型を固めることで、「オルタナティブ」は生まれる
どうやって編集者が育つ組織をつくりあげていくか?
ぼくのnoteで何度も触れているが、コルクの経営者として、いま最も力を入れていきたいテーマだ。
そして、その取り組みの一環として、編集者としての実務における知見を型化して、共有する試みをはじめている。このことは『編集者が育つ環境を整えるべく、自分の「べき」を棚卸し』というnoteに詳しく書いた。
例えば、取材対象者へ依頼メールを送る際には、どんな文面がいいのか。どんな風に、日程調整を進めていくのがいいのか。事前の下調べとして、何をするといいのか。取材場所の手配では、どういうことを意識すべきか。
編集者として働くうえで発生する具体的な実務を棚卸し、それぞれのポイントや、気をつけるべき落とし穴について細かく明記していく。編集者として働くための「マニュアルづくり」と言ってもいいかもしれない。
こうした知見には絶対的な正解はなく、編集者ごとに様々なスタイルが存在するはずだ。ただ、「ぼくの場合なら、こうする」と、自分の考えを細かくまとめあげる。そうした作業に取り掛かっている。
この取り組みを着手した背景は、コルクを応援してくれる複数の外部の人たちから、共通して指摘されたことだ。ぼくの知見をマニュアル化し、それを最初の型として手渡していったほうが、新人編集者が動きやすくなるのではないか。そういう旨のアドバイスを多くの人からもらい、挑戦してみようと思い至ったのだ。
ただ、いざ実行しようと決断したものの、まだ心の中にわだかまりが残っていた。
やはり、ぼくの想いとしては、社員のみんなには、ぼくが想像もできないようなことをやってもらいたい。
ぼくが考える「プロフェッショナルな編集者集団」とは、一人ひとりの編集者が個性を発揮し、ぼく一人では想像もつかなかったような面白い企画が続々と生まれるようなチームだ。
自分の知見をマニュアル化して伝えていくことは、自分のコピーロボットのような存在をつくることではないか。型を共有することは理想と逆行する行為ではないか。そうした気持ちを消し去ることができていなかったのだ。
だが、先日、『感情の民俗学 泣くことと笑うことの正体を求めて』という本を書いた民俗学者の畑中章宏さんと対談する機会があり、自分が抱えていたモヤモヤが吹き飛ぶ話を聞いた。
しっかりとした型を作ると、その型に疑問を持ったり、その型を更新しようと思って、異なる型を見つようとする人たちが現れる。それによって多様性が生まれてくケースが、民俗学を研究する中でよく見かけると言うのだ。
そして、そうした型破りな人たちのことを、「オルタナティブな存在」と畑中さんは呼んでいて、すごくしっくりくる表現だと感じた。
オルタナティヴとは、「もうひとつの選択肢」「代替手段」といった意味合いの言葉だ。既存の型と新規の型、どちらが優れているといったわけでもない。ただ、選択肢が多様になることで、自分たちができることの幅が広がっていく。
ぼくが目指したい組織のイメージとは、様々なスタイルの編集者がいて、それぞれの個性がうまくチームとして機能することで、新しいものを次々と生み出していくような組織だ。まさに、自分が目指したい組織とは、オルタナティブな存在がたくさんいる組織のことではないだろうか。
そして、オルタナティブな存在をつくるには、型をしっかりと固めないといけないという指摘も新鮮だった。
型が明確になっているからこそ、疑問点やツッコミどころが見つかる。逆に、型が曖昧なままだと、そこから発展させるのが難しい。
思い起こせば、「〇〇流」と謳っているようなものは、全てオルタナティブな存在だ。本家となるものの型がしっかりあるからこそ、派生系だったり、全く型破りな発想で「〇〇流」が生まれる。そして、様々な「〇〇流」が生まれることで、文化として豊なものになっていく。
これまでのぼくは、枠組みがない自由な状態のほうが、クリエイティブなものが生まれやすいのではないかと思っていた。でも、それはぼくの勝手な勘違いだったのだ。
自分がやろうとしている取り組みも、編集者としての「佐渡島流」の型をまとめていく行為だ。その型を明確化していくことで、疑問点やツッコミどころが見つかりやすくなるだろう。その先に、オルタナティブな型を見つけてくれる社員が現れてくれるかもしれない。
自分のコピーロボットを作るためではなく、オルタナティブな存在を生み出すために、自分の知見を型化していく。そういう風に自分の活動を捉え直すと、すごくワクワクしてくる。
畑中さんの話を聞き、自分が進む道に対して迷いが減った。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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