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本屋さんだけが知っている、本当のお勧め本 【DJ編集者としての連載 #01】

僕は、編集者という仕事を時代に合う形にアップグレードしたいと思っている。

音楽は、機材のデジタル化に伴って、たくさんの人が気軽に曲を作れるようになった。そのことで、曲を作る人だけでなく、曲を紹介するDJの価値が高まった。ワインも同じだ。いいワインを素人が見抜くのは難しい。ソムリエの説明を聞くことで、安くて美味しいまだ無名のワインを見つけることができる。

ブログや今、まさに僕が文章を書いているnoteのようなメディアができたことで、文章を発表する人は増えた。しかし、メディアの編集者は、相変わらず作家を探してきて、自社メディアに文章を掲載している。

現代の編集者は、ネット上から価値ある文章を見つけてきて、その魅力を伝える情報の編集者になることが求められているのではないか。

そう考えて、僕のnoteでは、定期的に僕が魅力的だと思った書き手に寄稿してもらおうと思う。

その第1回目は、元書店員で、ブロガーの潮見惣右介さんだ。潮見さんのことは、夏目漱石の「月が綺麗ですね」について考察している文章で知り、文章の依頼をした。

今回潮見さんは、本屋さんだけが知っているお勧め本を紹介してもらった。確かに、本屋さんに行く習慣があっても、行くコーナーがいつも一緒で、新しい本との出会いはそこまでない。潮見さんならでは、お勧め本はなんなのか?

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ぼくは去年の春まで本屋で働いていた。
もともと本屋が好きで、普段からよく通っているのだけど、実際に働いてみて気づいたことがひとつある。

それは「自分の興味のあるジャンル以外の売り場は、全然視界に入っていない」ということだ。

本屋で働きはじめてから、あぁこんな本あったんだ、こんなジャンルがあったんだ、と知る機会がとても多かった。
どこの本屋に行っても同じような売り場にしか足が向かないのは非常にもったいない。そう考えるようになってから、Twitterで視野を広く持とうと、意識して宗教とか植物とかそういうジャンルも軽く見てまわることにした。自分のタイムラインには、今までにはなかった言葉が流れてくる。

児童書や学習参考書の売り場を見る機会のある人は少ないと思う。実は、「幼児向けのはじめて国語辞典」というものがいろんな出版社から発売されている。特に新学期シーズンである春は、店頭にたくさんの種類が並んでいて、それなりに売れているジャンルだ。
だけどそれらは玉石混交、真摯に作り込まれたものもあれば、悪い言い方をすれば子供だましかと思うような商品もある。
幼児向けであっても、多くの人に支持されているものは、細部まで神が宿っている。国語辞典の表紙デザインからも、「子供だましでは子どもも騙せない」ということがわかるのだ。

とある出版社と人気アパレルブランドがコラボして国語辞典を出した。
そのブランドはパステルカラーの色使いと品のよい装飾をあしらったデザインが象徴的で、特に女児向けの洋服で高い人気を誇っている。当然、コラボした国語辞典の表紙もパステルカラーを基調としたものになっていた。
しかし、表紙のタイトルの「丸ゴシック体」は、子供を意識していて、ブランドのイメージとはかけ離れていた。

この辞書の表紙とフォントは、デザインセンスの良し悪しという単純な問題ではなく、細部にまで意識が行き届いていないことの表れなのだ。

有名ブランドとコラボすれば売れる、と勘違いされがちだが、実際はそういうものではない。ブランドものが売れているのは、ブランド名ではなく「ブランドの世界観」のおかげだ。世界観を商品に落とし込めなければ、ファンは喜ばない。ましてや、子どもは大人のようにブランド名のロゴに心を揺さぶられることがないからこそ、ブランドの世界観をしっかりと再現しなければならない。
それなのに、ブランドの世界観を壊してしまうような不正解のフォントを選んでしまっていた。

知人の娘さんが、そのブランドを大好きで、10万以上するランドセルを購入していた。しかし、その国語辞典は買わなかったという。

世界観が壊れているものは、子供が対象でも通用しないのだ。

この辞典をきっかけに、逆に素晴らしいコラボ辞典の存在にも気づくことができた。

小学館の「ドラえもん はじめての国語辞典」だ。

(出典: https://mr-design.jp/works/4694/)

ぼくがドラえもんのファンであることを抜きにしても(むしろファンだからこそ厳しく観察するのだけど)、タイトルのフォントを見れば、全ての作業に神経が通っていることは明らかだった。表紙の色合いもよくて、とても品のよいイエローとドラえもんブルーなので、ぜひ本屋で実物を手にとってほしい。ぼくは本屋でこれを見掛けて思わず手がのびたし、そしてなにより実際によく売れているそうだ。

神は細部に宿る。大人も子どもも、そういうものを嗅ぎ分ける。もしかすると子どもほどそういうものに敏感かもしれない。
ぼくは世界観を見極めるのに、「フォント」という自覚的なセンサーを使っている。しかし、自覚的でなかったとしても”なんとなく”で見破られてしまう。誰でも何かしらのセンサーを持っていて、無意識であろうと、「真摯に作り込まれたもの」と「それっぽいもの」をしっかりと嗅ぎ分けている。

出版に限った話ではないけど、業界でひとつのヒット商品が現れると、すぐさま他社から類似品が出てくる。本屋で働いているとそういうものをたくさん見る。その回転スピードが年々早くなり、作り手側の後ろめたさみたいなものが徐々に薄れてきている。「まぁ、そんなもんだよ」と言われればそれまでだが、そうではないものも確かにちゃんと存在する。
むしろちゃんと嗅ぎ分けられる人から順に、しずかに心が離れてゆくのだということを、ぼくはこの文章を通して伝えたかったのだ。

ちなみに「ドラえもん はじめての国語辞典」の表紙デザインは、アートディレクター・佐野研二郎氏をはじめとする「MR_DESIGN」によるクリエイションだ。


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ここまでが、潮見さんのよる寄稿だ。様々なコラボ国語辞典が出ていることを僕は全く知らなかった。そして、世界観に関する潮見さんの洞察は、全くその通りだと思う。世界観は、メディアを変えるときに崩れやすい。壊すことを恐れて、レギレーションを厳しくすると、広がらない。かといって、自由にしすぎると、変なものでる。そのバランスを見つけるのが、すごく難しいし、それが編集者の腕の見せ所でもあるのだ。

潮見さんのツイッターは、

noteは、


僕のnoteには、定期的に外部の寄稿を掲載します。僕による編集もつきます。掲載して欲しい人は、ぜひ、僕のツイッターで連絡をください。


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