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革命は辺境での偏愛から起こる。 昆虫食からイノベーションを考えた。

「わかった」「知っている」というのは、ゴールではない。踊り場だ。

そんな風に感じている時は、退屈しはじめている証拠で、どうやってそこから抜け出すかなのだが、問題はその方法が簡単に見つからないことだ。

僕は、食へのこだわりが相当ある。小学生の時、家族で寿司に行き、どうしても食べてみたいネタがあると「自分のお年玉で食べる」と親と交渉をしていた。大学時代、イタリアンのキッチンでのバイトをし、昼は自分で弁当を作り、ペットボトルに自分で作った麦茶を入れ飲み続け、お金を貯めていた。そして、月に一度、気になっている都内のレストランでランチのコースを食べ歩いていた。サラリーマン時代は、会食をどこでするかを毎日、1時間はかけて探していた。

そんな僕も、最近は、有名なレストランは都内、地方と行き尽くし、正直、新しいレストランを開拓する情熱はなくなっていた。美味しいけど、ワクワクはしないよなー。そんな感覚だった僕が、食べ終わるや否やすぐに「お店を貸し切って、友人みんなでここの食について語り合ってみたい」と思う出来事があった。

予約する時にお店を貸し切るというも、普段はしなくて、はじめてのことだ。

僕の食の概念を揺さぶってくれたレストランは、昆虫食の魅力を届ける『ANTCICADA(アントシカダ)』だ。

今年の春に開業した日本橋馬喰町にあるレストランで、食材としての昆虫の魅力を伝えるコース料理やコオロギラーメンを味わうことができる。

この昆虫食レストランを主催しているのは、「地球少年」こと篠原祐太さん。

現在25歳の篠原さんは、昆虫料理の開発や、昆虫食ツアーやワークショップなど、昆虫食の魅力を伝える様々な活動をしている。とにかく昆虫が好きで、野宿をする時にはテントが自分と地球を遮るものとして邪魔に感じてしまうくらい地球が大好きだと言う。

ただ、昆虫食には強い興味が持てず、コオロギラーメンも話題先行で、味は美味しくないだろうと勝手に想像していた。無理して食べるほどのものではないけど、話題として面白いかなと友人が予約している枠で食べに行った。

結果、僕は感動した。

僕の興奮を共有するために、当日のツイートをいくつか貼り付けてみる。

どの料理も斬新で、食への概念が更新されると同時に、何かを「アップグレード」するというのは、こういうことなんだと実感した。

あなたが、歴史を代表するシェフになりたいと思ったら、どうするだろうか? 僕だったら、日本食・フランス料理・中華料理などを学び、料理の型を習得してから、自分の個性を加えていこうとすると思う。実際、多くの料理人がそのようにしている。いい料理人と出会うと、修行はどこのお店でしたのですか?と質問する。料理人の修行は、レストランでするものという思考の枠の中に僕はいる。

しかし、それ起こせるのは「アップデート」。今までの料理の改善や更新だけだ。

だが、篠原さんたちのアプローチは違う。(篠原さんの元に、すごく魅力的な20代が集まっていて、それも魅力的だった)

そもそもが、昆虫への愛だ。昆虫を愛しているから、その魅力を余すことなく伝えたいという情熱がある。昆虫を食べるではない。自分が、昆虫を魅力だと思うように、食した人にも昆虫を愛して欲しい。昆虫への愛を世間に伝えるための手段の一つとして、食がある。

昆虫を突き詰めて、たどり着いた先が食なのだ。彼らには、食の新しい領域を開拓しようという気概などどこにもない。ただ、昆虫と真摯に向き合っていたら、食の新しい領域になっていたのだ。

昆虫食という辺境で、自分の愛に徹底的にこだわる。だから、「ANTCICADA」は、ロゴも、食器も、ドリンクも全てが昆虫にちなんでいて、そのどれもがすごく素敵だ。

愛を持っている人が、世界を切り取ると、全く違う景色が立ち上がってくる。篠原さんたちが見ている世界の豊潤さが、食を通じて伝わってくる。

昆虫食という名前だけ聞くと「ゲテモノ料理」だと、少し拒否感を持つ人もいるかもしれない。僕も、そのつもりで食べに行った。

でも、僕らが当たり前のように属している豚や牛も、食べはじめた当初は「えっ、そんなもの食べるの!?」と思われるような対象だったと思う。それが長い年月をかけ、飼育から精肉までの過程が洗練され、人間の舌に合うように進化してきたのだ。

昆虫というのは、これだけ人のそばにあったのに、食べ方が全く洗練されてこなかった未開の土地だ。コーヒー豆だって美味しく飲むためには、収穫してから複雑な工程を経る。昆虫を美味しく食すには、様々な新しい過程を発見してかないとダメなのだろう。それができるのは、昆虫に愛を持っていて、その可能性を信じている人だけだ。

食後に「毛虫の糞って、すごいんですよ。桜の木の毛虫の糞、嗅いでください」とジプロックいっぱいに詰まった糞を渡された。そして、びっくりした。そこには桜の香りが漂っていた。毛虫の糞は、それを砕いて粉にして食べてもいいらしい。昆虫のコース料理を食べた後だと、もう昆虫の糞を食べることに抵抗感がなかった。今度はぜひ、その料理を食べてみたいと思った。

辺境での偏愛は、イノベーションをうむ。中央での努力は改善しかうまない。

僕は辺境にいるのだろうか?本当に新しい時代を見つけ、作りたければ、辺境へ行かなくてはいけない。

そんな言葉がずっと頭の中をグルグルとする中で、昆虫食を僕は食べた。

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