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【マンガ専科本先出しnote】学びとは何か

プロマンガ家を育成するコルクラボマンガ専科は、今、第3期をむかえました。

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講師のごとう隼平さん、山田ズーニーさんとは何度も話し合いをし、講義内容の改善を重ねています。

マンガ専科からは毎月のように1万RTされるマンガが登場し、マンガ専科生の作品が月に何度もメディアに特集されるようにもなりました。OBは皆、学んだことを元に各自でマンガを描き続けています。

僕は、みんなの学びをもっと加速させたい。僕たちが築いてきたマンガの知見を開放したい。そのために、まだ過程ですが現時点での講義内容を本としてまとめて、一人でマンガを描いている人が悩みを減らせるようにしたいと思いました。

noteでは、その本の内容を先出ししていきます。(実のところ、noteを締め切りに使わないと完成しないという事情もあります。)隔週火曜日を目処に、マンガ専科でお伝えしている講義内容をお届けできればと思っています。

※ 以下は、講義内容を書籍化用に書き直したものです。講義レポート録『プロとして物語を描き続ける人になるために』と内容が一部重複します。

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◆マンガの学び方が変わった

「一流のマンガ家になるにはどうしたらいいか?」

この問に答えられる人は、ほとんどいないでしょう。同じように「オリンピックで金メダルを取るには?」「プロ野球選手になるには?」という質問に答えられる人もいないと思います。
「才能があるかどうかじゃない?」と答えたくなる人もいるかもしれませんが、僕はそうではないと思っています。僕が「コルクラボマンガ専科」を開講したのは、多くの人に「才能の有無でマンガ家への道を諦める必要はない」と伝えたかったからです。

マンガ家を含むアーティストやスポーツ選手などは、スキルを身につけただけでは一流にはなれません。しかし、スキルを身につけれる場所が、世間のどこにもない。スキルの価値が高い。そのため、マンガ家の場合は、スキルを習得するために、師匠について「修行」をする必要がありました。アシスタントを数年経験して、やっと自分の作品を描く……。そういったキャリアが一般的だった。

しかし、マンガ家になるために必要なのは、もはや闇雲な「修行」ではない。スキルの価値がどんどん下がってきていて、手に入れやすくなっている。

◆先行きの見えない社会における学び方の変化

現在は、学びが大きく変化している時代です。日本の学校教育を受けてきた人たちは、教科書や参考書で学び、テストでいい点を取ること目指します。しかし、未来が不確定な現代社会においては、教科書や参考書を超えた学びが必要とされます。絶対的な知識が持つ力が弱まっています。ネットによって、知識、スキルが民主化されています。

マンガ家への道も同様のことがいえます。マンガ家になるために、スキルを習得するもたしかに必要です。しかし、スキルの習得は、あまり難しいことではありません。暗記をすれば身につけられる。マンガのスキルは、昔に比べると、秘められたものではなくなり、本やネットで学べてしまう。

スキルを暗記した後に、どのように学ぶのか。そこの学び方が、一流なれるかどうかを左右します。

師匠を見つけてスキルを身につける時代から、スキル後の時代になったのです。

では、スキル後に必要なものは何か?

2つの発見です。
1つめは、自分が向き合いたい「問」。問が、自身が表現したいテーマへとなっていきます。
2つめは、「課題」。課題とは、表現したいことに対して足りないスキルのことです。例えば、「ストーリングテリング力が足りないな」とか、「イラスト力がまだまだだな」といったことです。具体的な課題が見つけれると、そのための解決策を自分で調べて、学ぶことができます。師匠は必要ない。

◆コミュニティで学ぶ重要性

「問」と「課題」は自分一人で、心の中でグルグルしていても、なかなか深まりません。必要なのは、コミュニティ。

自分で考えて表現したことを、コミュニティ内で発信し、フィードバックを受けることで、メタ認知ができる。メタ認知によって、自分の課題を見つけることができるし、問いが磨かれる。自分の実力へのメタ認知が、成長への鍵となります。

出版社の時は、作家一人ずつと打ち合わせをしていました。アドバイスをしても、その箇所が修正されるだけで、メタ認知の助けにはならない。一人の作家が、ちょっと成長するのに、何ヶ月もかかります。マンガ全体を完成させるための100段あるステップのうちのたったの1段を登るのに、数ヶ月がかかってしまう。

マンガ家に対して1対1で編集者が教え続けることは、編集者にとっても非効率なだけでなく、マンガ家にとってもよくない仕組みだと考えるようになりました。

コミュニティの中で横の関係でお互いが教え合うことができれば、縦の関係でアドバイスされるよりも、メタ認知が起きやすい。成長速度が上がる可能性がグッと高まる。マンガを上達させていくには、コミュニティの存在が不可欠だから、マンガ専科という形でスキルを伝えることにしました。

暗記すべき学びに関しては、山のように本が出ています。マンガ専科でももちろんスキルについてお伝えしますが、専科で重要なことは、講義で得たスキルを使ってアウトプットをして、コミュニティの中でフィードバックをもらい、自分で気づくことです。人は人によって磨かれていくものだからこそ、マンガ家になっていくには、仲間のコミュニティの存在が欠かせないのです。

◆水を交換するように学ぶ

続いて、コミュニティへ参加する姿勢についてお話しします。コミュニティには、情報や知識をただ受け取る「水を持ち帰る」姿勢で参加しても成長しません。受け身で参加しても、得られるものは少ないです。

大切なことは、「水を持ち帰る」という姿勢ではなく、「水を交換するんだ」という気持ちで参加することです。マンガ専科であれば、聞いたことをTwitterでハッシュタグをつけて発信する、あるいは、1ページマンガでレポートを描いてみるなど、受講した学びを自分なりに噛み砕き共有し合うことが求められます。

(▼)水をすくうのではなく、水を交換する

「水を交換する」という考え方で参加すれば、たとえ誰かが間違えた理解をしていてもメンバー同士がお互いに「そういう意味じゃないよ」と訂正しあえます。また、その過程を通じて教える側の理解も深まります。
つまり、「水を交換するんだ」という意識で全員が参加すれば、学習しあうコミュニティに育つのです。

◆マンガ家になるには習慣の壁を越えること

編集者がマンガ家のためにできることは、ごくごく限られたことです。経験のある編集者がついたからといって、一流のマンガ家になれるとは限りません。マンガ家になるために必要なことは、一つ一つの壁を超えていくことです。

具体的に、マンガ家になっていくためには、以下の6つの壁を超えていく必要があります。

【マンガ家になるための6つの壁】
①知らないの壁
②知識の壁
③行動の壁
④気づきの壁
⑤技術の壁
⑥習慣の壁

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それでは、この6つの壁について解説をしていきましょう。

①知らないの壁
ほとんどの人が、自分の「知らないを知らない」状態だといえます。マンガ家になりたい人は、マンガを読んで育ってきていて、自分も描けると思い込んでいます。しかし、マンガを描くためにはその前提となる知識が必要なのです。だからこそ、マンガ専科で自分の知らないことを自覚して、「知らないの壁」を超える必要があります。

②知識の壁
「知らないを知る」ことができたら、自分で講座にでたり、書籍を買ったりして、知識を集めていきます。

③行動の壁
知識を「知る」ことができたら、「行動の壁」を越えてください。コミュニティで自分のマンガを披露したり、Twitterで1ページマンガを描いたりと、「やってみる」という行動を起こすのです。

④気づきの壁
行動すれば、色々なフィードバックをもらえるようになります。コミュニティのメンバーから得られた知見、あるいは、自分のマンガを読み直すことで得た気づきを大切にし、次の作品に生かします。

⑤技術の壁
フィードバックを得る中で、「意図していた感想と違うな」というズレを発見し、自分の表現の至らなさに気づくことができます。これは、先述した自分の「課題」を見つけるということにつながります。

⑥習慣の壁
技術の壁を超えられると、「習慣の壁」に辿りつきます。定期的にコミュニティの中でアウトプットする習慣をつけ、フィードバックから学び、自身の課題を改善していきます。

マンガ家として生きていくためには、これらの壁を越えていかなければなりません。まずは、自分がどこの壁で躓いているのかを把握しましょう。

◆大事なのは「好きのおすそ分け」

マンガ家だけでなく、すべてのクリエイターに必要なのは、「好きのおすそ分け」をするという姿勢です。これは、20年近く編集者をしてきた僕が今も作品に向かう際に大事にしていることでもあります。

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これを読んでくださっている方の中には、「マンガ家として食っていきたい」「プロになりたい」という思いがある方もいるでしょう。そうした思いがあると、どうしても多くの人にウケるものを当てにいこうとします。しかし、他人の気持ちを予想してマンガを描こうとしても、なかなか自分が幸せにはなれません。マンガを描いても幸せになれないというのは、マンガ家として生きていく上で致命的です。

そこで必要なのが、マンガという表現手段を通じて、自分の「好きのおすそ分け」をするという姿勢です。そして、この「好きのおすそ分け」という気持ちを持ち続けて描けていれば、必ず個性的なマンガになっていきます。

コンテンツを作って、ファンの人に届けるという仕事の本質は、すべからく「好きのおすそ分け」という言葉に集約されます。「このマンガが好きのおすそ分けになっているのか、いないのか」を考えるだけで、自分が今、よい状態でマンガを描けているのかがわかります。そういう視点で、自分のマンガをチェックしてみてください。

次回は、具体的なスキルへと話が移っていきます。


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