不安やストレスから心を守るために自分の「飼い慣らし方」を知ろう。 下園壮太先生に聞く、コロナ疲れへの対処法
新型コロナウイルスの感染拡大により、外出自粛が続いている。ここまで大規模かつ長期的な自粛は、誰しも経験したことがない。
自分や家族が感染する不安や、自宅に篭ることによるストレスはもちろん、ネットやテレビで流れる不安を煽るような情報を見てしまい、心が消耗していると感じる人も少なくないだろう。
どうやって、自分の心をケアしていけばいいのか?
そう考えた時に、自衛隊でメンタルケアやカウンセリングを行ってきた心理教官で、現在コルク社員のメンタルサポートも行ってもらっている下園壮太先生に話を伺いたいと思った。
過去に読んだメンタルヘルス系の書籍の中で、下園先生の著書が一番納得できると感じていて、平野啓一郎さんの小説『空白を満たしなさい』を編集する際にも、著書を参考にしたり、質問をさせてもらってきた。先生の話す内容には論理性と裏付けがあり、多くの人が共感できるであろうし安心感もある。
今回、4月9日にオンラインで行われた僕と下園先生との対談内容をコルクラボのメンバーがレポート記事を作成してくれたので、それを共有する。
下園壮太(しもぞの・そうた)さん
心理カウンセラー。MR(メンタルレスキュー)協会理事長、同シニアインストラクター。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の心理教官として、衛生隊員やレンジャー隊員などに、メンタルケア、惨事ストレスコントロールの指導、教育を行う。2015年に退官し、現在は講演や研修、著作活動を通して独自のカウンセリング技術の普及に努める。近著に「寛容力のコツ」(三笠書房)、「自衛隊メンタル教官が教える 人間関係の疲れをとる技術」(朝日新書)。
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リモートワークは精神的「疲れ」が増大しやすい
佐渡島:
人は精神に問題があって鬱状態になるのではなく、疲れによる「体力切れ」で、脳が強制終了を指示して鬱状態になるんですよね?しかも精神疲労は肉体的なものよりダメージが大きいと。
下園さん:
そうですね。人は不安があると、危険に対して先読みしようとするのですが、これが脳のエネルギーを大変消耗させます。外出自粛のような我慢も、やりたかったことの大きさに比例して我慢のエネルギーを使うので、今の環境は鬱っぽくなりやすいんです。
また、リモートワークは一人暮らしの場合は孤独が増しますし、家族と一緒だと自分のスペースが確保できずにイライラがつのります。
働く環境の変化への適応にもエネルギーを要しますから、今のリモートワークは鬱状態が悪化する要素である「不安」「自責」「無力」「疲れ」が加速して増大する可能性があるんですね。
そして、精神的疲労は肉体と違って、感知しづらいのです。
精神疲労の感度は人それぞれ
佐渡島:
そこで心配なのが、「今、自分は平気だ」と思っている人が、どこかで爆発する可能性についてです。
下園さん:
そうですね。まず、不安や疲れを起こす要素に個人差があります。
リモートで働く環境やツールを使い慣れているかでも変わりますし、有効なストレス解消法を持っている人とそうでない人でも変わります。そのため、自分が今の状況を大丈夫と感じていても、他の人も同様とは限らないわけです。
そして、ストレスの感じ方も人それぞれ違いますよね。
現時点でコロナに対する不安の度合いは「大いに不安を感じる」「少し不安に感じる」「全く感じない」の3段階に別けた時に、回答者数はだいたい3割ずつという集計結果なんですよ。不安に対するセンサーが立ち上がりやすい人とそうでない人がいることが分かります。感じ方の個人差が大きいのです。
佐渡島:
不安を感じるのも感じないのも自分の身を守るための行為、という話がありますよね。
下園さん:
そうです。身を守るために早く不安センサーを立ち上げて予防策を打ちたい人もいれば、不安によってエネルギーを消耗しないために、あえて不安を見ないようにする人もいます。
精神的な疲労蓄積には3つの段階がある
下園さん:
精神疲労は、気付きにくいにもかかわらず、ケアをしていないと蓄積します。
この蓄積度合いを「疲労の3段階」と呼んでいて、通常疲労(1段階)→プチ鬱(2段階)→鬱状態(3段階)の段階があります。
元気な状態の人であっても、上司に叱責されたりすると、傷ついて一度落ち込んでから、回復するという過程を経ます。
ところが、業務過多や介護疲れなどによって、たまたま疲労蓄積度が2段階のところにいた場合、同じショックでも元気な時の2倍の負荷がかかり、元の状態に回復するためには2倍の時間がかかります。3段階なら、3倍です。
つまり、一度鬱状態になると、普段の日常ならやり過ごせる刺激ですら大きなショックになり、回復ができなくなってしまうんです。今の時点で2段階モードの人は、同じコロナのショックであっても1段階の人の2倍の負荷がかかっています。
佐渡島:
精神的に疲れている人は、自分が「弱い」わけじゃなくて、2段階目にいる可能性もあると考えるといいですね。
下園さん:
そうです。そのように考えてしっかり休むと大概の方は復活していきます。年齢や状況にもよりますが、3日くらい休むようにアドバイスする場合が多いですね。
佐渡島:
僕は、好きなことを「めんどくさい」と感じる時や相手が自分を責めていると感じる時に「自分は、いま2段階にいるな」と思うようにしています。それで、意識的に休息をとったり「相手が自分を責めてると感じる状態なんだな」と自分に言い聞かせるようにしています。
下園さん:
うまくケアしていますね。イライラが出てくる時は「相手がおかしい」「自分が正しい」と思いがちですが、「自分が疲れてるだけかもしれない」と考え直すことで、対処ができます。そうすると、冷静に判断ができて、1段階に戻って来やすくなります。
疲労3段階で起こること
佐渡島:
3段階(鬱状態)では「別人化」が起こると先生はおっしゃっていますよね。
下園さん:
鬱状態ではいつもの本人とは違う考え方・感じ方をするようになるので「別人化」と呼んでいます。
この段階に入った人は、全員が同じ向きの思考、すなわち過剰な「自責」「不安」「無力感」「負担」に傾いていきます。本来のその人とは別の人のような感じ方・考え方になってしまうわけです。これが、鬱状態が精神科の疾患にジャンル分けされる理由です。
また、3段階では、今までと同じパフォーマンスを上げるのに1段階の3倍の時間がかかるので、パフォーマンス自体を継続することができません。仕事でパフォーマンスを発揮したければ、3段階ではしっかり休息を取って1・2段階目に回復してから開始すると生産的だと思います。
今回、季節の変わり目でエネルギーを使うタイミングにコロナが重なったので、1日のどのタイミングでもいいので、睡眠を1時間程度長く取るのが良いでしょう。昼寝でもいいですよ。
不安や環境の変化を甘く見ず、自分をケアする
下園さん:
私は今回のストレスを甘く見ない方がいいと思っています。
不安は、それを解消するための行動のエネルギーとしている時は問題ありません。ですが、コロナによる不安は、ほとんどが自らの手で解決できないため、漠然とした大きな不安に感じられるんです。また、大きな不安や世の中の不穏な雰囲気に人は本能的に反応してしまうので、学業や仕事に集中できずパフォーマンスが上げにくくなるんですね。
また、環境の変化は自分で思っているより大きな負荷がかかる割に、自覚しづらいものです。
佐渡島:
先生の本で、結婚や引っ越し、昇進なども疲労につながるという話は重要な部分だと思いました。
今回のコロナはシーズン的に昇進や結婚も多く重なったはずですが、「この幸せがあるから耐えられる」と思うことで自分の疲労に無自覚になっている可能性もありますよね。
下園さん:
はい。まさに、「楽しい」「嬉しい」ことでも環境の変化は意識の下で我々を消耗させています。そして、今の我々の状態は、鬱で休職している人と非常に似ているため、大変つらいはずなんです。
先行きも耐えられるか分からないし、時間をどう過ごしていいか分からなければ、余った時間を生産性のあるものにできない自分を責めてしまう。さらに、周囲から「あの人、遊んでいるんじゃ?」と思われたらどうしようかと、人の目を気にしてしまいます。
佐渡島:
楽しんだりリラックスしたりして回復していかなきゃいけないのに、楽しむのが悪いことのように感じて「してはいけない」と思ってしまいがちですよね。
下園さん:
楽しみを見つけて前向きに捉えることを、強くおすすめしたいと思います。
ストレス解消は悪いことではありません。長く闘うために「不安なことを考えない時間」をきっちり作って、楽しみや自分のケアの時間を持った上で、悩みや仕事に向かっていただきたいです。
ストレス解消のバリエーションを作ろう
下園さん:
実は、自衛官が海外派遣されると、大きな制限のある環境になります。そんな中でも、ストレス解消のバリエーションを持っている人は強い。
バリエーションには多くの種類がありますし、人によって合うツールが異なります。今はスマホがあって動画や音楽も触れやすいですし、トイレでちょっとひとりになってネコ動画を見ることもできますよね。その他にも、運動、食べる、読書、アロマ、表現、思考、ペット、掃除、恋愛など、たくさんの選択肢の中から、自分に合うものを日頃から複数見つけておくといいでしょう。
今回の自粛期間は、そういったものを試してみる良い期間だと考えてもいいかもしれませんね。
佐渡島:
先生が資料で挙げて下さったストレス解消法の例に「視点を変える」というのもありましたね。
下園さん:
はい。ただ、これは少し注意が必要です。
視点・考え方・経験の意味を変えるというのは、ドラスティックなパワーを持ちます。しかし、それがうまく働くのは2段階より上の人なんですね。3段階目では既に思考がネガティブなので、視点を変えるのはとても大変です。
ですから、自分に役立った回復法・ストレス解消法を伝えても、相手によってはピンとこないこともあると頭に置いておいてください。
SNSとの付き合い方
下園さん:
また、今の状況において、人と会話をするチャンスを意識的に持つ必要があると思います。
不安は自分の中で情報に対するイメージを太らせていくことで生まれます。ですが、人と会話をすることで、異なる視点や情報を得て、偏りがちなイメージを修正することができるからです。
ただし、SNSにはちょっと注意してください。世の中がみんなイライラしているので、公共に対して不用意な発言をせず、うまく使うようにするといいでしょう。
佐渡島:
鬱で休職中の人がリモートワーク中の人のSNSでの発言を見て「同じように家の中にいるのに」と比較して自責の念が強くなるリスクもありますね。
そういった視点から、SNSで「この人の発言はしんどいな」と思ったらどんどんフォローを外すといい。知り合いで特定のワードをミュートに設定したら幸せになったという人もいます。
下園さん:
それは賢いですね。不安は情報を集めたがるんです。
インターネットは情報を深掘りして多くのネガティブ情報を頭にインプットするので、なるべく「コロナの情報はこの時間・方法だけ」と設定するなどしてバランスを取るといいでしょう。
運動のススメ・言語化のススメ
下園さん:
不安が大きい時は、思考が不安に乗っ取られていて、柔軟に考えることが難しくなります。
しかしその状況でも、身体は動かすことができますよね。身体を動かすとリラックスして思考もゆるんできます。ヨガやストレッチといった運動や、深い呼吸をする呼吸法が特におすすめです。
佐渡島:
コルクラボのメンバーは最近、毎朝オンラインでつないでラジオ体操をやっているんです。
下園さん:
それはいいですね!また、こういった時にもうひとつおすすめしたいのが、小さな不安を認めて、書いたり話したりすることです。
カウンセラーをうまく使うなどして、葛藤する色んな気持ちを言語化して全部外に出していくと、心が整理されていきます。メモに書いたりするのもいいですね。
小さな不安を無視すると、「大きな不安のような雰囲気」ができあがっていきますから、まず小さな不安を認めて、「対処する」「対処しない」を意識的に選択すると、不安は徐々に「大丈夫」になっていきます。
「決断するタイミング」を決める
下園さん:
不安になると先読みしようとするので、早め早めにたくさんの情報を集めるようになり、結果的に結論を出すのに必要な時間より長く悩むことになったりします。
自衛隊のように命のかかっている場で最初に教わるのは「いつ決めるのかを決める」です。それまでは決して悩まず、決めると決めた時に集中して分析し決める。
漠然とした不安の中で同じことをずっと考えていると消耗するので、他の楽しみで不安から頭を逸らせておいて、必要な時に集中して悩むことです。そして、ひとりで悩まず、誰かと一緒に悩むことをおすすめします。
佐渡島:
決める時期を決めたら、相談に乗ってくれる人を事前に誘って、スケジュールを入れておくといいですね。
下園さん:
そうです。それまでは「今は決める時期じゃない」と、有力な情報だけを取得して、それ以外の情報を集めないようにするといいでしょう。
また、不安は実態ではなく雰囲気によって発生して、身近な人から伝染します。自分の周りに不安に過敏な人がいるとあおりを受けやすいので、この時期、自分より不安に過敏な人と距離を取ることも大切です。
佐渡島:
自分が不安に過敏な場合は「人と交流しちゃいけないのかな?」と思いそうですけど、過敏な人は自分より鈍感な人と交流したり悩んだりするといいですね。
生活にルーティンを取り入れる
下園さん:
生活リズムを意識することも大切です。
自衛隊は、起床から就寝までの日課時限から着る服に至るまで全てが決まっています。このような決まりは最初はストレスかもしれませんが、慣れてくると「考えること」が減って楽なんです。
鬱状態から回復する過程で「なにか生産的なことをして充実感を得たい」という思いから「今日何をするか」を一所懸命考えていると、それだけでエネルギーを消耗して疲れてしまいます。
ですので、省エネのためにルーティンを決めておくといいんです。ルーティンはそれ自体を守るためにあるのではないので、柔軟に運用してください。
1から考えなくてもいいレシピが揃っている状態というイメージです。内容も細かく決めず、朝できなければ夕方時間を作ろう、といった運用で大丈夫ですよ。
佐渡島:
「守らなくていいルール」を決めておくっていうのはとても重要ですね。
下園さん:
パターンがあれば、選択もしやすいですね。
また、生活にリズムを作ると睡眠が取りやすい、という理由から、ルーティンの中にできれば運動を入れ込んでいただきたいです。運動は生活のリズムを作るのに役立ちます。
子供の不安・ストレスとの向き合い方
佐渡島:
学校がなくなって、公園も行きづらくなり、子供たちもストレスがたまっています。どうやったら子供たちが落ち着くでしょうか?
下園さん:
家の中にずっといるというのは、とても大きなストレスです。
いつも通り子供がニコニコした状態を維持するのは難しいという前提に立ってください。そして、こういう時期に知っておくべきなのは、子供もコロナが不安ということです。
色んな言葉が飛び交い、雰囲気で「怖いことが起きるのでは?死ぬの?」と不安になっています。情報がなくて不安な時の人間は、より情報量を持っている人間を見ます。子供でいうとお父さん・お母さんを注視するわけです。
ですから、子供がどんなことに不安で、何を思っているかをよく聞いて、「そんなことないよ」と否定せず、一度きちんと受け止めてあげてほしいんです。そしてお父さん・お母さんの言葉で説明してあげてください。
佐渡島:
大人の方から「なんか不安なことある?」と聞いてもいいですか?
下園さん:
はい。年齢にもよりますが、具体的に「どんなこと知ってる?」などと情報収集しながら話しやすい雰囲気を作ると良いでしょう。
子供の側からコロナについて聞いてこない、という状態も重要なメッセージで、「聞いちゃいけないのかな?」と感じているかもしれないです。ですから、子供の話を聞いて、一旦「そうなんだね」と受け止めて、自分の言葉で一貫した説明や考えを伝えてあげるのは重要です。
大人同士のコミュニケーションで気を付けたいこと
佐渡島:
大人(同僚や知人)が発した言葉に、「それは間違ってる」と正義心が湧いてきた場合は、どうコントロールしたらいいですか?
下園さん:
人には、人それぞれの状況・価値観・不安の感じ方があります。大人同士はまず、それらを尊重するところから始まります。「相手を変えたい」「修正したい」気持ちが湧いたら、「自分はこうしてる」と自分の意図を伝えることに留めることが必要です。
本当は相手に変わってほしくても、自分のしていることを相手に強要はしない。なぜなら、「こうしろ」「変わってほしい」と伝えられることは、相手にとって大きなストレスだからです。
佐渡島:
大人同士でも子供と同じように相手を一度受け止めるのが大切ですね。
また、突然のリモートワーク・オンラインのやり取りになり、仕事もコミュニケーションも頑張りすぎてしまう人は、どうすればいいでしょう?
下園さん:
頑張りすぎる人は、今回に限らずいつも頑張りがちだと思います。
普段の私たちは目標までの短距離のコントロールには慣れていますが、その習慣は急ぐ必要のない時にオーバーワークにつながります。人生という長距離を「自分」という乗り物で運転し続けるには、アクセルだけでなくブレーキも上手に踏む修行が必要になってきます。
コロナに関係なく、生きていく上での自分の「飼い慣らし方」を知ることが大切になるでしょう。
★マンガ専科の受講生によるマンガレポート
今回の対談の内容を『コルクラボ マンガ専科』の受講生のメンバーがマンガにしてくれたので、併せて掲載!
( 2020年4月9日にオンラインにて収録 )
ここから先は
コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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