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人生の推進力は、勇気ではなく、「わかったつもり」

なんで起業したのかとインタビューでよく聞かれる。その時にぼくは、本当の理由を話さない。身も蓋もないし、インタビューする人が聞きたい答えではないから。

簡単に言うと「バカだったから」だ。起業とは、どんなものなのかよくわかっていなかった。知らなかったから、挑戦できた。

僕の行動の推進力となっていたのは、勇気でも、戦略でも、知識でなく、「わかったつもり」だった。

僕は「わかったつもり」は悪いことだと思ってきた。「わかった」と思った瞬間に、好奇心や探究心は途絶えてしまう。だから、「わかったつもりになってるのでは?」と、新人マンガ家たちに打ち合わせの時に言っていた。

だが、「わかったつもりになるな」という言葉は、彼らの成長を促すどころか、成長の機会を奪う結果になっていたかもしれない。

そんな風に、考えを180度改める気づきを得る機会があった。

元和田中学校の民間校長になった藤原和博さんだ。藤原さんに不登校の長男のことを相談していた。そうしたら、こんな風に言われたのだ。

学校とは「わからせる」場所ではなく、「わかったつもり」にさせる場所だ。「わかったつもり」になるから動ける。

「わかる」という行為は、主体的な行為だ。誰かのわかりやすい話を聞いて、「わかる」ことはない。「わかったつもり」になって、行動して、失敗して、あれっとなり、自ら考え、再度行動する中でわかっていく。

知識でわかろうとすると、動けなくなる。自分で動いて、自分で経験しない人はいつまでもわかれない。相手がわかるようにどこまでも丁寧な説明を考えることに意味はない。「わかったつもり」になるのが実はいい授業で、学校の役割は、わからせることではなく、わかったつもりにさせて、自分で学び、調べたくなる動機付けをさせることなのだ。

「わかったつもりにならせる」とは、生徒を失敗へとうまく導き、経験によって学ばせる、厳しくもあり愛のある指導法なのだ。

この話を聞いた時、ぼくは脳天をガツンと叩かれた気持ちだった。

僕の打ち合わせは、「わからせ」ようとしていた。僕がマンガの知識を披露する打ち合わせになってしまっていると言えるかもしれない。そうではない。作家が、わかったつもりになって、自信満々に出せるよう勘違いが生まれる声がけをしてもよかったのだ。

僕の「わかったつもりになってるのでは?」という問いかけが、新人マンガ家の挑戦心の火を消してたかもしれない。

「失敗をしろ!」と言われて、失敗できる人はいない。どんな人も失敗すると思うとひるむ。みんな、成功すると思って挑戦する。それで、失敗する。その勘違いこそに価値がある。その勘違いを生んでくれるのが「わかったつもり」だ。

そもそも、人間が何かに挑戦する時は、「自分ならできるだろう」と根拠なき自信からはじまることが多い。それは素敵な、幸せな勘違いなのだ。その勘違いは指摘しちゃいけない。

僕も30代前半で起業したわけだけど、「まわりもみんなやっているし、自分も大丈夫だろう」という根拠なき自信からはじまった。だが、いざ会社をはじめてみると、いかに自分が「わかったつもり」だったかを嫌というほど思い知らされる。僕が経営や組織づくりを本気で学びはじめたのは、起業した後だ。

思い返すと、起業前に、尊敬する経営者の先輩たちに相談しにいったのだが、誰ひとりも起業に反対しなかった。むしろ、背中を押してくれるような言葉を沢山かけてくれた。

それで僕は、自分が考えている事業計画はいいアイデアなのだと、勝手に自信を得たのだけど、今、振り返るとそうではなかったのだろう。みんな、心の中では、ぼくが「わかったつもり」になっていることが見えていたと思う。

でも、そこには触れず、あえて「やってみなはれ」と送り出してくれた。

それは、失敗によって、はじめて学ぶものがあることを、みんな知っていたからだ。もし、「わかったつもりになっているだけだよ」と、経営の難しさを懇切丁寧に教えてくれる人がいたら、思い止まっていたかもしれない。でも、思いとどまらなくて、今僕はすごく幸せだ。

人が成長するために最も必要なのは、他人から聞いた知識ではなく、自分で身を以て学んだ経験だ。体験でしか、人は変われない。

どうやって、新人マンガ家のみんなを、その先へと進みたくなる「わかったつもり」にできるか。僕は、向き合うべき、新しい問いを見つけた。


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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。