消費されない作品の届け方
ここ数年でサブスクリプションが隆盛し、映像や音楽に留まらず、マンガや小説などのエンタメにも波及しつつある。
勝っているサブスクリプションは、レコメンド機能がいい。
ApplemusicからSpotifyに変更した時、その使い心地に驚いた。自分好みの曲を次々にレコメンドしてくれて、その精度に感心したのだ。ただ、数ヶ月使っていて、音楽への興味が薄れてきた。
僕は大学時代、渋谷のHMVで毎月100枚以上のCDを視聴して、2、3枚を買っていた。これぞという歌手を見つけて、喜んでいた。
Spotifyのレコメンドだと、そのような音楽との出会いが少ない。どこか80点くらいの音楽ばかりで、好みの方向なのだけど、完全に心を捉える100点満点と出会えない。
Spotifyを使っていると、音楽がBGMになってしまう。感動までは到達しないが、満足はできるものに多く囲まれた状態で、自分が求める120%を探しにいくことを多くの人はしない。僕も、Spotifyのレコメンドの質を上げるために、せっせと検索して、お気に入りを押して回るのはなかなかできない。
音楽も、本も、ファッションも、好きな人のための業界だった。ネットにより、それが誰でもアクセス可能になり、触れやすくなった。その分、こだわりが減っていった。
UNIQLOやMUJIに行くと、デザインも素材も悪くないものが簡単に手に入る。僕もそうだが、ファッションに強いこだわりはないけど、ダサい格好はしたくない人は、そこで十分満足できる。
SpotifyやYouTubeで、人気の音楽は、睡眠用だったり、ワークアウト用だったりする。サブスクリプションのマーケットだと、音楽好き向けよりも、音楽にそこまで興味がない人向けの音楽の方が需要がある。
そのようなマーケットの流れを、クリエイターは無視することができない。でも、どうやったら、いいBGMになるかと考えながら、曲を作るミュージシャンは少ない。どうやって、心に一生残る一曲を作れるかとずっと考えている。
漫画家であれば、暇つぶしとして、サラッと読んでもらうものではなく、一生残るざわっとした気持ちを植え付けたい。
それで、元ロード・オブ・メジャーの「けんいち」と一緒に作っている曲は、一工夫もフタ工夫もしながら、曲をファンに届けている。
毎週月曜日の夜11時も、インスタライブを行なっている。ファンからのリクエストに応えながら、制作中の新曲の話をしていく。
そして、毎月25日を新曲の日と決めて、12ヶ月連続で発表している。今は、2曲を発表した。漫画の連載みたいな感じだ。そして、25日の夜も、11時からインスタで新曲発表ライブをやっている。
さらに、25日は、どんな想いで曲を作っているのかを、けんいちさんが、一noteに書く。曲ができるまでの感情の流れも、ファンと共有する。
一曲を消費なれないように、こちらの気持ちと一緒に、ファンに届ける。ファンに、こちらの心を察して欲しいと甘えない。
そして、今は、定期的にライブをすることにしている。今度は、11月4日に東京でライブをする。ライブ前に、僕が場内アナウンスをする。
「けんいちは、一曲一曲を丁寧に作っている。できれば本人が手渡しで曲を渡したいくらいだ。でも、それができない。代わりにファンのみなさんが、他のファンに手渡しで曲を届けて欲しい。そのために、ライブ中の録画・録音は自由。それをSNSに投稿して、自分の知り合いに届けてください。」
けんいちの想いを理解している人が、言葉を添えて、曲を届ける。レコメンドで偶然流れるだけで音楽が届く形じゃないほうがいい。
Spotifyは多くのミュージシャンを金銭的に救った仕組みではある。でも、作り手の気持ちをあげない。
クリエイターが、自分の想いを安心して吐露できるクローズドなコミュニティをどう作るのかが重要だなと改めて感じた。僕のこの思想と方針は、スケールしないという指摘を受ける時があるのだけど、グレーフルデッドがネットがない時代にこのやり方でしっかりスケールしている。僕は、よりこのようなやり方が向いた時代が来ているのだと考えている。
僕は、ファンを通じて、好きのおすそ分けをしてもらいながら、作品を世に広めていきたいのだ。
今週も読んでくれて、ありがとう!
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