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その人の本質は、お金の使い方に表れる

「あの人は成功しているよね」

そんな風に僕らが言うとき、うまく稼いでいる人を指していることが多い。

しかし、お金は手段でしかない。稼いでも成功ではない。お金があっても不幸せな人はたくさんいる。お金をうまく使っている人こそが成功している人だ。人の本質はお金の使い方にこそ表れる、とぼくは思う。

いいお金の使い方からは、意志を感じる。世の中を、このような方向へしていきたい、という意志を。

ぼくは人の意志を感じるのが好きだ。ぼくは、本好きと言うよりも、本から漏れ伝わってくる作家の意志、思想が僕は好きなのだ。

だから、本を読みながら、「なぜこの一文を書いたんだろう?」「あえてこの言葉を選んだのは、どういう理由だろう?」と頭のなかで作家と会話してる。ぼくにとって文学の醍醐味は、ストーリーの面白さではない。作家との対話を楽しみ、思想や意志に触れることが、ぼくにとって文学の価値だ。

ぼくは、ストーリーから創作者の意志を読み取るのは得意だけど、それ以外のモノからは、なかなかできない。しかし、時々、レストランやホテルなどからも、美味しい、居心地がいいだけなく、意志を感じ取ることがある。そして、「これは作品だ」と感じる。

今回、強烈な意志を感じるホテルに泊まった。

GOの三浦さんに誘われて泊まった、群馬の前橋で去年の12月に始業した『白井屋ホテル / SHIROIYA HOTEL』だ。

このホテルは、江戸時代から続く「白井屋旅館」がはじまりで、森鴎外や乃木希典などの多くの芸術家や著名人に愛されてきた場所だったのだが、中心市街地の衰退とともに2008年に廃業。そこを新しくリノベーションしたホテルだ。建築家は、藤本壮介さん。

建築とアートが融合したホテルだ。

このプロジェクトを推進しているのは、JINS社長の田中さん。ホテルは、JINSの事業ではない。田中さんの個人としての活動だ。田中さんは、私財をどんどん前橋に投資している。

アートホテルというと、アートが飾られている空間を想像すると思う。白井屋ホテルは、ホテル、各部屋がアート作品になっている。お洒落な内装ではない。部屋自体がアートなのだ。アートの中に泊まる。

その経験自体も最高なのが、ぼくが一番感動したのは、田中さんがホテルに込めている「意志」だ。

ここをベースに前橋という街を再構築する。その意志表明としてのホテル。

田中さんは、前橋の出身だが、前橋に改めて関わるようになったのは10年くらい前からだそうだ。前橋の地価は県庁所在地のなかでも最下位を争う状態で、開発も進んでいないが、地域全体では34万人の人口を抱えている。商売人の勘で、何とかできるのではないかと感じていたらしい。

ちょうどその頃、「白井屋が売りに出され、跡地にマンションが建設されるかもしれない」という話を聞き、白井屋旅館跡を購入したことからプロジェクトがはじまった。ホテルだけでは、街を復興させれないと指摘する人もいるだろう。ホテルは、はじめの一歩にすぎない。

田中さんがしようとしているのは、前橋の街づくりだ。

ホテルを、じっくり観察すると、田中さんがどんな街を生み出したいと思っているのかを妄想できる。田中さんは、ホテルと並行して、前橋のビジョン策定にも関わった。成功者として外部から意見を言うのではない。私財を投じて、自ら関わりにいく。

前橋の文化・芸術の振興や地域活性化のために『田中仁財団』という財団も立ち上げ、起業家を支援したり、クリエイターを育成したりしている。ホテルは、その財団で支援した人たちが活躍する場の一つだ。

建築物を作って終わりではない。人が街を創る。その思想のもと、教育の機会、実践する場が、前橋に用意されている。田中さんは、ホテルを作ろうとしているのではない。前橋の人を育て、人が人を呼ぶ街を作ろうとしている。

50年・100年という長期的なスパンで、地元の人たちと一緒に、前橋の文化を育てていこうとしている。白井屋ホテルは文化の象徴であり、人と人が出会うプラットフォームになろうとしている。

そもそも白井屋ホテルは、儲けようとしていない。利益が出たら、その一部は、前橋発展のために毎年寄付するこが最初から決まっている。

白井屋ホテルのカフェで、田中さんの話を聴きながら、カッコいい、幸せな生き方だなとぼくは感じた。

田中さんがずっと話していたのは、自分がどう稼いだかではない。自分がどうお金を使っているかだった。みんな、お金を使うと、それがどうお金になって戻ってくるを話す。でも、田中さんは、そのお金で前橋と前橋の人がどう変わっていくかを話していた。

お金を、未来のために使える人はカッコいい。そして、白井屋ホテルは、その象徴として最高にカッコよかった。

マンガ家や小説家といった作家だけでなく、田中さんのような経営者であれ、シェフであれ、建築家であれ、時代を超えて価値が残る作品をつくる人たちを、ぼくは心から尊敬する。

レストランにいっても、建築物を見ても、流行りのプロダクトに触れても、ぼくが思うことは同様で、「そこに、どんな意志が込められているのか?」だ。作り手の意志や、そこはかとない狂気を感じるものは、どんなジャンルでも「作品」と呼びたくなる。

前橋が、豊かな都市へと生まれ変わろうとする、「めぶき」をぼくは感じた。


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佐渡島庸平(コルク代表)

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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。