欲望の輪郭がおぼろげでは、継続は難しい
「言うは易く、行うは難し」と昔からよく言うが、他人に伝えるのと、自分が実行するとには、天と地ほどの差がある。編集者というのは、言うばっかりで、行う難しさをなかなか体感しない職業でもある。
『ドラゴン桜』の編集時、教育の専門家にたくさん取材をしていたので、親になったら、最高の子育てをしようと意気込んでいた。実際に親になると、自分の頭でっかちに気づくことばかり。学んだ知識を活かせることもあるが、割り切れないことが多い。知識を持つだけで上手くいくならば、誰も子育てに悩まない。
そして、「言うは易く、行うは難し」と改めて思うことがある。
今年の僕は、毎日5分間、絵の練習を続けている。
これまでの僕は、「絵はマンガ家の領分で、編集者は絵が描けなくて、自由に発言できる方がいい」と決めつけていて、絵を学ぼうとしたこともなかった。
だが、新人マンガ家たちの絵にフィードバックする時、解像度をあげたいと思うようになった。なかなか絵が成長しない新人は「自分の絵が下手なのは今は、仕方がない。描き続けていれば、いつかうまくなる」と考えていることが多い。でも、そんな風に思っていると、いつまで経っても上達しない。
新人マンガ家は、開き直ることではなくて、「苦手」という思考停止ワードをなくして、日々トライした方がいい。気合いでも努力でもなく、「習慣」によって、自分を変えていく。
マンガ家の思考を変えるフィードバックができるようになるためにも、僕自身が絵の練習を習慣化し、苦手をなくしていく。その姿を共有することで、新人マンガ家の意識を変えていきたい、と思っていた。
継続で人は変われることを証明する。
そんな使命感を秘めながら、絵の練習を続けてきた。
が、止まった。
完全に絵の練習が停滞している。
現在、僕の絵の練習は、完全に踊り場にいる。
アウトプットをSNSに投稿することも、1日5分間と制限をかけることで自分に負荷をかけ過ぎないようにすることも、継続を後押しする方法として、僕が『ドラゴン桜』で提案している方法を実践していた。そして、かなりいい感じで250日は超えた。だが、それだけで継続できるほど、簡単なことではなかった。
ウダウダ言わずに、とにかく描けばいい。そんな意見もあるだろう。マンガ家にはいつもそう僕自身が言っている。分かっているのに、描けない。時間がないという言い訳が思いつくが、時間のなさは描いている時と変わらない。
習慣化が停滞してきた理由を考えてみる。
ひとつは、自分の絵の実力が高まっているのか、自分は前に進んでいるのかどうかが、分からないことだ。
ダイエットであれば体重計にのる。語学の勉強であればテストを受ける。そうすることで、自分の状態や課題が客観的にわかる。習慣を続ける中で、少しでも前に進めている感覚があると、ゲーム感覚で楽しめる。でも、絵の場合は、自分の実力を客観的に把握する仕組みがない。どうやって自分の実力を測っていくか?
また、自分の状態が客観的にわからないので、自分に適した課題を見つけることが難しい。書店に並んでいる絵の教本を読み漁り、自分のレベルに合いそうなものを選んで、書かれている通りに実践してみるのだが、どうもしっくりとこない。
実力が把握できないから、課題を見つけれない。それが僕の直面している問題だ。
さらに、そもそも僕の中に「絵をうまく描きたい」という欲望がない。絵がうまくなりたい人は、絵を描くこと自体が好きと感じる人が多いと思う。絵を描いていると、手が楽しいという感覚がない。僕の場合は、言語で描くことが好きだ。こんな風に絵を描く習慣が停滞している理由を文章にするのは、楽しいことだと思ってやることができる。
二つ目の問題は、欲望が見つからない。
継続で人は変われると証明したい。しかし、それは、継続するための欲望の元には弱い。どうしても心が動かない。
今、改めて安野モヨコの『鼻下長紳士回顧録』に登場する、この言葉を思い出す。
「変態とは、 目を閉じて花びんの形を両手で確かめるように自分の欲望の輪郭をなぞり、その正確な形をつきとめた人達のことである」
本当に、僕には「絵をうまく描きたい」という欲望がないのか?それとも、単に飽きてしまっているのか? そもそも、絵が上手くなったら、何を描きたいのか?
自分の欲望の輪郭を見つめることが必要なのだろう。
だが、一人でそれをやるのは難しい。僕に絵を描く楽しさを教えてくれたり、僕に適した課題を与えてくれるコーチのような存在が欲しい。このコーチを想像することは、編集者としてのあり方を磨くための練習になると考えている。
僕が絵を描き続けられるように、「コーチになるよ」って人は、声がけをしてください!
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