見出し画像

気にしすぎな人、だからこその”強み”とは

自分の言動が周囲からどう思われているのかが気になってしまい、心が休まらず、気疲れしてしまう。こんな風に「気にしすぎ」な性格の人が、実はマンガ家に多い。

気にしすぎな人は圧倒的に思慮深い。「気にしすぎ」とは、ある出来事に対して様々な側面から考えることができたり、他者のことを深く考え、慮ったりすることが自然とできている証拠だ。

そうした思慮深さは作家にとって何よりも大切なことであり、「気にしすぎな人ほど、作家に向いている」とすら、ぼくは考えている。

だが、この「気にしすぎ」というのは、作家として強力な武器となると同時に、生きづらさを抱える元凶にもなりえる。ちょっとしたことが気になって、モヤモヤしたり、クヨクヨしたりして、何も手につかなくなる。気持ちの持ちよう次第で、「気にしすぎ」は薬にも毒にもなり得るのだ。

そんな風に「気にしすぎ」で悩んでいる人に読んでもらいたい本がある。吉本ユータヌキが書いた『気にしすぎな人クラブへようこそ 』だ。

吉本ユータヌキはコルクに所属しているマンガ家のひとりなのだが、エッセイマンガを得意としていて、生活の中で発見した様々な感情をマンガに描いてくる。まさに「気にしすぎな人」だからこそキャッチアップできているのだろうと思わせるものが、彼のマンガにはたくさん詰まっている。

一方で、彼自身はその「気にしすぎ」な性格に、ものすごく悩んでいた。ちょっとした仕事の連絡のやり取りにも気を揉んでいて、「そんなに気を遣わなくてもいいよ」と伝えても、どうしても気になってしまうらしい。

色々なことが気になりすぎて、布団に入っても眠れないようになり、次の日になっても疲れがとれず、ネガティブな気持ちをひきづってしまう。そんな状態の彼をみて、「気にしすぎな性格は彼の長所だから、このままでいい。だけど、どうやったらもっと楽な気持ちで創作を続けられるようになるか」と考えるようになった。

ちょうど同じ頃、EQのコーチングをぼくが受けていて、公認心理師の中山陽平さんと知り合った。中山さんは感情との付き合い方に精通していて、「こういう風に思ってしまう時は、こう考えると気持ちが楽になりますよ」という指摘は、どれも的確で具体的でわかりやすい。

それで吉本ユータヌキに中山さんのコーチングを受けてみることを薦めてみた。確信めいたものがあったわけではないが、中山さんと話すことで、何か化学反応が生まれるのではないかという期待があったからだ。

最初はコーチングに疑心暗鬼だった吉本ユータヌキだったが、中山さんと話すうちに色々な気づきがあったようで、SNSにマンガを投稿するようになった。すると、 投稿したマンガが少しずつ反響を呼び、出版社から書籍化の相談が届き、今回の出版へと至ったのだ。

この本の副題は「僕の心を軽くしてくれた40の考え方」だが、「淡白なLINEやメッセージに…ビクビク」「誤解を招かないか心配で、文章を直し続けて…グルグル」といった具合にシチュエーションごとに項目が分かれている。

自分はどうしてそう感じてしまうのか。なぜそれを苦しいと思ってしまうのか。そうした自分の考え方の癖を知りながら、その癖とどう向き合っていくといいのか。そんな会話が吉本ユータヌキと中山さんで交わされていく。

この本を読むと、吉本ユータヌキが中山さんと対話することで、心のうちがどのように変化したのかが実によくわかる。そのことが、ぼくは何よりも嬉しい。そして、彼のこれからの作品が楽しみになっている。

ある意味、これは吉本ユータヌキ自身のために本と言っても差し支えないと思う。だけど、彼と同じように「気にしすぎ」で悩んでいる人にとって、とても価値のある一冊になったと感じている。

繰り返すが、「気にしすぎ」というのは悪いことでもなく、ひとつの個性であり、クリエイターにとっては強力な武器だ。この本が、「気にしすぎ」な人たちの心が少しでも軽くなる手伝いとなったらいいなと思う。


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。

また、ぼくがどのようにして編集者としての考え方を身につけていったのかを連載形式でシェアしていきます。コルク社内の中堅社員にインタビューをしてもらってまとめた文章を有料部分で公開します。

雑談のきっかけを作る観察

編集者なら、ヒット作を出したいと思うのは当たり前のことだが、現実は、関わったほとんどの作品がヒットしない。何度も何度も作品を立ち上げて、やっとヒットするかどうかだ。

一発で成功しようなんて、ほとんど宝くじに当たろうとしているのと変わらない。むしろ重要なのは、打席に千回くらい立つつもりでいることだろう。

そのつもりでいると、与えられた仕事に不満を持ったり、もっと大きな仕事をしなければとプレッシャーに感じたりすることはなかった。とにかく目の前の打席でどうやって成果を出すか、その試行錯誤をどう楽しむかを考えていた。

ぼくがやってきたのは、本当に些細なことの積み重ねだが、ひとつひとつの仕事が雑談のきっかけになり、次に繋がっていたことが、たくさんの打席に立たせてもらえた理由だったと思う。

ここから先は

2,408字 / 2画像
表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

購入&サポート、いつもありがとうございます!すごく嬉しいです。 サポートいただいた分を使って、僕も他の人のよかった記事にどんどんサポート返しをしています!