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二次創作がもたらす、滑らかな成長

先日、コミックマーケットが開催された。今回で100回目の開催を迎えるコミケだが、世間一般のニュースでも報じられるようになり、今や夏の風物詩と化しつつある。

コミケといえば「二次創作」の販売だが、二次創作の世界で定期的に話題となるのが「著作権」に関する問題だ。基本的に、コミケなどの同人誌即売会で販売されている二次創作物のほとんどは無許諾で販売されている。

著作権侵害は著作権者が声を上げることで成立する事案で、二次創作の内容に悪意があると著作権者が判断すれば、著作権侵害で告訴することもできる。過去には訴訟に発展した二次創作物も存在するが、ケースとしてそこまで多くはない。

著作権者側の黙認という形で育ってきた日本の二次創作文化だが、黙認するのには幾つか理由がある。例えば、二次創作物の多くが原作のファン活動として好意的であったり、二次創作が原作の宣伝となることだ。そのため、公式が二次創作のガイドラインを発表するケースも最近では増えてきた。

ぼく自身の考えをいうと、二次創作とは「創作の楽しさ」を多くの人が味わうことのできる行為だと思っている。

基本的に、「学ぶ」とか「遊ぶ」という行為は、何かの真似をすることから始まる。音楽にしても、好きなミュージシャンのマネをしてカラオケで歌ってみたり。料理にしても、レシピ通りにマネしてみたり。何もないところから、学びや遊びが生まれることはない。

そんな風にマネをする中で、ちょっとした「自分らしさ」を加えてみたいとなると二次創作になる。更に、その「自分らしさ」が増えていくと、自然とオリジナルになっていく。

先日、『pivixFANBOX』を運営する坂本さんと二次創作についてYouTubeで対談した。坂本さん曰く、二次創作の投稿から始まり、オリジナル作品を投稿する作家へと成長していくクリエイターがpixivでは多いらしい。

自分の尊敬する作品から学びながら、自分のオリジナルへと推移していく。二次創作とは滑らかな成長をもたらす行為だ。

多くの新人マンガ家と接していると、オリジナル作品を描くことに最初から挑戦しようとする人が多い。でも、ぼくは二次創作を経由することを選択肢に入れたほうがいいのではないかと思う。

YouTubeやTikTokを見ていると、活躍しているクリエイターの多くは、二次創作が上手い人たちだ。企画元となるネタを見つけて、それを自分風にアレンジしている。そしていつしか、企画の元ネタを作り出す存在へと変貌を遂げていく。

創作にあたって、「ゼロから考え出した、完全なオリジナルを作らないといけない」と考えてしまうと、すごく苦しくなってしまう。いくらでも思いつく人は、自分のアイディアでどんどん創作をすればいい。創作を楽しみたいのだけど、なかなか手を動かすことができない人は、まずは自分の好きな作品の二次創作を楽しんでやってみる。そうしたマインドから始めたほうが、創作自体を楽しむことができるし、結果的に成長につながるのではないかと思う。

歴史を振り返ると、広く流行するコンテンツとは、多くの人がマネができ、二次創作のできるコンテンツだ。

料理を例にすると、わかりやすいかもしれない。多くの人がマネができて、その家庭ならではのアレンジを加えられるものが、国民食として普及していく。「この料理は必ずこういうレシピで食べてください」とガチガチに固められたものが、世間一般に広がっているケースは見たことがない。

一方、作品の著作権を扱う立場からすると、著作権を守ることは大切だけども、過度に守り過ぎてもいけない。権利者である作者にとっても、作品のファンにとっても一番いい形とは何かを考えて、運用していく必要がある。

例えば、『スター・ウォーズ』はファンによる二次創作物のコンテストを公式が定期的に開催していたりする。アメリカのような権利をガチガチに守る社会で、こうした取り組みを行っているのは、とても参考になる活動だ。日本にいると『スター・ウォーズ』って面白いけど、なんでそこまですごいのか、いまいちわからないところがある。アメリカへ行くと、圧倒的な二次創作によって、人気が支えられているのだとわかる。

クリエイターを生み出すエコシステムである二次創作。二次創作を作家の育成の過程に取り込みたいし、生み出す作品がたくさんの二次創作に支えられるようにしたいと思う。


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。日記には、どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを書いています。子育てをするなかで感じた苦労や発見など、かなり個人的な話もあります。

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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

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