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意外と知られてない、「修行」の本当の意味

佐渡島庸平(コルク代表)

言葉について理解を深めていくと、自分の思考を見直すキッカケになる。

多くの人は「修行」という言葉を使う時、何かしらのスキルを獲得するために鍛錬することをイメージすると思う。職人になるために修行するとか、武芸を極めるために修行するとか。ぼく自身、そういう風に捉えていた。

だが、語源を調べていくと、そうでないことがわかる。「修行」とは仏教における精神鍛錬に関する用語のひとつで、財産・名誉・性欲といった人間的な欲望から解放され、生きていること自体に満足感を得られる状態を追求することを指す。

なぜ「修行」という言葉に誤った認識が生まれてしまうかというと、「修業」という言葉があるからだ。本来、スキルや習得する行為は「修業」なのだが、似た言葉として意味が混同され、「修業」の意味合いで「修行」が使われるようになってしまった。

全てを手放し、全てを諦め、なにものにも執着しない。こうした仏教的な考え方は、ここ数年のぼくにものすごく影響を与えてきたのだが、「修行」とはそうした心のあり方を目指す行為を指す言葉だったのだ。

では、仏教の世界における修行とは、どんなものなのか。今年、コルクでは、日蓮の教えをマンガにした『あなたは尊い』という本を出した。

先日、その出版を日蓮聖人に報告するために、この本を描いたマンガ家のやじまけんじ君と一緒に、日蓮宗の総本山である身延山久遠寺に足を運んだ。立派な本堂にマンガを並べってもらって、お経をあげてもらった。その後の懇親会で、お坊さん、に色々な話を聞かせてもらったのだが、その中で印象深かったのが修行の話だ。

日蓮宗には「大荒行」と呼ばれる100日間の修行がある。この修行を終えた僧は修法師の資格が与えられ、修法と呼ばれる日蓮宗特有の加持祈祷を行うことができる。一人前の日蓮宗の僧侶になるためには、避けては通れない修行なのだ。

この大荒行は、1年の中で最も極寒の100日間に行われるのだが、毎日、午前3時前に起床し、午後11時までに7回の水行をし、合間は読経を行う。昼食はなく一日二食で、一汁一菜の粗末な食事。衣は薄い木綿の単衣と麻の如法衣だけ。入行からしばらくすると、厳しい寒さで、手足のあちこちにあかぎれやひび割れたができるらしい。

まさに文字通りの荒業なのだが、飢えと寒さと睡眠不足によって、次第に自分の中の欲望が消えていく。そして、最終的には、今まで見えなかったものが見えてきたり、感じられなかったものが感じられるようになるそうだ。そして、周囲にいる人、環境の有り難さを感じ、感謝できるようになる。その状態になってやっと、学びが始まる。

修行とは、何者かになるために行うものではなく、何者かになりたいという欲望すら消し去るために行うもの。そして、その極地に立って、初めて見えてくるものがある。

クリエイターと仕事をしていると、多くのクリエイターは「何者かになりたい」と思って、作品をつくっている。その欲望自体は悪いものだとは決して思わない。そうした強い欲望は、創作意欲や探究心の源泉になる。

だけども、創作とは何者かになるための手段ではなく、創作自体が目的となる状態が、創作者にとって一番理想的な状態ではないか。創作する喜びから作品を描く方が、よりいい作品が生まれる。創作によって何者かになるためには、逆説的に何者かをめざすのをやめなくてはいけない。何者かになろうとせずに、目の前の作品に向き合った時に、学びが始まるのだと思う。

とはいえ、「何者かになりたい」という欲望を手放すのは簡単なことではない。日蓮宗の大荒行の話を聞いてから、創作の世界における修行とは、どういうものなのかを考えている。


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。日記には、どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを書いています。子育てをするなかで感じた苦労や発見など、かなり個人的な話もあります。

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佐渡島庸平(コルク代表)
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