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無意識に生じる「被害者意識」を、どう捨てるか

平野啓一郎の「分人主義」とともに、ぼくの人生観やものごとの考え方を大きく変えたものがある。

アドラー心理学だ。

アドラー心理学では「他者は仲間である」と認識することが重要だと言う。人は他者に対し基本的には悪意を持っていないし、こちらが悪意を持たなければ、仲間になれる可能性がある。

この時に必要なのは「自分が変わらなければ、相手も変わらない」という考え方だ。相手は自分の仲間なのだと信頼し、自らを変えていく。コルクでは「さらけだす」を行動指針に定めているが、「さらけだす」の根底にはアドラー心理学からの学びがある。

そして最近、コルクに新しい社員が増え、どうやったら一人ひとりの才能が開花する組織になるかを考えるなかで、アドラー心理学の本である『幸せになる勇気』に書かれている「三角柱の話」を改めて思い出した。

カウンセラーが用いる三角柱の一面には「かわいそうな私」。もう一面には「悪いあの人」。カウンセリングに来る人の多くは、「かわいそうな私」「悪いあの人」のいずれかの話に終始するそうだ。

ただ、その二面は、本当に語るべきことではない。それで、カウンセラーは、最後の一面を見せる。そこには、なんと書かれているのか。

「これからどうするか」

カウンセラーはこの三角柱を相談者に見せて、「どの話をしてもかまいませんので、いまからしゃべる内容を正面にして見せてください」とお願いをする。すると多くの人は、自ら「これからどうするか」を選び、話を始める。

この話の教訓は、いかに人は「かわいそうな私」「悪いあの人」ばかりを語ってしまうかだ。人は誰しも自分を正当化し、自分が間違っていないことを誰かに承認してもらいたくなる。そうした無意識の被害者意識が「これからどうするか」という視点を曇らせてしまうのだ。自分が変わるのではなく、他人が変わることを期待してしまう。

無意識のうちに発生する被害者意識をどう捨てていくか。それこそが、自分自身を救うための思考法だとぼくは考えている。

ぼく自身、被害者意識を抱いてしまい、大きく後悔したことがある。それは中学時代に過ごした南アフリカでの日々だ。

父親の仕事の関係で移ることになったわけだが、ぼくとしては日本で学校生活を送りたかった。仲のいい友達と離れることに、ものすごい抵抗があった。親の仕事のせいで、自分が犠牲になったような被害者意識を感じ、まさに「かわいそうな私」という気持ちを捨てきれないでいた。

だが、日本に戻った後、中学時代を南アフリカで過ごしたことを他人に話すと、「普通の人には滅多にできない経験をしたね」「学べることが多かったんじゃない」と言われることが多く、自分がいかに貴重な経験を積むことのできる環境にいたのかを思い知った。

もし当時の自分が被害者意識を捨て、「これからどうするか」をもっとしっかり考えていたら、南アフリカでさらに貴重な経験ができていたんじゃないか。もしかしたら、自分はものすごく勿体無い過ごし方をしてしまったのではないか。

そんな風に考え、「勝手な被害者意識は捨てよう」「自分が気づいていないだけで、目の前の環境はチャンスかもしれない」と10代の頃から意識するようにしてきた。そうした自分への戒めが、自分を今の場所にまで運んできたように感じる。

ぼくが被害者意識を感じる時は、たいてい疲れている。だから、あまり考えず、とにかく肉体を回復させる。すると、精神もついてきて、これからどうするかを考えれるようになる。どうするかを考えて動いていると、自然と状態が変化していく。

先日、『わかったはコミュニケーションの失敗』というnoteにも書いたが、感情が弱っている時は、気持ちを「すっきり」させることにぼくは軸足を置く。まずは、すっきりした状態になることを目指し、その後に「これからどうするか」を考えている。


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。また、ぼくがどのようにして編集者としての考え方を身につけていったのかを連載形式でシェアしていきます。コルク社内の中堅社員にインタビューをしてもらってまとめた文章を有料部分で公開します。

新人には限界が分からない

周りの人のサポートを100%全力でやっていたら、編集部で「佐渡島が忙しすぎる」ということになり、いくつかの立ち上げ作品を引き継いでもらったことがあった。

既存の先輩と一緒にやってる3本の担当作品に加え、『ドラゴン桜』『チーズスイートホーム』『ポンズ百景』、3つの連載を立ち上げようとしていたのだ。

『チーズスイートホーム』は猫が主人公の漫画でアニメ化もしている。雑誌『BE・LOVE』ですでに人気作家になっていた、こなみかなたさんに『モーニング』でも人気作を作ってほしいと考えた編集長が、ぼくに提案してくれた仕事だった。

「猫漫画でヒットを出す」というのは、猫好きという訳でもないぼくだけでは到底叶わないもので、どうしたらいいのかわからない。

それで周りの先輩たちに相談をしまくっていたら、ヒットの法則を教えてくれた。

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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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