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言葉の語源を遡ると、違う景色が見えてくる

思考は言葉でできている。言葉に敏感になり、言葉への解像度を高くすることは、自分の思考を深めることに繋がる。

そして、言葉への解像度を高くするには、その言葉の語源をさかのぼることが欠かせない。

そのことを改めて感じさせてくれたのが、若松英輔さんが書いた『はじめての利他学』という本だ。

おそらく「利他」というと、自分を犠牲にし、他者のために奉仕するイメージを持っている人が多いと思う。「利他」の反対語は「利己」で、相手のために自分の利益は顧みないという捉えられ方が一般的だろう。

だが、「利他」という言葉の起源を遡っていくと、他者だけでなく、自分も利することが、利他の本質であることが見えてくる。

この本によると、日本で最初に「利他」という言葉を用いたのは、空海だそうだ。空海は「自利利他」という言葉を使い、利他は自利と切っても切れない関係である。さらにいえば、自利こそが利他の土壌であるとすら、空海は考えていたという。

利他にとってまず一番大切なのは、自分を愛すること。利他とは、自分と他者のつながりについて考え、それを深めていくこと。著者の若松さんはそう述べている。

ぼく自身、30代半ば頃から、自分を大切にすることが、他人を大切にする一歩ではないかと考えてきた。だが、語源をさかのぼっていくと、そもそも利他とはそういうもので、自分が考えてきたようなことは、昔の人たちが既に繰り返し言ってきた内容だったのかと気づかされた。

言葉が生まれる時には思想も一緒に生まれる。言葉や概念を正しく理解するには、語源をさかのぼっていかないといけない。

そんな風に考える中で、「情熱」という言葉について、考えを巡らせた。

多くの人にとって、「情熱」という言葉にはポジティブなイメージがあると思う。「ひたむき」「熱心」「一途」といったニュアンスがあり、「情熱的な人ですね」と言われたら、悪い気をする人はいないだろう。

ぼく自身、どんな人と一緒に仕事をしたいかと言われると、自分の仕事に情熱を持っている人と考えていた。だから、一緒にやっている新人マンガ家との打ち合わせで、どこか物足りなさを感じた時には、発破をかける意味で「マンガへの情熱が足りないんじゃないの?」と言っていたこともある。

だが、「情熱」という言葉の起源について考えていくと、全く違う景色が見えてくる。

そもそも情熱という言葉は、明治時代以降に発生した言葉だと思われる。西洋から「Passion」という言葉が入ってきた時、どう日本語に翻訳するかを考えた末に「情熱」という言葉が生まれたようだ。

それで「Passion」という言葉について調べてみた。ラテン語やギリシア語で「苦しむ、被る」といったニュアンスの「Suffering」に由来していて、語源はキリスト教の「受難」意味するそうだ。言われてみると、2004年に公開された、キリストの受難をテーマにした映画のタイトルは『Passion』だった。

迫害や苦痛を与えられても、信じるものを曲げない。そうした悲痛なほどの強い感情が「Passion」であり、情熱の本来の姿なのだ。

そう捉え直すと、「あなたは情熱が足りない」という表現は、おかしな表現であることに気づく。情熱とは自らの意志で燃やすものではなく、困難な環境の存在によって、はじめて燃え上がるものだからだ。

また、情熱があるとは、果たしていいことなのかとも思う。

もちろん、情熱の本来の意味通りの強い感情が、作品づくりの肥やしになることは言うまでもない。迫害や偏見を向けられながら、その環境をむしろエネルギーに変えて、歴史に残る作品を生み出してきた芸術家は大勢いる。

だが、強い感情である情熱をもとに創作を続けることは、心が強い人でないと難しい。みんながみんな、情熱をもとに創作を続けられるわけではない。

創作に悩んでいる人や足が止まっている相手に対して、どういう言葉を投げかけるべきなのか。情熱について考えるなかで、自分の普段の振る舞いに対して、より意識的にならないといけないと改めて感じた。

こんな風に、言葉について理解を深めていくと、自分の思考について見直すキッカケになる。言葉を見つめることが、そのまま世界を見つめることになると、最近になってようやく感じれるようになってきた。


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佐渡島庸平(コルク代表)

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