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本当の理解とは、「分けて考える」の先にある

ぼくは昔から食べることが好きで、大学生時代はアルバイトで貯めたお金で、一流と呼ばれるレストランに足を運ぶことが趣味だった。

一流の料理人がつくる料理は、ただ美味しいだけではない。

そこには料理人の魂みたいなものが息づいていて、その人の哲学が凝縮されているように感じる。それは世界観といってもいいかもしれない。そういう料理を食べ終わると、いい作品を読み終わった後のような気持ちになる。

ぼくが思うに、創作と料理はよく似ている。だから、ぼくが創作ついて語る時、料理を喩えに用いることが多い。

例えば、創作において重要な要素のひとつに“時間軸”がある。

マンガや小説は、何かしらの出来事を、物語として読者に伝えるものだ。

出来事を伝えるのが上手い人は、一から十まで全てを伝えるようなことはしない。印象的なシーンは時間をかけてじっくり話す反面、何事でもないようなシーンは省略して話す。どこをじっくり伝え、どこは省略するのかが、作者に問われる。

加えて、どういう順番で伝えるかも重要になる。時系列順に話した方がいいのか、結果を先に伝えてから経緯を話した方がいいのか。工夫次第で、読者
への伝わり方は全く変わる。

料理に例えるなら、物語はコース料理だ。

どういう料理を、どの順番で提供すると、お客さんの舌を最大限に楽しませられるか。一品ずつの質が高くても、同じような料理が続くと飽きてしまう。その組み立てやバランスを見つけるのが、料理人の腕の見せ所になる。

創作をする人も、読者を作品に惹きつけるために、どの順番で、何を、どれくらいのバランスで描くのかを考え抜かなければならない。

こんな具合に、料理と創作を結びつけて考えることが多いのだけど、最近、確信めいてきたことがある。

料理の世界は、変数が多い世界だ。

お寿司の世界であれば、ネタとなる食材・お米・調味料・一緒に飲むお酒といった食材の要素があり、更に職人の技が加わる。包丁の入れ方一つ取っても、切り身の厚さや角度が微妙に変わることで、味わいが変わってくる。これらの要素が複雑に絡み合い、最終的な味わいを生み出していく。

どの料理の世界でも同じようなことが言えるだろう。だから、超一流の料理人は、それぞれの変数への解像度が圧倒的に高いのは当然として、それぞれがどういう関係性を持っているかへの理解がすごい。それ故、どんな食材でも上手く捌いて、人を唸らせる料理を提供することができる。

それぞれの関係性を理解し、一番いいバランスを見極める。

これが超一流の料理人たちが共通して持っている料理への姿勢であり、同じことが創作にも当てはまると思う。

創作の世界も、変数が多い世界だ。

マンガであれば、絵・キャラ・プロット・世界観・セリフ・コマ割り・構図・演出などの様々な要素が複雑に絡み合い、物語としての面白さをつくっていく。どんなに面白いプロットや世界観の設定を用意できても、それ以外の要素とのバランスが悪ければ、宝の持ち腐れとなってしまう。

例えば、『ドラゴン桜』の三田さんは、どんな題材を扱っても、面白いマンガにしてしまう。その姿は超一流の料理人のように映る。それは三田さんが各要素に精通しているだけでなく、その関係性を熟知しているからだ。

何を理解するには「分けて考える」が大事だとよく言われる。

確かに、「わかる」 という言葉の語源は 「分ける」 であり、「わからない」 状態とは、分けることができない混沌とした状態と言える。だから、最初のとっかかりとして、まずは「分けて考える」ことは大切だ。いいキャラとは何か。いいコマ割りとは何か。そんな風に、一つひとつを学んでいく。

でも。どんなに要素ごとに深掘りを進めていても、それぞれの関係性を理解しようとする姿勢がその先にないと、そこで成長は止まってしまう。

各要素への解像度を高め、それぞれの関係性を理解しながら、一番いいバランスを見極める。

これは創作者の姿勢としても重要だが、編集者にも同様に当てはまる。むしろ、編集者の役割とは、この一文に凝縮されるのではないだろうか。

この視点を意識しながら、作家や作品と向き合っていくと、ぼくの編集者としてのあり方は随分と変わっていくような気がしている。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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