“情報“として伝えるのと、“物語“として伝わるの違い
「物語の力で、一人一人の世界を変える」
このミッションをコルクでは掲げているが、最近、「物語の力」について改めて再認識している。
以前に『見えないものに気づく、大胆なポジションチェンジ』というnoteでも紹介したが、ぼくがAIを使って作成したマンガを、マンガ家の羽賀翔一君に添削してもらう企画をYouTubeではじめた。
マンガを描きはじめたばかりの人や、マンガを描くことに興味がある人。そうした人たちに向けて、マンガを描く面白さやマンガ表現の奥深さを伝えていきたい。
そう思ってはじめた企画なのだが、ぼく自身、学ぶことがすごく多い。
ぼくがマンガを作るときは、「伝えたいこと」をまず決める。次に、それを伝えるには、どういうセリフや絵が必要かを、Chat-GPTと相談する。そして、その内容をコマに割り振っていきながら、ネームをつくっていくのだが、なかなか上手く進まない。
コラムで書けばいいような文章を、ただコマに割り振って、絵を添えただけのような仕上がりになってしまう。編集者のぼくが、新人マンガ家に「やってはいけない」と伝えている内容を、ぼく自身で再現してしまっている。
そんな原稿を羽賀君に提出するのだが、羽賀君が添削してくれた原稿を見ると、毎回、羽賀君の才能に打ちのめされる。
伝えたいことが、わかりやすく表現されているだけじゃない。キャラクターらしさが惹き立つ細かい工夫や、遊び心が散りばめられていて、原稿を眺めているだけでも面白い。「これぞ、マンガだ」と思わず唸ってしまう。
ぼくと羽賀君のマンガを読み比べてもらうと、同じ情報を扱っているのに、受け取る印象が全く違うことを感じてもらえると思う。
ぼくのは「情報」をマンガ風に整理しただけ。
羽賀君は、ぼくから届いた情報を「物語」に生まれ変わらせている。
この企画では、どういうことを考えて描いたのかを羽賀君に聞くのだが、いつも羽賀君が強く意識していることがある。
それはキャラクターをどう伝えるかだ。
ぼくの原稿で起こりがちなことが、情報をわかりやすく伝えたいと思うあまりに、説明っぽいセリフをキャラクターに話させてしまうことだ。現実では言わないようなセリフを、話の展開をわかりやすくするために、あえて言わせてしまう。いわゆる「キャラ変」が起きてしまう。
でも、羽賀君は「そのキャラらしさ」をすごく大事にしていて、そのキャラから逸脱するようなセリフや動きは絶対に入れない。そのキャラらしさを考え抜き、セリフやアクションをはじめ、原稿の様々なところに「らしさ」を散りばめていく。
だから、原稿を読んでいると、キャラの人となりが伝わり、「きっと、この人物はこういう人生を送ってきたのではないか」「この先、こういう歩みをしていくのではないか」といったイメージが頭の中で勝手に膨らむ。
原稿に描いていないところまで、読者が自然と想像できる。
伝えるではなく、伝わる。
これが「情報」として伝えることと、「物語」として伝わることの決定的な違いだ。
そのことが如実にわかるのが、以下の動画だ。
コルクでは、元ロードオブメジャーのけんいちさんと一緒に曲作りをしているのだが、けんいちさんが現在制作している新曲がすごくいい。打ち合わせの際に、「この曲を作ろう」と思った経緯を聞かせてもらったのだけど、そのエピソードも心に響くものがあった。
それで、新曲にまつわるエピソードをマンガで描いてみることで、ぼくからけんいちさんへのフィードバックになればいいと思い、題材として扱わせてもらうことを決めた。新曲のデモ音源を、けんいちさんがnoteにアップしてくれているので、こちらも添削動画と併せて聞いてみてほしい。
今回のマンガでは、けんいちさんの亡くなったお父さんについて描いているのだが、ぼくと羽賀君のマンガを比べると、受け取るものが全く違う。
羽賀君のマンガを読んでいると、お父さんの生き様だったり、けんいちさんの曲に込めた想いが、じんわりと伝わってくる。
それも、お父さんがどういう人物だったのかをクドクドと説明しているわけでもない。お父さんがお風呂を洗っている様子や、お母さんとの短い会話のやり取りから、お父さんのキャラクターを浮かび上がらせている。たった数コマの表現なのに、お父さんの人となりが伝わってくる。
その人が歩んできた人生を、数コマに凝縮させる。この技術というか、才能を持っているのが、実力のあるマンガ家なのだろう。
キャラクターをどう立てるか。
これは情報をわかりやすく伝えることとは全く違う。企業のサービスを紹介する広告にマンガがよく使われているが、そうしたマンガの多くは情報を整理して伝えるだけだ。サービスへの理解は深まるけど、そのサービスに共感することはない。それはキャラクターがしっかりと描けていないからだ。
そのキャラらしさを浮かび上がらせ、キャラクターへの共感を通じて、伝えたいメッセージや感情を多くの人に届ける。これが「物語の力」なのだ。
コルクでは「企業にある物語をマンガで届ける」と題して、ブランディングマンガの事業にも力を入れているが、ぼくらがやろうとしていることはそういうことなのだ。
会社のミッションやビジョン、事業や商品に込めている想い。そうしたものを「情報」として発信するのではなく、物語として伝わるようにする。それが、ぼくらが目指している姿だ。
羽賀君と一緒に企画をやることで、「物語」というものへの解像度が、以前より高まっていることを感じている。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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