編集者の仕事をアップグレードする!
この1年間で、僕の編集者観は一変した。
編集者としての振る舞い方も、全く変わった。
そして、今、着実に手応えを感じている。
20代の僕が、今の僕の働き方を見たら、絶対にカッコいいとは思わないだろう。それどころか、何もしていないと思うかもしれない。
何が起きたのか。
「判断=価値基準×入力情報」ということを、僕に教えてくれたのはチームビルディング研修をしている仲山進也さんだが、まさに、僕への入力情報が変わったのだ。
コルクを経営していく中で、チームビルディングについての本を読んだり、研修を受けたりした。スポーツの監督による本もたくさん読んだ。サッカーの監督や甲子園の監督、駅伝の監督の本などを読んだ。
「強いチームをつくるうえで、監督の役割とは何か?」
青学の原監督は、考える集団をつくる「環境づくり」と、インタビューで答えていた。
監督が交代しても弱体化しない、強豪として伝統を築くために、監督の指示なしで実行できるチームを原監督は作った。コルクという会社だけではない、マンガ家もチームにして、編集者によって質が左右されないようにしたい!
編集者の役割もマンガ家に知識を教えるのではなく、マンガ家自身が自分の課題に気づき、自主的に行動を起こせるように促す存在に変わる必要がある。編集者も、監督と全く同じだと僕は考えるようになった。
『ドラゴン桜2』で、「教師は、教える人から寄り添う人にならなくてはいけない」ということを主張している。ティーチングからファシリテーターへ。
マンガを描く技術という、一見クローズな知見すら、もはやネット上に最良のものが溢れている。編集者が、新人マンガ家に教えるよりも、ネットで勉強してもらう方が早い。誰かに教えてもらうよりも、自分で気づいて、自分で学ぶ方が変化は早い。
そのことを僕が実感したのは、EOという起業家のコミュニティだった。ここでは、アドバイス禁止。全員、自分で解決策を見つけられる存在だと相手を尊重して、自分の経験談だけをシェアする。僕は、他の起業家の経験談を聞きながら、たくさんの気づきをもらい、自分の課題に自分で気づけた。
新人マンガ家も、必ず自分で自身の課題に気づける。編集者は、ダメだしをする必要はない。マンガ家たちが、経験シェアをできる環境を整えよう。
そのように覚悟を決めたものの、教えることを手放すのは、意外と勇気がいる。教えるという行為は、気持ちがいいのだ。一方、場を整えるというのは、待つ時間が長いので、何もしていないような気持ちになる。
自分にとって有効な方法が、本当にマンガ家という職種にも有効なのだろうか?
湧き上がる不安を、歴史的事実を見つめることで、僕は抑えこんだ。コンテンツの歴史は、コミュニティの歴史だ。たった一人が全てを変えた例は少ない。切磋琢磨できるコミュニティから新しいカルチャーは生まれてきた。
パリのサンジェルマンでは、ピカソやサルトルなどがカフェで芸術を語り合った。マンガでは、手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫が住んでいたトキワ荘がある。天才が一か所に偶然集まるなんてありえない。環境が天才を産んだのだ。
ネームをやるのは静かな方がいい、一人がいいと何度も言われたが、自宅で作業をしている新人マンガ家たちが、コルクで一緒に作業できるように机を用意した。また、マンガ家たちを一つのFacebookの秘密のグループに入れて、途中の作品を各自フィードバックしあえるようにした。さらに、飲み会をし、合宿を定期的に開催した。目標や計画の立て方も、マンガ家同士で経験をシェアすることを促した。
僕とマンガ家の1対1の関係をやめて、監督とチームのような関係を構築し、環境を整ることを僕は意識した。
すると、たった1年で、みんなが見違えるようなマンガを描くようになった。今まで奮闘してきたのは何だったのだろう?と拍子抜けするぐらい、みんなが自分で成長した。「いいマンガとは何か?」を語り合える仲間ができたことで、お互いの視座が高まり、良い影響を与えあった。
もっとマンガ家同士が濃密な交流をする場を生み出した。トキワ荘を再現したい!そう考えて、OYOに声をかけたところ、快く協力してくれて実現できたのが、『コルク荘』プロジェクトだ。
今年の末から来年に連載を始められそうな4人が、3ヶ月間共同生活をする。連載は、この3ヶ月にどれくらい成長できるかにかかっている。
彼ら4人の生活の様子は、今後「#コルク荘」をつけてSNSなどで発信していく。
コルク荘での生活により、彼らがどう変化していくのか。僕と一緒に、ぜひ、見守って欲しい。むさ苦しい男4人の生活の様子など、見ていて楽しいだろうかとちょっと不安だったが、今のところ、僕は微笑ましく#コルク荘を見ている。(笑)
そして、新人を育成していくことは、編集者という仕事を、アップグレードするという僕の挑戦でもある。
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