AIがもたらす、健全なフィードバックの受け方
コルクの行動指針のひとつに「まきこむ」がある。
仕事の成果とは、多くの人たちの協力によって生まれる。どういう風に接すると、相手が協力したいと気持ちよく思えるか。そのことを常に意識しながら行動しようというメッセージが、この言葉には込められている。
この「まきこむ」について考える時、イソップ寓話の『北風と太陽』をよく思い出す。北風のように、力技で相手を動かそうとすると、逆に相手の心は閉じてしまう。太陽のように、相手が自ら動きたくなる接し方とは何か。
自分の振る舞いについて考える際、自分ひとりで振り返るのは難しい。
他人からのフィードバックがほしいと考え、以前、スペインでサッカーの指導者をしている佐伯夕利子さんにコーチングをお願いした。
ヨーロッパサッカーでは、それぞれのコーチが指導しているところをビデオに録画して、その動画をコーチ陣全体で振り返るそうだ。気づいたことをお互いにシェアしあって、選手への接し方をより良いものへと変えていくための仕組みが出来上がっている。
それと同じような感じで、ぼくがコルクの若手や新人マンガ家とオンラインミーティングしている動画を佐伯さんに見てもらって、感じたことを率直にフィードバックしてもらう。そうした振り返りを何度も繰り返していく。
そのなかで気づいたのが、ぼくの接し方の癖だ。
ぼくは講談社に新卒入社して、モーニング編集部に配属されて、いきなり大物作家たちと仕事をさせてもらうことになった。相手は大ベテランで、こちらは新人編集者。だけど、それに怖気づいていたら仕事にならないし、相手にも失礼だ。ハッタリでもいいから、堂々と話す。そうすることで相手と信頼関係が生まれると考えていた。
ぼく自身、それを成功体験だと捉えてはいなかったが、無意識のうちに成功体験として蓄積されていたらしい。相手が誰であろうと、物怖じせずにハッキリ伝える。それがぼくのスタイルとして定着していることが、様々な打ち合わせの動画を見ていくなかで、自分で気づくことができた。
このスタイルがいい方向に転ぶこともあれば、悪い方向に転ぶこともある。ベテラン作家に接するような態度で、新人作家とも接してしまっているので、相手が圧を感じてしまうことがある。要は、相手に合わせた接し方ができていないのだ。
こうした気づきを得る機会をもっと仕組み化したいと思い、コルクでは『I'm beside you』という会社と新しい試みを始めた。
この会社では、日々行われているオンラインミーティングのデータを解析し、どのような傾向があるのかを分析してくれる。そして、社内のコミュニケーションをより健全なものにするために何が大切かを考えて、提案してくれる。オンライン時代において、企業内の⼼理的安全性を高め、メンタルヘルスを守ろうと取り組んでいるスタートアップだ。
コロナによってリモートワークが主流になった頃から、I'm beside youとは定期的に打ち合わせをしてきた。そして、昨今の生成AIの進化によって、こうした取り組みがさらに進化していくであろう予感を感じている。
先日、ぼくが若手社員とオンラインミーティングした際の会話データをChatGPTに読み込んでもらって、「相手の心理的安全性を脅かしている箇所を教えて」と依頼したら、即座に提案が返ってきた。
そのシーンを見返してみると、相手のためを思って言ってはいるけれど、相手の立場を理解した発言になっていないことがぼくにも一瞬でわかった。
ビデオに映っている姿を客観的に見ると、それが明らかすぎて笑えるほどだった。
ミーティング中は、どうやったら相手に伝わるかを一生懸命考えているので、自分を客観的に見ることは難しい。自分としては最善を尽くしたつもりだし、「きっと伝わっているだろう」という無意識の願望があるため、どうしてもバイアスが生じてしまう。
だが、こうしてAIから冷静に指摘され、ビデオに映し出された自分の姿を見ると、そこに言い逃れの余地はない。自分の振る舞いを変えていかねばと素直に受け止めることができた。
ここ最近、スポーツ界ではビデオ判定の導入が進んでいる。人間のレフェリーによる主観的な判定だけでなく、テクノロジーによる客観的な判定が加わることで、選手も観客も判定を納得感をもって受け入れやすくなってきている。それと同じようなことが、様々な現場で起こるのではないだろうか。
どんな時代になっても、どんな環境においても、人間同士のコミュニケーションの健全さを高めることは重要だ。
それをテクノロジーやAIが助けてくれる。そんな時代が訪ると、絆のあり方は変わるのだろうか?
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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