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「これってパワハラ?」の正解がない時代の道標。

時代が変われば、価値観も変わる。

自分にとって「当たり前」だと思ってきた働き方や考え方は、もはや通用しない。そう理解し、今の時代に寄り添いたいと必死に努力をするも、いつも空回りをしてしまう。

そんな中高年の悲哀が描かれているのが、『ティラノ部長』だ。

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自分にとっては「優しさ」だと思っていたことが、逆に「パワハラ」になってしまう。こうした価値観の変化への戸惑いは、若い頃に強烈な成功体験をもってい人ほど、強いのではないだろうか。

この『ティラノ部長』は、原作を放送作家の鈴木おさむさん。作画を、コルク所属のしたら領。そして、コルクスタジオで編集をしている。

今年1月から、鈴木おさむさんのInstagramなどで連載がはじまり、SNSでの反響をうけて、マガジンハウスから単行本が今月出版された。

ぼくは、『ティラノ部長』を本当に秀逸な企画だと思っていて、鈴木おさむさんの時代を捉える力がとにかくすごい。

「なぜ、主人公はティラノサウルスなのか?」

おさむさんに質問すると、お子さんが恐竜にハマっていて、家族で見に行った恐竜ショーがアイデアのきっかけだったそうだ。

ぼくらの世代でいうと、ティラノサウルスは強くてカッコいい恐竜として人気の存在だった。しかし、今の時代では、ティラノサウルスが恐竜ショーに登場すると、子供たちから大ブーイングが起きるらしい。

ティラノサウルスは肉食なので、草食の恐竜たちを食べてしまう。ショーのラストでは、ティラノサウルスと草食のトリケラトプスが戦うのだけど、子どもたちはみんなトリケラトプスを応援する。

肉食系でパワフルな存在として賞賛されていた存在が、その力強さゆえに非難の的になる。その姿が、社会の変化についていけなくて、会社のなかで輝きを失っていく中高年と重なって見えて、すごく切なくなったと、おさむさんは話してくれた。

これまで「良し」とされていたものが、これからは「ダメ」と言われてしまう。いま、こういった価値観の変化のスピードは、かつてないほど早くなっている。

難しいのは、どこかに「これはダメ」と明確に書かれているわけではなく、何がダメなのかを各自で考えていかないといけないことだ。いわば、「空気を読め」が社会全体で進行している状態といっていい。

空気をうまく読めないと、まわりから「時代遅れだ」とか「空気が読めない」と言われて、自分の居場所を失ってしまう。そのことに不安や戸惑いを感じている人は、少なくないはずだ。『ティラノ部長』が「いいね」を集めているのも、ティラノ部長にどこか自分を重ねてる人が多いからだと思う。

おさむさん自身、ティラノ部長と年齢が近く、物語に登場するエピソードは、自身の実体験から感じたことがもとになっている。

例えば、使い古されたタオルに自分を重ねる回。

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この回は、おさむさんの自宅で使っているタオルから着想を得たそうだ。

おさむさんの自宅では、奥さんがタオルを愛着をもって長く使っているそうで、「さすがに、このタオルはもう無理だろ」と思うゴワゴワのものもあるそうだ。一方で、これまで頑張ってきてくれたタオルに対して、「捨てるのも申し訳ない」という想いもあり、割り切れない気持ちがあったそうだ。

こんな風に、おさむさんの実体験から各エピソードが生まれているので、どの話もすごく生々しい。感情に嘘がない。

だから、『ティラノ部長』を読んでいくと、ティラノ部長の気持ちが心から伝わってきて、自然と応援したくなっていく。

ぼくは、これだけ価値観が目まぐるしく変化して社会のなかでは、誰もがティラノ部長になりえる可能性があると思っている。

社会の変化に戸惑いながら、自分の生き方やあり方を見つけていく『ティラノ部長』の物語は、「これってパワハラ?」の正解がない時代において、ひとつの道標になるのではないだろうか。

是非、『ティラノ部長』を読んだ人は、その感想を聞かせてもらえると嬉しい。この記事のコメントに残したり、SNSでの投稿など、大歓迎!


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