
新人が意識すべきは、より「先に」ではなく、より「奥」へ。
以前、『若いうちは、量をこなすべきは本当か?』というnoteを書いた。
量をこなして経験を積んでいけば、自然と仕事の質は上がっていく。はじめから質を上げようとじっくりやっていても、再現性は身につかない。だから、「若い時の苦労は、買ってでもせよ」と言われるのだろう。
だが、まだ実力が乏しい新人の時に、量を追求しようとオーバーワークし、鬱っぽくなってしまう人もたくさんいる。次第に、「若いうちは量をこなすべき」と若い人に伝えるのは、酷なことだと考えるようになった。
では、新人が重視すべきは何なのか? それはスピードだ。
新人のうちは、粘ったところでクオリティの高いものを出すことは難しい。なぜなら仕事とはやってみないとわからないことばかりだからだ。であれば、スピードを意識し、アウトプットを早く出して、フィードバックをもらう回数を増やすほうが、よっぽど成長する。
スピードを追い求めると、雑なアウトプットになるだろう。それでも、スピードを出せたことをまずは評価する。スピードがあれば、自然と量がこなせて、質はついてくる。「拙速は巧遅に勝る」という言葉があるが、新人に関しては、この言葉がまさに当てはまるのではないか。
こうした話を以前のnoteで書いたのだが、新人時代に大切だと思うことについて、もう少し深掘りをしたい。
当たり前の話だが、人間の成長にはインプットとアウトプットの両方が必要であり、両方をバランスよく行うことが重要だ。そして、スピードが重要とはアウトプットにおける話であり、インプットにおいてはそうではない。
インプットにおいて重要な概念。それは、スピードの逆、「ゆっくり」だ。
編集者の仕事をしていると、読書量が大切だと考える新人編集者や新人作家と出会うことが多い。だが、読んできた量よりも、読み方のほうがずっと重要だ。たとえ1冊であっても、自分が心の底から感動した作品について、豊かに語れる人のほうが、圧倒的に魅力的に感じる。
たったひとつのフレーズや描き方に至るまで、「なぜ作者はこういう表現をしたのだろう」と考え、何度も何度も噛み締める。そうした姿勢から導き出させれた発見こそが深い学びであり、自分が創作する時の道案内になる。
だからこそ、新人作家や新人編集者に、ぼくは「精読」を薦める。時間をかけて、考えながら、ゆっくりと作品を読む。読み終わらなくてもいい。
小説家の平野啓一郎さんの『本の読み方 スロー・リーディングの実践』という本は、「ゆっくり」読むことの大切さを語ってくれているのだが、こんな一節がある。
ある作家のある一つの作品の背後には、さらに途方もなく広大な言葉の世界が広がっている。どの一つの連鎖が欠落していても、その作品は生まれてこなかったかもしれない。言葉というのものは、地球規模の非常に大きな知の球体であり、そのほんの小さな一点に光を当てたものが一冊の本という存在ではないかと思う。一つの作品を支えているのは、それまでの文学や哲学、宗教、歴史などの膨大な言葉の積み重ねである。そう考えるとき、私たちは、本を「先へ」と早足で読み進めていくというのではなく、「奥へ」とより深く読み込んでいくというふうに発想を転換できるのではないだろうか?
作者は一体、何を言おうとしているのだろうか? そしてその主張は、どんなところから来ているのだろうか? それを探るのは、常に、奥へ、奥へと言葉の森を分け入っていくイメージである。
「先へ、先へ」ではなく、「奥へ、奥へと」という意識でインプットを深める。そのためには「ゆっくり」が重要になる。
そして、これは読書だけでなく、様々な世界においても同様だ。たとえば、料理の世界においても、ゆっくり食べることが大切と言われている。ゆっくり噛むことでだんだんと味が変わり、食材に閉じ込められた成分をしっかり感じることができる。得られるものが全く変わるのだ。
早くよりも、「ゆっくり」の方が実は難しい。ゆっくり歩くのは、早く歩くことよりも難しい。ゆっくり話すことも、早く話すよりも難しい。
いかにゆっくりするのか。それが奥へといくための方法だ。
今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。
また、ぼくがどのようにして編集者としての考え方を身につけていったのかを連載形式でシェアしていきます。コルク社内の中堅社員にインタビューをしてもらってまとめた文章を有料部分で公開します。
※今週の「20代の振り返りコラム」はお休み。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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