「Badを食わせる」が、学びたい気持ちを育む
どうやったら、『学びたい』『自らを成長させたい』という気持ちを自然と育むことができるか。
育成に関わるなかで、ずっと考えている問いだ。
以前、『目標を自分ごとにする鍵は、振り返り』というnoteで、上司はメンバーの「目標設定」「目標管理」ではなく、「振り返り」に寄り添うことが大切ではないかと書いた。
振り返りを行うと、様々な感情を認識することができる。喜びや憧れもあれば、迷いや不安もある。そして、なぜ自分がその感情になったかを掘り下げていくと、「もっとこうないたい」「次はこうしたい」といった気持ちが自然と湧いてくる。これは誰かから求められたことではなく、その人自身の欲望だ。
コーチングでは「引き出す」という表現がよく使われる。まずは、相手がどう感じているかを傾聴し、相手が現状やこれまでについて語るなかで、相手自身が自分の課題を発見できるように働きかけていく。いいコーチングとは、振り返りのサポートだ。
学ぼうとする気持ちについて考えるなかで、コーチングへの理解を深めていったのだが、先日、重要だと思える新たな視点を得ることができた。
それに気づかせてくれたのは、先週のnoteでも紹介した、様々なチームやアスリートのスピードコーチをつとめる里大輔さんだ。
里さんは選手の動作を一瞬一瞬のコマに切り分け、無駄なコマを省き、必要なコマを挿入していく。選手がなんとなくやっていた動作を細かく分解し、求められるパフォーマンスを発揮するために、必要な動作と手順を組み立てていくことから、「パフォーマンスアーキテクト」とも呼ばれている。
様々な経験をしてきた里さんからすると、新しく担当する選手にとって何が必要で何が不必要かはすぐに見抜けるそうだ。だが、いい方法を思いついたとしても、「その内容をすぐには教えない」と里さんは言う。その選手なりのこだわりがあったりするので、いきなりアドバイスを伝えても、選手から反発を生む可能性があるからだ。
それよりも、里さんが心がけていることは、いい方法ではなく、悪い方法をたくさん経験させることだ。
「こうするとパフォーマンスが上がらない」という動きを数多く体験させることで、「言われてみれば、自分もそういう状態に陥っている時があるな」と選手自身が気づき、自分の動作を細かく見直したい気持ちがムズムズと湧いてくる。そんな風に、選手の学びたい欲求が高まったタイミングで、はじめて具体的なアドバイスを伝えるそうだ。
里さんはこれを「Badを食わせる」と表現していた。
ぼく自身を振り返ると、いい方法だと思えるアドバイスを思いついたら、すぐに相手に伝えるようにしていた。その内容を相手に強制しようとは全く考えていないが、自分の考えを率直に伝えることで、自分の視点や価値観を相手と共有したいと思っているからだ。
だが、どんなに美味しい料理を作っても、満腹の状態では受け付けられないのと一緒で、相手の学びたい欲求がないとアドバイスは意味を成さない。
里さんの話を聞き、次男と三男が通っている『きのくに子どもの村学園』を思い返した。
ここは小中一貫の学校なのだが、小学生の時は、算数や漢字のドリルを解くようなことは全然やらない。子どもたちが様々なことを自分たちで決めて、体験を通じて学ぶことを大切にしているので、子どもたちが「それをやりたい」と言わない限り、先生たちから促すことはしないのだ。
一方、卒業生たちの進路を見ると、有名な高校や大学に進学している子もいる。それは、子どもたちが様々なことを体験するなかで、学問の必要性を自分の頭で理解し、自ら率先して勉強するようになるからだ。
例えば、農業をしたり、色々なものをDIYしていくと、「数学や理科の知識があれば、もっとすごいことができる」と自らわかってくる。生徒が学びたい気持ちになったタイミングで、先生たちは効果的な勉強のやり方について教えるそうだ。中学になってからドリルを渡すと、一気に楽しみながら解く。小学生の時に、無理矢理、時間をかけてやらされるよりも、ずっと早く身につく。
社会人になると「学生の時にもっと勉強にしていたら」と思う時があるが、それと一緒だ。自分が探求したいことを知るなかで、学問の必要性がはじめて理解できる。自分の欲求がわからない学生のうちは、どうしても勉強のための勉強になってしまい、気持ちが入らない。そう考えると、『きのくに子どもの村学園』の教育方針はすごく的を射ていると感じる。
里さんも、『きのくに子どもの村学園』の先生たちも、学びたい気持ちにさせる働きかけがすごく上手い。
里さんの言う「Badを食わせる」を、作家や社員に向けて行うとしたら、どういうやり方があるのか。自分の課題ごととして、考えていきたいと思った。
おもしろきこともなき世をおもしろく
年末年始のような長期休みを適ごしていると、仕事をしたくてたまらない気持ちになる。
試したい仮説がたくさん思い浮かぶ一方で、世間は休んでいる。だから、じれったい気持ちで仕事が始まるのを待っていることが多い。起業したのは、仕事という遊びをもっとたくさんしたいと思ったからとも言える。
こういう話をすると、ぼくの中には、仕事に対する無線最のエネルギーがあるのではなれるかもしれない。しかし.そういう訳ではない。ぼくの中にあるエネルギーの量は、みんなと変わらない。ほとんどの人に違いなんてないだろう。
どれだけ簡単にモチベーションという火が消えてしまうか、知っている。それで、その火が消えないように工夫している量が人よりも多いからだ。
学生時代のぼくは、仕事なんてしたくなかった。面白いと全く思えなかった。でも、受験勉強をすると決めた時に、イヤイヤやるのではなく、楽しんでやることで乗り越えたように、今の時代、人生のほとんどの時間を仕事で費やす。ならば、仕事をとことん楽しめるようになったほうがいいと考えたのだ。
ぼくがずっと仕事を楽しんでいられるのは、日常的に次はこんなことをしてみたい!という感情が生まれように仕組み化できたからだと思う。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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