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作家性を損なわずに、作品を世界に届けるには?

昨年、中国へ出張した時に感じたことを、『復讐もの以外描けない。この現実について思うこと』というnoteに投稿した。

この10年近くで、中国のマンガ市場はとんでもない規模に成長している。基本的にアプリでマンガは読まれていて、人気を占めるのは「国漫(グォーマン)」と呼ばれる国産マンガだ。そして、そのほぼ全ては「フルカラー・縦スクロール」で描かれている。

この中国出張では、マンガ制作に関わる色々な人たちと話してきたのだが、多くの人が口を揃えて嘆いていたことがあった。

それが「復讐もの以外、描けない」という話だ。

アプリでヒットしている作品の多くが「復讐もの」の要素が色濃く入っているので、アプリ側がそれ以外の企画を受けつけてくれない。その結果、クリエイターが本当に描きたい作品が発表できなくなってきている。

作品のバラエティが失われ、作家性の高い作品が届けられなくなってしまう。そうした話を至るところで聞き、ぼくは大きな危機感を覚えた。

日本でもマンガアプリの影響力が強くなるにつれて、中国同様の流れが起きる可能性は高い。データをもとに作品を企画していくスタイルだと、売れている作品に追随してしまい、似たようなジャンルの作品が並んでしまう。

これまで散々語ってきたけど、「フルカラー・縦スクロール」というフォーマット自体には、ものすごく大きな可能性があると感じている。

なんといっても圧倒的に読みやすい。日本人だと子どもの頃からマンガを読み慣れているので理解しづらいかもしれないが、海外ではコマ割りが複雑なマンガを読むのが難しいと感じる人がいる。その点、縦スクロールは上下に動かすだけなので、難しさを感じる人は誰もいない。

これまでのマンガの中心が「モノクロ・見開き」だったのは、大量に印刷して書店で流通させるビジネスモデルに適していたからだ。スマホでマンガを読むようになり、紙の制約がなくなるなかで、はじめてマンガに触れる海外の人たちが、わざわざ「モノクロ・見開き」を選ぶだろうか。

だから、世界中に自分の作品を届けたいと思ったら、「フルカラー・縦スクロール」で描くことは大きなチャンスになる。でも、それは売れている作品を研究し、右に倣えでヒットを作ることではない。

ぼくは、自分と深く向き合っている創作物こそが、世の中にとっても、作者自身にとっても、一番価値の高い創作物だと思っている。

だから、コルクラボマンガ専科では、「現在はこういうジャンルがヒットするから、こういうテーマで描こう」みたいな授業は一切やらない。それよりも、「なぜマンガを描こうと思ったのか」「マンガ家として、どうありたいのか」など、自分の内なる感情に向き合う時間を多くとっている。

他人から評価されるために表現と向き合うのではなく、表現を通じて自分と向き合う。それがコルクが考えている創作のあり方だ。

とはいえ、マンガを配信するプラットフォーム側が「売れ筋以外お断り」状態になってしまったら、にっちもさっちもいかない。

だが、作家らしさを損なわずに作品を自由に発表でき、多くの人に作品が届けられる配信プラットフォームが生まれ出してる。

その一つが『Amazon Fliptoon』だ。

Fliptoonの最大の特徴は、Amazonが提供している電子書籍のセルフ出版サービスを通じて、誰もが自由に作品を書店に並べられることだ。

もともと、Amazonでは『Kindleインディーズマンガ』というサービスを提供していて、自分の描いたマンガをKindleで販売できる機会を提供していた。そこに「フルカラー・縦スクロール」も新たに加わった形だ。

『Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)』を利用すれば、有料販売ができ、売上の最大70%のロイヤリティを獲得することができる。また、無料販売であっても、「インディーズ無料マンガ基金」という仕組みを通じて、作品のPV数などに応じて、Amazonから分配金が支払われる。

この分配金の額がすごくて、2023年は年間で総額3億3,500万円が分配されたそうだ。コルクで一緒にやっているマンガ家・つのだふむ君が『糸島STORY』という作品を無料販売しているのだけど、その収益の総額が予想を超えた額になっていて驚いた。

小説の世界に目を移すと、アメリカやヨーロッパのセルフパブリッシング市場は近年大きく成長しており、多くの作家がKDPを利用して、自分の作品を発表している。出版社を介さずに、電子書籍のみでベストセラーとなり、その後に紙の本も出版するケースが増えてきている。

そして、この流れは小説だけでなく、マンガにも及んでいる。だからこそ、Amazonはマンガのコンテンツ拡充に力を入れ、様々なジャンルの作品をKindleやAamzonのブラウザ上で読めるようにしている。

この流れを象徴しているのが、現在開催されている『Amazon Fliptoon 縦読みマンガ大賞』だ。Fliptoonのコンテンツ拡充を目的に、「フルカラー・縦スクロール」の作品を募集するマンガ大賞で、賞金の総額はなんと1億円。この額から、Amazonの力の入れ具合が伝わると思う。

コルクで一緒にやっているマンガ家も何人か応募していて、編集者とタッグになって応募するメンバーもいれば、自発的に応募をしたメンバーもいた。そのどれもが、いい意味で、今流行っている「フルカラー・縦スクロール」のマンガっぽくない。すごく作家性のある作品が出揃った。

・『運命のリフォーカス』つのだふむ

・『大獄のバベル』羽賀翔一・ワタベヒツジ

・『ステージライトの向こう側』秋野ひろ

・『倫子と愛澄』つきはなこ

・『シンママ美影さんとイケメン保育士純先生はみよちゃんの胸キュン大作戦にタジタジです! 』はるむすび

Amazonの歴史を振り返ると、「ロングテール」という概念が欠かせない。

一般的な小売店では、上位20%の人気商品が全体の売上げの80%を稼ぎ出すことから、人気商品を大切にする。いわゆる「パレートの法則」の考え方で戦略を組み立てる。一方、Amazonは、その他大勢の80%の売り上げを積み立てることで、巨額の利益を作ることに成功した。

100人中1人に深く刺さるようなニッチ商品を幅広く取り扱い、その商品を求める顧客とのマッチングを最適化させていく。それがAmazonの得意とすることだ。

作家性を磨きながら、「フルカラー・縦スクロール」に挑戦したい作家にとって、『Amazon Fliptoon』は活用すべき発表の場だと思ってる。

個人でAmazonをプラットフォームにすると独占的な契約になってしまいやすいが、コルクのようなエージェント経由での契約なら、非独占で全ての場におろすこともできる。

コルクでは、作家が自分の描きたいものを描けるようになるため、メディアから独立して、インディペンデントに活動できる仕組みを模索してきた。

SNSが発展する前は、どこかのメディアに自分の作品を掲載しないと、創作活動を続けることはできなかった。しかし、SNSが発展し、ファンコミュニティによって継続的に収入が発生する現在は、メディアに依存しなくても活動を続けていくことができる。

クリエイターの価値を最大に高めていくには、どういう活動が望ましいのか。それをエージェントとしてプロデュースしていくのが、コルクの編集者に求められる役割だ。

そうした中で、Amazonのセルフパブリッシングは、ぼくらの活動において、すごく重要な位置を占めていくだろう。

コルクの作家が投稿した5作品。
どれも力作なので、ぜひ読んでほしい!


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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