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自分の"編集スタイル"をゼロから見直す。

5月1日と2日、演劇に挑戦してきた。
この白衣の男が、ぼくが演じた教授だ。

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編集者のぼくが"演劇"に出演する理由」というnoteでも紹介したが、カフェマメヒコの井川さんが主催する演劇『ぽうく』だ。この劇は、脚本も、演出も、音楽も、全て井川さんが中心となって行われる。

色々な知り合いが観に来てくれたのだが、その中に有名ドラマのプロデューサーがいた。その人は、観終わった後に、プロの劇団員に交じって、素人のぼくが参加していると思って、感想をくれた。それが、僕としては、我が意を得たりで、嬉しかった。

なぜなら、役者をはじめ、音響・照明・美術などのスタッフも、「プロ」と呼ばれる人は一人もいないからだ。井川さんは、カフェのオーナー。僕は編集者。全員が、好きで集まって、好きのおすそ分けとして、劇をした。

役者は、ぼくをはじめ、中心はコルクラボのメンバー。スタッフは、カフェマメヒコの社員や常連のメンバー。数人、劇をやったことがあるけど、主演の二人は完全に初めて。そんなメンバーで作り上げた演劇が、プロから、プロと勘違いされたというのは、なんだかすごく嬉しかった。

今回の演劇から得た気づきは多く、新鮮なうちに書き留めておきたい。

まずは、マンガ編集者としての気づき。

ぼくは、新人マンガ家と作品の打ち合わせをする際、セリフやプロットについて、多くの時間を費やす。作品づくりにおいて、ストーリーこそが最も重要で、セリフやプロットを整えていくことが、作品の強度を高めていくと考えているからだ。

ただ、このスタイルは考え直すべきかもしれない。

今回の演劇は、役者の経験が乏しいため、途中で脚本に修正を何度も入れると、充分な準備ができなくなる可能性がある。そのため、早い段階で、井川さんから「脚本に関しては、これ以上の修正はしない」とメンバーに伝えられた。一方、ストーリーについて深く考える癖のあるぼくは「ここを修正しないと、劇全体の面白さが損なわれてしまうのでは」と感じる箇所を発見することがあり、その度に劇の出来に対して心配になったりしていた。

しかし、稽古が進むにつれ、それは杞憂に終わった。

芝居では、セリフを読み上げるときの声のトーンや間だったり、役者の立ち位置で、同じセリフでも伝わるニュアンスや感情は全く変わる。さらに、照明や音響が加わると、その違いはより明白になっていく。

井川さんは、脚本を修正するのではなく、演出を調整することで、劇全体の完成度を高めていったのだ。

その姿を見ていて、ぼくがマンガの完成度を高めるために普段やっていることは、視野が狭かったのではないかと感じた。作品をよくするためにできることは沢山あるのに、脚本の赤入ればかりに注力をしていたのではないか。

そんな風に、自分の編集スタイルをゼロから見直すきっかけとなった。

次に、チームビルディングの気づき。

チームビルディングの勉強をすると、チームの発達段階として、4つのステージが存在することを知る。

お互いを知る「形成期/Forming」からはじまり、お互いの本音をぶつけあう「混乱期/Storming」を経て、統一感が生まれはじめている「統一期/Norming」となり、チームとして高いパフォーマンスを発揮できる「機能期/Performing」へと移行する。いわゆる、タックマンモデルだ。

ただ、ぼく自身は、Storimingを経て、Performingまで至った体験したことがなく、理論だけ理解している状態だった。それが今回の劇で、Performingの段階にあるチームというものを初めて体感できた。

練習が終わる度に、演者同士が、シーンの意味を議論しあって、改善をしあっていた。そこでの率直なやりとり、自然発生的な改善の繰り返し。「これがPerforming段階にあるチームの状態なのか」と肌で感じることができた。

そして、カフェマメヒコのチーム力も感じた。心理的安全性が高いというのは、優しく声がけをする状態ではない。外部の人には、喧嘩かと思う率直さで話し合いながらも、関係が崩れないという安心感があること、という。その様子をそばで観察することができた。

井川さんとマメヒコのスタッフの人たちの会話の言葉だけを切り取ると、乱暴なやり取りのように映る時がある。例えば、スタッフが自分の考えと違うことをやっていると、「違ぇよ、バカ!」みたいな感じで話す。

心理的安全性とは、下も上もどちらも率直に意見を言い合える状態だ。最近は、パワハラとか言われやすいから、上の人も率直なフィードバックができないことがある。井川さんの言葉は、外部からは乱暴だけど、チームの中の人にとっては、井川さんが大切と思うポイントが効率的に伝わるコミュニケーションとも言える。

心理的安全性が高い状態というのは、お互いに気を遣うことではなく、共通のゴールに向かって、お互いが見えている景色を遠慮なくシェアしあえる状態のことだ。心理的安全性が高い状態のリアルな現場だった。

ぼくが特に印象に残ったのは、打ち上げでの井川さんのスピーチだ。

カフェマメヒコでは、井川さん主催の演劇を定期的に行ってきたが、今回の劇場は、これまでで最も大きい舞台だった。それだけに、音響も照明も今まで以上のものが必要で、スタッフとしても初めてのことばかり。さらに、いつもは井川さんが主演も兼ねているのだが、今回は井川さんはちょっとしか出演しない。代わりに出演するのは演劇経験が乏しいぼくらだ。今回の演劇は、ぼくらにとっても挑戦だったが、スタッフにとっても大きな挑戦だったのだ。

現在、コロナウィルスによる影響で飲食業は大きな打撃を受けていて、マメヒコも例外ではない。しかも、この状況を脱する出口が見えていない状態が続いている。でも、今回の難しい劇を、みんなでやり切ったのだから、新型コロナもみんなで乗り越えようと、井川さんはスピーチで語っていた。

今回の劇でそうしたように、マメヒコの店員は、自分がやりたいように自由に工夫してやっていけばいい。その自由が、お客さんにとっての不自由だったからといって、店員が悪いとはならない。お客さんにとっての自由と、自分たちの自由を、どういう風に擦り合わせればいいのか。それを毎日改善しながら、一緒にカフェを作っていこうと、井川さんは言う。

このスピーチを聞きながら、心理的安全性を築いていくとは、こういうことだと感じた。心理的安全性が高いマメヒコのスタッフに囲まれて芝居ができたことで、ぼくらも自然とお互いの意見を率直にぶつけ合うことができたのではないかと思う。

カフェが苦しい時に「なぜ井川さんは、ここまで劇をやるのだろう?」と少し疑問に思っていたところがある。でも、最後のスピーチを聞いて、僕なり理解した。

演劇を通して、チームが出来上がって、コロナを乗り越える準備をしていたのだ。「でたらめな社会を、なんだかなぁと言いながら、みんなで乗り越える」準備を。僕は、井川さんという人のリーダーシップを身近で体験させてもらえた。リーダーシップ、フォロワーシップ、その両方を学べる体験になった。

最後に、今回の演劇を通じて、カフェマメヒコを応援したい気持ちが今まで以上に高まった。井川さんをはじめ、スタッフの人たちが本当に魅力的で、この人たちが作る居心地のいい空間を、多くの人に体験してもらいたい。

僕は翌日の朝、カフェマメヒコで朝ごはんを食べて、劇の余韻を味わった。


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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。