
いよいよ始まった、『宇宙兄弟』の山王戦
担当作家の才能に惚れ込み、世に届けたいと思うことが編集者の原動力になる。
小山宙哉の才能を、多くの人たちに知ってもらいたい。
小山宙哉と出会った時からその気持ちは変わらないが、『宇宙兄弟』が15周年迎え、43巻が発売された今、その想いはより強まってきている。
『宇宙兄弟』を読んでる多くの人は、小山宙哉の才能のすごさはもう十分すぎるほど知ってると思うかもしれない。でも、その奥深さをまだ知らない。ここからだ。
現在、『宇宙兄弟』の物語は最終シリーズで、いよいよ完結に向かっている。
最新の43巻では、物語が完結に向かっていることが、小山さんからのメッセージでも明示された。Xのポストなどで、「ここで終わるのかよ!」と、最高にもどかしい気持ちになってる投稿を楽しみながら見ていた。
ぼくは43巻を読むと「いよいよ始まるんだな」という気持ちになる。昔、小山さんとした約束がついに果たされる。
ぼくと小山さんはお互いが新人の時に出会ったこともあり、どんな作品を作りたいかという話をよくしていた。
ぼくらにとって、目指したい作品の象徴は『スラムダンク』の山王戦だ。
ハラハラドキドキの連続で、読む手が止まらなくなる。その上で、心に残る名シーンや名言が読み終わった後も記憶にずっと刻み込まれる。
山王戦は読書というよりも、体験だ。実際に体験したような強烈な記憶が残る。現実よりも、作品の方がリアルだ。そんなマンガを生み出したい。そうした目標を共有していた。
一方、雑誌での連載を考えると、途中の一話だけを読んでくれた人でも、楽しめることが大事という話もしていた。そのほうが雑誌の読者を大切にできるし、そこから作品の読者になってくれる人が生まれるはずだからだ。
長期連載作品として、大筋となる物語を追う面白さを大切にしながら、単話ごとに読み切りのような面白さをつくっていく。この両立がしっかりとできているところが、『宇宙兄弟』という作品の秀逸なところだ。
だが、山王戦のような没入感を目指そうと思うと、これまでの『宇宙兄弟』のスタイルでは難しい。読み切り感がないほうが、物語により大きな波が生まれる。
43巻の後半を描いている時、小山さんから「これまでのスタイルから変えていきます」と告げられた。1話読み切り形式を弱くして、大きな一つの物語を一気に描くと言う。ここから、ぼくたちの、『宇宙兄弟』にとっての山王戦が始まるという覚悟を感じた。
奇しくも、このタイミングで、映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開された。
小山さんが無意識のうちに『THE FIRST SLAM DUNK』の影響を受けているのではないかと、この43巻を読んでぼくは思った。まるで2時間の映画を、一気に描き下ろしていこうとしているように思ったのだ。
43巻から先を、一つの映画にできる。この43巻のところがオープンニングで、巻末のあとくらいに、『宇宙兄弟』とタイトルロゴが出てきそうだと感じた。そんな絵が目に浮かぶ。
小山さんが『宇宙兄弟』完結に向けた最後の山場を描き切った時、世間はどんな反応をするのだろう。
これまで何度も小山さんの底知れぬ才能に驚かされてきたが、過去最高の驚きを届けてくれるのではないかと思って、ワクワクしている。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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