改革現場で感じた、言語化し共有する価値
どうやったら「学びたい」「もっと突き詰めたい」という気持ちを自然と育むことができるか。
学校でも、企業でも、子育てでも、あらゆる領域でコーチングの考えが求められていることを感じている。他者に直接的に働きかける行為は、圧やハラスメントととして捉えられる。そうではなく、どうやって内発的動機を引き出し、それを支援するかが問われる時代なのだ。
どうすれば相手の主体性が育つのかを考えるなかで、いつも気づきを与えてくれる存在がいる。それが、元麹町中学校長の工藤勇一さんだ。
工藤さんが教育において大切にしているのは、自分で決めて行動する力だ。
日本の学校教育は「起立、気をつけ、礼、着席」に象徴されるように、すべてが命令形で、「あれをやれ、これをやれ」と大人たちから指示が与えられ続ける。指示を与えられることに慣れ、それらをこなすことで評価される教育では、主体性は育たない。
そのため、工藤さんが校長になった麹町中では、宿題も定期テストを廃止し、先生たちから「勉強しろ」と言わなくした。その代わり、「どうしたいの?」「何か手伝えることはある?」と生徒に問いかけていく。
この方針を工藤さんが掲げた時、教員からも保護者からも不安の声があがったらしい。だが、何も言われなくても、自分から勉強するようになっていく生徒たちの姿を見て、工藤さんの目指す教育の姿が段々と理解されていったそうだ。
当たり前かもしれないが、成長したくない子どもなんて一人もいない。相手を信頼し、見守っていく力が、工藤さんは圧倒的にすごい。
麹町中学校で大胆な改革を行った工藤さんは、2020年から横浜創英中学・高等学校の校長を務めている。この学校では中学1年生の総合学習の一環として、経営者や研究者など、様々なゲストを招いた講演会を開いている。ぼくも工藤さんから声をかけてもらって、90分ほどの講演を先日行ってきた。
工藤さんは、横浜創英でも大胆な教育改革を進めている。
そのひとつが、どういう風に学びたいかを生徒自らが考えて、主体的に授業を選ぶことができる仕組みだ。生徒の数だけ時間割がある学校を、工藤さんは横浜創英で実現しようとしている。
例えば、英語を学ぶにしても、学び方は様々だ。講義形式で先生から教わりたい生徒もあれば、友達との教え合いやコミュニケーションに重きを置いて学びたい生徒もいるし、黙々と一人で学びたい人もいる。横浜創英の英語の授業では、幾つかの異なるスタイルの授業が用意されいて、どれが自分に向いているかを自分で選んでいく。
更に面白いのは、企業とのコラボレーション授業も行っていて、ベルリッツが提供する英会話の授業や、マインクラフトを使って英語を学ぶ授業も用意されている。
横浜創英の改革の現場の空気感を味わいたいと思って、オンラインではなく、実際に行った。そして、変わろうとしている空気をヒシヒシと感じた。
その中でも一番驚いたのは、横浜創英の先生たちが、工藤さんの影響を受けて変わってきていることだ。どんなに工藤さんが改革の旗を掲げても、先生たちが変わらないと実現はできない。
長年「教える」に重きを置いてきた先生が、「見守る」「支援する」にスタイルチェンジするのは、簡単なことではないだろう。それで、どうやって先生たちを変えることができたのかを、工藤さんに聞いてみた。
工藤さんは「見守る」「支援する」とは何かを言語化し、ことあるごとに先生たちに伝えることを大切にしてきたそうだ。わかりやすい言葉にまで落とし込み、どんな先生でも応用できるものにしていく。その言語化こそが、自分の使命だと工藤さんは言う。
もちろん、最初から工藤さんの教えを体現することはできない。だが、工藤さんの言葉を意識しながら生徒たちと向き合い、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しているうちに、工藤さんの言葉の本質が段々とわかってくるそうだ。
工藤さんの話は、ハッとさせるものがあった。
なぜなら、「コルクの編集者は『見守る』『支援する』を大切にしていくべきだ」と考えながらも、それを体現するにはどうしたらいいかを言語化し、社員に伝えることにを躊躇していたからだ。そもそも、「編集とは何か」を言語化しても、社員には向けて発していない。
起業間もない頃は、ぼくが目指す編集者像や「編集とは何か」を社員に伝えようと躍起になっていた。でも、ある時から、それはぼくの考えの押し付けではないか。それよりも、目指したい編集者のあり方を各自が考えて、実行していくことが、社員の成長につながるのではないかと思うようになった。
だが、今回、工藤さんの話を聞いて、自分の考えを少し見直したほうがいいかもしれない。言語化して伝えるにしても、どういう言葉に落とし込むか、どういう風に伝えるかで全く変わる。
会社経営とは、育成である。最近は、そんな風に考えている。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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