贈与に出会い直すために、観察力を鍛える。
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贈与に出会い直すために、観察力を鍛える。

来週、『観察力の鍛え方』が発売する。

いい観察をするには、「わかった」と思うことなく、判断保留の態度で観察し続けることが重要だ。バイアスを排し、ありのままに見つめ、その背後にあるものを捉える。

この本を書くことで、ぼく自身も大きく変わった。
以前より、判断保留をより意識して、ものごとを観るようになった。

判断保留とは、期待を手放すことでもある。

以前、「人を育てるとは、期待しないこと」というnoteにも書いたが、相手に期待をしてしまった段階で、自分に都合よく相手をコントロールしようとする気持ちで接することになってしまう。「こうあってほしい」というメガネで状況を見てしまう。

期待を手放して、相手を信頼する。期待は裏切られたと感じるが、信頼は裏切られたと感じることはない。相手を信じて、見守る。期待を手放すことで、やっと相手を観察することができる。

同時に、判断保留していると、自然と長期的な思考になる。

判断をするとは、今の自分が見えているもの、要は今の自分が持っている情報で、良し悪しを決めることだ。だけど、未来の価値観なんて誰もわからない。歴史を紐解くと、当時の社会で非難されていたものが、後の世で評価されている事例は多い。

50年・100年後の未来をよくしたいと長期思考で考える人と、目の前の現在をよくしたいと短期思考で考える人では、ものの見え方が変わる。どちらが良い悪いではなく、そこにズレが生じることを理解する必要がある。

ただ、判断を下してしまうと、その時点で観察は止まる。行動を起こすために決断したとしても、わかったつもりにならずに判断を保留する。観察を続けていくには、長い目でみる態度が必要となる。

判断しない。期待しない。長い目でみる。

今の世の中ではスピードは命とされ、素早く判断し、素早く行動することがいいとされる。そんな時代において、判断を保留して、観察し続けることは難しい。

『世界は贈与でできている』という本に、こんな一節がある。

 "何気ない日常の中で、あふれている無数の贈与(のありがたみ)は隠されています。
 それらは「あって当たり前」であって、それが無ければ僕らは文句を言う。
 コンビニの陳列棚の商品、自動販売機、部屋の空調設備、電車の定時運行、あるいは衛生環境やインフラ、医療 ーー。
 逆説的なことに、現代に生きる僕らは、何かが「無い」ことに気づくことができますが、何かが「ある」ことには気づけません。
 いや、正確には、ただそこに「ある」ということを忘れてしまっているのです。だから僕らは「ただそこにあるもの」を言葉で述べることができません。それはすなわち、それらが与えられたものであること、それがただそこに存在するという事実が驚くべきであること、そして、もし失われてしまえば心底困り果ててしまうことに気づくことができないということです。"

何かが「無い」ことに気づくことができても、何かが「ある」ことに気づくのは難しい。

ぼくたちは、日常を忙しく生きる中で、こうした「贈与」に取り囲まれている事実を忘れてしまう。だが、ふと、名も知らない誰かの支えによって今の自分があることに気づけることがある。その支えは、現代を生きる人たちだけでなく、過去に生きた人たちによるものもある。

『世界は贈与でできている』では、自分の知らない誰かが社会を支えていることに注目し、その誰かのことを「アンサング・ヒーロー」と呼ぶ。

無数のアンサング・ヒーローたちが、日常を安定させ、成立させているからこそ、世界は回っている。その安定が誰かによって贈られた贈与であることになかなか気づない。

そして、この見えない贈与に気づく手段が、観察だ。

ひとり暮らしをして、はじめて親のありがたみを知るように。海外旅行に行って、はじめて日本のインフラの利便性を知るように。贈与の存在に気づくには、自分の周りの環境を変えるのがいい。

贈与に気づくと、自然と有難いという感謝の想いが芽生える。そして、自分も、目の前の誰かや世界に対して、贈与をしたいと感じる。

観察によって贈与と出会い、世界の見え方が変わる。

贈与に気づけると、社会は殺伐としたところではなく、豊かで楽しいところに変わると、「観察力の鍛え方」を書きながら、ぼくは感じた。


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佐渡島庸平(コルク代表)

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