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キャラクターに「出会う」ことで、自分を知る

物語を紡ぎ出すとは、何か?

多くの読者は、手に汗を握るハラハラするストーリーを生み出すことが、作家の才能だと思っているだろう。もちろん、ストーリーテリングも作家にとって、大事な資質のひとつだ。

しかし、それよりもずっと大事なことがある。

キャラクターを生み出すことだ。

そして、そのキャラクターをリアルに描くこと。「確かに、こんな人いるよなー」と、読者がふと漏らしてしまう。それが、作家が目指していることだ。

しかし、そのようなリアルなキャラクターを作り出すのが難しい。例えば、几帳面で遅刻しない準備をしっかりする人がいたとする。その人が、しっかりと準備をする場面ばかりを描いていても、驚きも何もない。だから、面白くならない。そんな人が、全く準備もできず、大遅刻をしてしまった。さて、どんな反応をするのか。その人ならではの反応をすると、それだけで面白いシーンになる。そのぴったりの反応を見つけるのがすごく難しいのだ。

『宇宙兄弟』小山宙哉は、人を観察し、再現するのが本当にうまい。自分とは全く似ていないタイプの人もすごくリアルに描く。どうしたらそのようにキャラクターを描けるのか? 僕が育成している新人へのアドバイスを欲しいとお願いした。

多くの作家は、登場人物の設定表を作る。すごく詳細な履歴書のようなものを用意する人もいる。小山さんは、そのようなものを一切作らない。逆に、そのようなものがあると、そこで用意した設定に縛られて、リアリティを失ってしまう。

小山さんは、キャラクターに「出会う」ことを意識する。

キャラクターのイラストと名前が決まる。そうすると、その人と初めて会った気持ちで対峙する。そして、もっとその人をよく知るためには、どうすればいいのだろうか? この人をもっと知りたいと考えて、その人をどんな環境に連れていき、どんな出来事を経験させるといいだろうかと考えるらしい。

そんな風にして生み出された『宇宙兄弟』は、小山宙哉による、様々な人々の観察記録と言えるかもしれない。だから、現実のように様々な人が登場する。誰も悪い人はいない。強みが違い、価値観が違い、ストレス状態が違うだけなのだ。

今回、僕は『宇宙兄弟』『FFS(Five Factors & Stress)理論』を組み合わせて、ヒューマンロジック研究所の古野俊幸さんと一緒に、チームビルディングの本を作った。

『FFS(Five Factors & Stress)理論』とは、 人間の特性を5つの因子、「凝縮性」「受容性」「弁別性」「拡散性」「保全性」に整理し、それぞれの因子の数を比較することによって、その人が示す反応・行動を計測するものだ。

なぜ、そんな本を作ったのか。背景を説明したい。

コルクという2012年に僕が創業したクリエイターのエージェント会社は、率直にいうと「停滞」していた。社員が20人を超えたあたりから、組織としてのパフォーマンスが上がっていかない。

悩んでいた僕が出会ったのが、FFS理論だった。

人の能力は、絶対値ではなく、チーム構成で決まる。それはすごくしっくりくるし、僕の作り上げたい組織文化とフィットしていた。

『宇宙兄弟』にスーパーマンは出てこない。みんなが違う能力を持って、協力し合わないとプロジェクトを成し遂げることができない。宇宙飛行士は、ロケットの技術者、管制官などなど、たくさんの人の協力をあおがなければ宇宙にいることができない。そして、宇宙飛行士、技術者、管制官、みんな求められる能力が違う。違うタイプの人たちが協力し合わないといけない。

FFS理論で同じ因子の人たちが集まると話が通じやすくて、居心地がいい。でも、チームとしては、成長しない。停滞してしまう。違う因子の人たちが集まってチームを作る方がいい。

その時、どのようにしてチームを組成すればいいのかという問題が立ちはだかる。

チームメンバーを変更する時に、「拡散性が二人いると混乱するから、部署異動です」と言われると、FFS理論を理解していても傷つく。それよりも「日々人が二人いると、どちらも動きにくい。あの部署には日々人がいないから、あの部署で存分に暴れてくれ」と言われる方が、自分がなぜその部署に馴染まなかったのかが理解できるし、新しい場所で活躍するイメージが湧く。

FFS理論の個別の因子の特徴を暗記するよりも、『宇宙兄弟』の各キャラクターの特徴を覚えて、理解する方が楽しいし、イメージが湧く

FFS理論は、他者理解だけでなく、自己理解にも役立つ。チームビルディングが、本当に成功する鍵は、チームメンバーの全員の自己理解が進むことと言えるかもしれない。

僕は去年40歳を迎え、不惑となった。不惑とは、悟りを開き、惑わなくなることではない。そうではなく、自分とはこのような人間なのかと、自己理解をし、ある種の諦めを持って、惑わなくなることではないかと僕は考えている。

40歳に到るまで、様々なビジネス本を読み、他人の成功譚を聞き、それを真似たりしていた。それで迷走してしまうのは、自分と全く違う因子の人の成功例を試そうとする時だ。

自分だったら、どのように成功するのかのイメージがないまま、他人の成功例を真似ると失敗する

『宇宙兄弟』で自分と似た因子の人を見つける。そして、その人を真似る。さらに、その人をサポートしたキャラクターと同じような因子の人たちを身の回りで見つけていく。気がつくと六太たちが成し遂げたような成功を、チームで手に入れることができると思う。

ぜひ、この本をきっかけに、自分の人生という物語で、自分の能力を活かして活躍する方法をみつけてほしい。

今回、多くの人に読んでもらいたく、本の「まえがき」をnoteで紹介する。

《お知らせ》宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』の著者の古野さんとの対談を、僕のYoutubeチャンネルで生配信を行います。時間は、6月15日(月)の20:15-22:00

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まえがき この本の狙いと読み方

 ー ヒューマンロジック研究所代表取締役 古野俊幸

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本書は、人気コミック『宇宙兄弟』を題材にして、人の個性への理解を深め、個性の活かし方を学んでいただくことを目的としています。

ビジネスパーソンによくある悩みや問題を取り上げ、それらの悩みや問題に『宇宙兄弟』の登場人物たちがどのように立ち向かっていくのかを、人の個性を科学的に分析する「FFS理論」を用いながら解説していきます。

『宇宙兄弟』の世界観にすでに親しんでいる人はもちろん、マンガを読んだことのない人も、誰もが楽しんでいただける内容になっています。

FFS理論は、ソニー、本田技術研究所、リクルートグループ、LINEなど、延べ約800社で導入されています。私はこの25年間、FFS理論の普及に努める中で、多くの方々と出会いました。経営者だけで約千人。創業者に限っても五百名を下りません。企業の人事部門に携わる方々で数千人以上、一般社員となれば数万人もの方々にお会いして、話を伺ってきました。

自己理解が人生の基盤

その中で、数多くの「成功者」と出会いました。

もちろん、人によって「成功」のイメージは違います。事業を成功させること、夢を実現すること、成長や達成感を得ること、「無事之名馬」という格言にあるように、日々心配事や諍い事なく家族や仲間に囲まれて楽しく幸せに生きること……、これらすべてを「成功」と定義しています。

そういう成功した人たちには、共通点があります。

「自分の特性を理解し、強みを活かし、弱みは仲間と補完している」ということです。

逆に言うと、成功者の個性に何か共通した特徴があるわけではない。

ということは、「自分の特徴を知り、強みを発揮できる状況を逃がさず、弱いところは助けてもらう」ことを意識すれば、どんな人にも成功をつかめる可能性がありそうです。

一方、知識や経験は豊富にもかかわらず、「悩み苦しんだ人」にも出会ってきました。

話を聞いていて強く感じたのは、彼らは自分に自信がなく、自己否定的で、うまくいかない人間関係に傷ついている。仕事でもプライベートでも、どこか無理をしながら生きているということです。

その原因を探っていくと、結局のところ、自己理解が不十分か、もしくは間違った自己理解に行きつきます。「自分はこうありたい」という憧れから自分自身を偽り、自分の個性に合わないやり方や行動パターンを強いているケースはよく見られます。

つまり、「自己理解」は人生を成功に導くための基盤であり、活き活きとキャリアを伸ばしていくための指針ともいえるのです。

もう一つ、人が「幸せ」と感じているか、「不幸」と感じているか、その自己認識を左右しているのが「人間関係」です。職場や学校、友人や家族の人間関係は、ビジネスパーソンにとって最も大きな悩みといっていいでしょう。ただし、ある個性の人は、そうした悩みにも無頓着ですが……。

自分では「良かれ」と思ってとった言動が、相手を不愉快にしたり、不安にしたり、傷つけたりすることがあります。

例えば、部下から「これ、どうしましょう?」と質問を受けて、「そうだね。君の思うように、自由にやっていいよ」と答えたとします。部下の成長に配慮した上司の発言だったとしても、部下には「放り出された」「いい加減な指示」と受け取られてしまう。その結果、予想外の部下の反応(時には反撃)に遭い、理由がわからず、戸惑ったり悩んだりするという話をよく聞きます。

こうしたすれ違いは、お互いの個性の違いを理解していないことが原因です。自分にとっては好ましい言動も、個性の違う相手にとってはストレス状態を生む場合があるのです。

「役に立つ」ことが最重要

自己理解や他者理解に役立つ理論として、本書でご紹介するのがFFS理論です。

この理論で診断される個別的特性(以下「個性」)を知れば、自分の強みや弱みだけでなく、「なぜこの場面で相手がこんな行動や考え方をするのか」「なぜ相手は不愉快になったのか」がわかります。自分は「良かれ」と配慮したつもりが、異なる個性の人には「ストレッサー」(ディストレスを誘発する刺激)になる、ということを理解できるのです。

自分の個性を知り、相手の個性を知れば、少なくとも相手をストレスに追い込むことなく対話ができるようになります。それは、相手にとってはスムーズにあなたの言葉を理解できることにつながり、関係の改善、向上につながります。

もちろん、理論そのものの押し売りをするつもりはまったくありません。要は「役に立つか、立たないか」だと思います。

例えば人間関係の中で、自分に理解しにくい言動に出会ったときに、「これは、自分とは違うタイプの考え方が背景にあるのでは」と気づくことができたら、ムダな誤解や気まずさを避けられる。そのためのヒントになれば、筆者としては十分に嬉しいことです。

なぜ「宇宙兄弟」なのか?

では、なぜ『宇宙兄弟』が題材として相応しいのか、これについて説明しましょう。

『宇宙兄弟』は、宇宙飛行士を目指す南波六太(ムッタ)と南波日々人(ヒビト)の兄弟の成長と活躍を描く人間ドラマです。

兄のムッタは、「ドーハの悲劇(※)」の日に生まれたことを自虐的に語るような主人公です。発想がそもそもネガティブで、失敗することを恐れて、やりたいことから逃げてきました。彼がメーカーをクビになったところから物語がスタートし、周囲のサポートを得ながらなんとか宇宙飛行になり、さらに希望である月に行き、様々なトラブルを乗り越えていくという成功物語です。(※1993年10月28日にカタールの首都・ドーハで行われたサッカーのFIFAワールドカップ予選試合のこと。日本代表はイラク代表に試合終了間際で同点に追いつかれ、目前にしていたワールドカップ初出場を逃しました)

物語の主人公はこのネガティブ思考の人、ムッタです。

なんでも後ろ向きで、まさに「自分に自信がなく、自己否定的」だったムッタが、人との出会いを通じて「自分の特性を理解し、強みを活かし、弱みは仲間と補完」する人間に成長していく様子が生き生きと描かれています。

FFS理論を基にムッタの言動を観察・分析すると、日本人の平均値に近い個性だと推測できます。『宇宙兄弟』が多くの読者の共感を生んでいる背景かもしれません。

日本人の平均値に近い個性の主人公がどう成長し、人間関係を作っていくかを学ぶことができる。これが『宇宙兄弟』を題材とする第一の理由です。

また、『宇宙兄弟』には、様々な個性の登場人物が登場するだけでなく、一人ひとりのエピソードが丁寧に描かれています。

宇宙飛行士を目指した背景が語られたり、人の出会いを通じて動機づけられたり、反対に挫折を経験したりする場面もあります。それらのシーンでは、その個性に特有な癖はもちろん、個性がポジティブに発揮された状態や、ネガティブに出てしまったされた状態も描かれています。そのため、人の個性や人間関係を理解しやすいのです。

特に、宇宙飛行士たちは、地上クルーまで含めたチームワークが重視されます。マンガでも、宇宙飛行士選抜試験から訓練、実践に至るまで、チーム内での人と人のやり取りが多く描かれています。

例えば、選抜試験の最終選考では、チームメンバーがお互いに疑心暗鬼になるようにわざと仕向けられる場面があります。「あいつが犯人か」と疑うのか、「その行動には別に理由があるのでは」と冷静になろうとするのか、人の情動が引き出されるシーンです。だからこそ、読み手は気持ちを揺さぶられます。感情移入できる物語だからこそ、結果的に「人の個性とは」「リーダーとは」「チームとは」を学ぶことができるのです。

自分と似た個性のキャラクターが見つかる

私たちは、自分の個性に似ている人に共感を覚えます。本書で解説する『宇宙兄弟』の登場人物とFFS理論から、自分と「個性が似ている」人を見つけて、その人物が直面する課題やそれに対する解決策、チームでの活躍の場面から、自分の職場やビジネスシーンでの問題解決のヒントを得ていただけると思います。「うん、それわかる、わかる」「それ、ついやっちゃうな」と登場人物に親近感を覚える場面がきっとあるはずです。その人物を鏡にして、自己理解につなげていただけたら、と考えています。

反対に、自分とは違う個性のことは理解しにくいものですが、これについても、『宇宙兄弟』に登場する多彩な個性のキャラクターたちがヒントを与えてくれるはずです。「なぜそんな言い方をするのか」「なぜそんな判断を下したのか」などを、そのときの言動や判断の背景、心理状態などを踏まえて解説していきます。職場の上司や同僚、後輩、仕事で出会った人たちなど、これまで理解できなかった相手を理解するための参考にしていただけると思います。

企業がFFS理論を取り入れる目的も、「自己理解と他者理解」です。チーム全体で活用すれば、仕事仲間の個性の理解も深まります。特に、上司と部下との面談(one on one)には効果があると思います。

この本を通して、自分と部下は「似ているのか・いないのか」「長所と弱点を補完しやすいのか・しにくいのか」を把握したうえで、相手の個性に合った育成法や動機付けを学んでいただくことで、ミスコミュニケーションを減らし、持ち味を引き出すことができるはずです。新人の配属先を検討したり、異動先をシミュレーションしたりすることも可能です(深く学んでいただくことで、「成果を出せるチームの編成」もできるようになります)。

この本で学んで欲しいところ

この書籍を読んでいただくことで

・自分のことをよく理解する(自己理解)
・周りの人の個性を深く理解する(他者理解)
・人との付き合い方を学ぶ
・より良い意思決定をするポイントを会得する
・強みを活かすことで、誰もがエースになれる

こうした点を学べるように構成しました。

なお、FFSの正式な診断には登録とある程度の時間が必要ですが、本書を購入していただいた方向けに、特設URLを設けています。18ページの解説に従ってお試しください。また、本書の中にも簡易版をご用意しています。24ページをどうぞ。ただし、簡易版はやや精度が落ちることをご了解ください。

幸せな仕事、幸せな人生は、自己理解から始まります。自分に合った働き方やキャリアの伸ばし方を知り、円滑な人間関係を構築するために宇宙兄弟を通してFFS理論をお役立ていただければ幸いです。

【目次】

FFS理論・自己診断
宇宙兄弟の25人をFFS理論で紹介
FFS理論の考え方

1章 自己理解 あなたの強みの活かし方
・日本人の6割は「最初の一歩」が踏み出せない   --「保全性」と日本人
・「準備ばかりして行動できない」を抜け出すには   --「保全性」の強み
・同僚の足をひっぱりたくなるのはなぜか?   --「保全性」同士の関係
・タイプ別に考える、「人生の目標」の探し方   --「受容性」のモチベーション
・「決められない」のは立派な個性であり武器である   --「受容性」の強み

2章 他者理解 上司を味方につける方法
・「無茶振り、丸投げ上司」に出合ってしまった!   --「拡散・上司」×「保全・部下」
・もし「興味ないんで」としれっと言い放たれたら   --「保全・上司」×「拡散・部下」
・「無愛想で怖い上司」敵か味方かの見分け方   --「凝縮・上司」×「受容・部下」
・「冷たい上司」とストレスなく付き合うには   --「弁別・上司」×「受容・部下」
・「リスクを取らない上司」をどう動かすか   --「保全・上司」の動かし方

3章 組織理解 目指すべきリーダー像
・リーダーは強くないとダメなのか?   --「受容・保全」リーダー
・「お前、もういいよ」とつい言っていませんか   --「凝縮性」リーダー
・「いい人と思われたい」気持ちが殺すもの   --「受容性」リーダー
・リーダーらしい自信を持ちたい、でもどうすれば?   --「保全性」「拡散性」リーダー
・あなたが目指すべきは「猛獣使い」かもしれない   --   「受容・保全」リーダー
・どうして弁別性のリーダーは登場しないのか?

僕のYoutubeチャンネルで、FFS理論について解説した動画もあるので、よかったらコチラも参考に!


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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