バッファロー5人娘
本の編集作業をしている時に考えていることは、「この本を一人でも多くの人に読んで欲しい」だ。
もちろん書店へ行き、自分で買って、大切に読んでもらえるのが一番うれしい。でも、友達から借りてであったり、マンガ喫茶であったり、電子書籍であったりしても、うれしい。どんな形であれ、読んでもらえて、その本から何かを感じとってもらえると、すごくうれしい。どこでどんな風に読んだのかってことは、些細なことだ。
シャンプーは、コンビニ、ドラッグストア、スーパーと、色んなところで買える。買う場所によって、同じ製品でも値段が全然違ったりする。
僕は、本だって一緒でいいじゃないか、と思う。買う人の生活のスタイルに合わせて、色んな場所で買えて、色んな形態があってもいい。
昔と違って、人々のライフスタイルは多様だ。それに合わせて、様々な商品は、売り方が多様化している。
本だけが取り残されている。本の売り方も多様化しないと、どれだけ内容が素晴らしくても、多くの人の目に触れることができない時代だ。
こういう主張をすると、書店を苦しめるぞ、と反論されることがある。でも僕は、書店を助けることになると考えている。有名じゃない商品を扱うよりも、有名な商品を扱った方が、書店の売り上げは伸びる。少しでも多くの人の目に触れて、口の端にのぼるようにすることは、最大の宣伝だ。宣伝費を使って、新聞広告をうったり、ポップをつくったりするよりも、売り方を多様化するほうが、ずっといい宣伝になる。
1月8日に安野モヨコの『バッファロー5人娘』が祥伝社から発売される。
この作品は、10年以上前に途中で終わってしまい、単行本化されることがなかった。
なぜ、今、単行本化するのか?
まず、僕自身が改めて読み直して、こんな面白い本が、いくら未完だとしても単行本になっていないのは、もったいなさすぎる!と思ったからだ。
『バッファロー5人娘』は安野モヨコの最高傑作なのに、なぜ単行本化しないのかと、僕に質問してくる人(日経BPの柳瀬博一さんとかライターの崎谷実穂さんとか)がいたのだけど、その気持ちもわかる。
安野モヨコが20代の時に描いた作品だが、他の作家には真似できないパワーが作品の随所から漲っていて、それを他の人とも共有したかった。
「何にそんなおびえているの?」
「…あたしをとりまく世界の全て」
「『世界の全て』はあなたを傷つけたりしない。おいで」
なんて言葉に、僕はしびれてしまう。
もう一つ、僕がどうしてもこの本を出したかった理由がある。
それは、『バッファロー5人娘』の舞台が娼館であることだ。この作品が未完だったからこそ、
『さくらん』が生まれたと言っても過言ではない。
そして、今、安野モヨコが描いている新作『鼻下長紳士回顧録(仮題)』も、娼館の話ある。
安野モヨコは、自分の作家人生の節目となる時期に、娼館を舞台とした物語を描いている。
なぜ安野モヨコが娼館を舞台に選ぶのか。その話も安野さんと色々話しているので伝えたいが、それは『鼻下長』が始まった時にしよう。
作家・安野モヨコという存在を理解するのに、『バッファロー5人娘』は、決して欠かせない作品である。だから、この作品を世に出したかったのだ。
単行本化を悩んでいた安野さんも最終的には納得してくれて、ナルティスの新上さんと単行本の打ち合わせをする時には、色んなアイディアが出てきた。単行本の裏表紙のイラストも、その時の打ち合わせで出てきたもので、今回、描き下ろしたものだ。
『バファロー5人娘』を一人でも多くの人に読んで欲しい。それで、色々な形を用意した。
1 祥伝社から発売する単行本『バッファロー5人娘』
(雑誌掲載時のカラーを収録)
2 祥伝社からの単行本を底本とした電子書籍
試し読みは、安野モヨコのサイトから。
3 コルクでフルカラー化した電子書籍
試し読みは、安野モヨコのサイトから。
電子書籍は、一部電子書店をのぞき、単行本と同日発売。
4 豪華本の制作
クラウドファウンディングのCampfireと協力して、モノクロ版、オールカラー版の豪華本を作る。1冊、1冊なんと手作り。部数限定、すべて箔押しでナンバリング!1月中旬から、Campfireでサイトをオープン。
https://vimeo.com/56405952
5 UULAマンガ
2月上旬開始予定のソフトバンクの新サービスUULAで、声優の声付きで『バッファロー5人娘』を配信。
6 UULAミュージッックビデオ
倖田來未さんのがカバーした「ピンクスパイダー」のミュージックビデオを蜷川実花さんが撮影。ミュージックビデオの世界観は、inspired by『バッファロー5人娘』。この映像も、2月上旬のUULAのサービス開始とともに、配信予定。
3ヵ月間で決定したことは、上記の6つだ。
コルクの最重要事項は、作品の海外展開。もちろんその準備もしている。
起業してから一番の楽しみは、色んなベンチャーと会えることだ。お互いに、このプロジェクトを成功させて大きくなろう、っていいながら仕事をするのは、すごく楽しい。
講談社の時は、誰と仕事をするかは、もう誰か別の人が決めていた。僕のミッションは、どううまく仕事をするかだった。
でも、誰と仕事をするか、を自分で決めれると、仕事はもっと面白くなる。
マンガの海外展開は、BPSという慶応SFC出身の若手によるベンチャーと協力しあっていく。
彼らは、マンガと全く関係ない業界の出身でありながら、ほとんど出版社の力を借りず、マンガを世界に展開しようと努力していた。そのマンガへの愛情と情熱は本物だと僕は感じた。
日本の出版社は、翻訳する時、海外の出版社頼みで翻訳家を全く知らない。日本文化を海外に伝播してくる仲介人の存在を、把握できていないのが、現状だ。BPSは、翻訳家を組織化し、Wikipediaにみんなが書き込むような形で多言語化を実現しようとしている。
『バッファロー5人娘』を初めとした、安野モヨコ作品の多言語化プロジェクトは、2月上旬から開始予定!
buffalo5.mangareborn.jp
次のコルクから大きなお知らせは、1月18日!
このお知らせは、マジでスゴいです!!!
佐渡島が編集に携わるマンガレビューサイト、マンガHONZはこちらhttp://honz.jp/manga
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