱くかの傾向が見えてくる。そうして自心の心の癖への解像度が高くなると、自分の欲望の輪郭が見えてくる。

多くの人は、社会から評価されるために、高い目標を勢いで立ててしまい、自分で自分を苦しめている。そんな状態になるくらないなら、目標も計画も立てないほうがいい。

作家は、SNSで単純化した本番を経験している。

そこで、自分の作品に対する様々なフィードバックを見ながら、自分がどう思ったのかをしっかりと振り返っていく。すると「もっとこうしたい」「次はこう描きたい」といった気持ちが自然と湧いてくるはずだ。これは誰か与えられた目標ではなく、その作家自身の偽らざる欲望となる。

本番に対する振り返りを作家と一緒にしていく。そして、少し複雑化した課題を一緒に発見していく。

振り返りを一緒にしていくことが、編集者の重要な仕事になっていくのではないか?

コルクの編集者は、エージェントである。メディアを自分たちで管理していて、そこに何を載せるのかを決めるのではない。

作家がSNSというメディアを自分で管理している。そこでの活動の振り返りを協力し、次なる課題を一緒に見つける。そして、ファンコミュニティが育ったら、収益化を一緒にしていく。それが、コルク的な編集者だと、今は考えている。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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