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「前例がない」は、褒め言葉ではない

「前例がないことしてるね」
「オリジナルだね」

 …と言われたら、どんな気持ちがするだろうか?

多くの人は、褒め言葉として受け取ると思う。でも、僕は逆のフィードバックと受け取る。言った人は褒めたつもりでも、自分たちはまだまだわかりにくい状態なのだなと僕は自己認識をする。

コルクは「編集」を科学したい。

属人的と言われている編集の仕事を、属人的ではなくしたい。マッキンゼーは、経営を科学して、新卒でも経営コンサルタントになれるようした。P&Gはマーケティングを。リクルートは営業を科学した。そのような会社が前例と言われたら、うまくいっているということだ。

具体では前例が見つからなくても、抽象では必ず前例は見つかる。「前例がない」という言葉を無邪気に褒め言葉として受けとってはいけない。

もしも、自分たちで、「これは前例がないプロジェクトだからね」といって、うまくいってない現状を肯定していたら思考停止が起きている。

そのことを気づかせてもらったのは、若手の前衛的な学者たちとのやりとりだ。

どんなに斬新に見える研究にも、前例は必ずある。研究とは、結びつきを見つける行為だ。誰もが、その人が指摘するまで、それを先行研究だと捉えていないようなものを発展させる。いい先行研究を見つけることができると、斬新になる。先行研究がないまま、研究をすることなんてできない。

だから、「前例がない」とか、「先行研究がない」と謳って発表される論文で、素晴らしいものは見たことがないと、その場にいた学者がみんな口を揃えて言った。

「前例がない」と言っているのは、抽象での模倣ができないことを、もっともらしく、甘えて言い訳しているだけなのだ。

新人マンガ家に「どんな作品を描きたいの?参考にしたい作品は?」と聞くと、「そういう作品は思い当たりません。真似るなんて絶対に嫌だ。クリエイティビティが下がる」という反応を受けることがある。その気持ちもすごくわかる。「オリジナルになりたい!」と強く切望しているのだから。

マンガでも、小説でも、映画でも、建築でも、祭りでも、なんでもいい。何か自分に大きなインパクトを与えたものを深く理解して、それを抽象で模倣して、自分の作品へと落とし込む。企画をたてるとは、誰もが簡単につながりに気づけない前例を見つける行為と言い換えてもいい。

「ドラゴン桜」の前例は、「クロカン」だ。同じ三田さんの作品だ。普通だったら、自己模倣はクリエイターとして耐えれない。野球を始めとしたスポーツを高校生が頑張る姿をかっこよく描いた作品は、「クロカン」を始めとしてたくさん存在する。でも、受験勉強をかっこよく描いた作品はゼロだ。「高校生の努力する姿をかっこよく描く」と捉えると、「ドラゴン桜」の前例となる作品は、急にたくさん思いつく。

クリエイティビティとは、自分の頭で、ああでもない、こうでもないとしている時には発揮されない。

前例となるものを集め、選定している時に、クリエイティビティは生まれる。そのあとの行程で挽回することはできない。

思考は、言葉でできている。
思考を深めるためにできることは、ひとつだけ。
使う言葉を精査することだ。
思考停止ワードを無意識に使ってしまうのを減らす。

今まで

「 頑張る 」
苦手
迷惑をかけるから

を思考停止ワードとして紹介してきたが、ここに「前例がない」「オリジナルだから」も足そうと思う。

ちなみに、最近もう一つ見つけた思考停止ワードは、「仕事だから」。これがなぜ、思考停止ワードだと思ったかは、また別の機会に。

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