「わかった」はコミュニケーションの失敗
「わかる」という概念について、考え続けている。
まず、「わかった」という言葉を、自分に向けて使う時と他者とのコミュニケーションで使う時の2パターンにわけたい。
まずは、自分に向けての、内省的な「わかった」。
以前、こんなnoteも書いた『人生の推進力は、勇気ではなく、わかったつもり』。本当に何かをわかりきるなんてことはない。常に「わかったつもり」でしかない。
その「わかったつもり」の時に、根拠なき自信が生まれて、挑戦できる。それで、失敗を経験するなかで学びを得て、また新しい挑戦へと踏み出していく。その繰り返しを生むきっかけになるから、「わかったつもり」は悪くない。
この気づきを与えてくれたのは藤原和博さんで、ぼくは脳天をガツンと叩かれた気持ちだった。「わかったつもりになるな」という他者へのアドバイスは、成長を促すどころか、奪うことになりかねない。
藤原さんは、学校とは「わからせる」場所ではなく、子供たちを「わかったつもり」にさせる場所だと言う。いい授業とは、相手が本当にわかるように丁寧な説明をすることではないのだ。学びの場とは、「わかったつもり」にさせる場なのだ。
以降、ぼくは打ち合わせのあり方を見直した。相手をわからせるのではなく、「わかったつもり」にさせる打ち合わせとは、どんなものかを考えるようになった。
一方、他者とのコミュニケーションで「わかった」「なるほど」という言葉がでてくることがある。
この言葉は、内省の「わかった」とは全く別物で、他者とのコミュニケーションを終わらせるものだ。次の行動に移るものではない。相手が「わかった」と言って終わるのは、いいコミュニケーションだと思っていたぼくにとっては、かなり大きな気づきだ。
先日、友人の石川善樹の父親であり医師でもある石川雄一さんが、どういう風に生活習慣病の患者と向き合っているかを聞いたことで、思考が進んだ。
多くの医者は、その生活習慣を継続することのリスクを説明することで、患者の生活習慣を変えようと試みる。つまり、患者にわからせようとする。しかし、医師からの説明を聞き、「わかりました」と答えた患者のほとんどは、生活習慣を変えない。学校の教室と同じだ。生徒に理屈をわからせても、行動できない。「わかったつもり」にさせないといけない。
では、雄一さんはどのように患者と向き合っているのか。
例えば、ストレスで喫煙の回数を減らせないという患者に対して、喫煙が体に悪いからやめろと言わない。「ストレス大変そうですね。ストレスが心配だから、いっそのこと喫煙をもっと増やしてみたらどうですか?」と提案したりするそうだ。患者から「そうなると、死んじゃうんじゃないですか?」と言われたら、「人間誰しも、いつかは死にますからね」と答えたりするらしい。
そんなやりとりをした後に患者がいう言葉は「すっきりした」。すっきりした患者は、自分で考えて自然と喫煙をやめていく。
論理的に説明して、不安を煽らなくても、喫煙の害はそもそも患者もわかってる。それでも、やめれないから、病院にきている。患者は頭でわかりたいのではない。感情に寄り添ってほしくてきてる。その時に、医師が論理でわからせようとしたら、患者は「わかりました」とコミュニケーションを閉じる。「すっきりした」は、内省の「わかったつもり」と近い。感情的に動けるということだ。
子どもとのコミュニケーションで、子どもが「わかったよ」という時は、だいたい同じ問題がまた起きる。子どもが求めていたのは、論理的な話じゃない。モヤモヤに寄り添ってほしいということだ。
「わかった」という言葉は、感情的に寄り添って欲しかったけど、それは期待できないからコミュニケーションを閉じたいというサインだとも言えるかもしれない。
コミュニケーションの目的は、相手をわからせることではない。本当のわかったなど、どこにもないのだから。
自分が相手と比べて知識を豊富にもっていると、相手のためにと思い、つい教えてくなるのが人間の性だ。また、そのほうが物事が進むスピードが早く、お互いのためになると思いがちだ。だが、それは近道のようで、実は遠回りになっている可能性が高い。
目的は相手を「わかったつもり」にすること。つまり「すっきり」してもらうことだ。「わかる」についての考察も、結局は、ここ数年の僕の課題、どのように寄り添うのかにたどり着いた。
岸田奈美のnoteで、病院の人がやっていることは、相手をわからせることではない。すっきりさせる方法はどこにもない出来事だからこそ、すっきりもさせず、ただ寄り添おうとしてる。あえて状況をあいまいにする。「わかる」の彼岸にあるコミュニケーションを描いていて、今回のぼくのnoteと緩やかにテーマが共通していると感じた。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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