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取材がうまい人は何が違うのか?

編集者をやっていると、欠かせないのが「取材」だ。

マンガ編集者というと、華やかな響きがあるかもしれないが、実際は泥臭い仕事が多い。連載がはじまれば、作家がストーリ作りに専念できるように、参考になる資料を探したり、裏付けとなるデータを見つけたり、詳しい人に話を聞きに行ったりと、作家の代わりに様々な調べ物をサポートする。

そうやって集めてきた素材を作家がどう料理するのかを、間近で見れるのが編集者の楽しさだ。僕が新人編集者として『ドラゴン桜』を担当していた時は、そのような発見の連続だった。

「このネタを、こう使うのか!」

まさに普段、自宅で使っている食材が、シェフの手に掛かると見違えるように美味しくなるのと同じだ。

取材で集めた素材は、すぐに使われる場合もあれば、だいぶ時間が経ってからの場合もある。自分が集めてきた素材が、予期せぬ姿で作品に登場した時、「着目する点が違うなぁ」と、作家の才能を改めて感じる。

ストーリーの演出が調理だとすると、「取材」は食材選びだ。一流の作家は、調理だけでなく、食材選びもやっぱりうまい。短時間の取材で、様々なものを持ち帰ってくる。新連載の企画時期や長期連載の合間に、マンガ家と一緒に取材に行くことがあるのだが、学ぶことがすごく多い。

『宇宙兄弟』の小山さんは、本当によく観察している。

例えば、「ヤンじい」という愛称のキャラクターが登場するが、ヤンじいはキャンディを舐めては「ぷっ」と吐き出し、また新しいキャンディを舐めるはじめる。舐めはじめの30秒しか、キャンディがおいしくないからだ。

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実はこのエピソード、NASAのあるヒューストンへ取材旅行した時に、現地のタクシーの運転手がキャンディを舐めては窓から吐き出していたことから生まれている。小山さんは、その運転手の行為が気になったようで、ぼくに英語でキャンディを吐き出す理由を聞いてほしいと頼んできた。

多くの人はその運転手の行為が気になったとしても、理由を尋ねるまではしないし、何よりも数年間もそれを覚えていない。僕はこの出来事を完全に忘れていた。

小山さんと取材に行くと、数年後に「えっ、そこをマンガに使うの?」という意外なところを描いてくる。役に立つ情報は、メールでも聞けるし、ネットでも調べれる。記憶に残る、ギリギリのリアリティの変わったことを見つけ出すのが、小山さんの取材なのだ。

閉鎖環境について取材した時も、僕はどんな課題が出されたのかなどを記憶していた。でも、小山さんは、そこで集まった候補者たちが、親友になったというエピソードを大切に記憶していて、ストーリーに反映した。

取材がうまい人とは、自分が作る完成物のイメージを持っている。そして、そのために必要な素材を探しながら、世界を観察している。漠然と世界を観察しても、「面白い」は見つからない。もう自分の中に「面白い」があって、それのリアリティをあげて補強するために取材がある。

特に、『ドラゴン桜』や『インベスターZ』の三田さんを見ていると、そのことを確信する。三田さんは、圧倒的に取材がうまい。

先日、久しぶりに三田さんと一緒に取材をした。新連載のための取材で、専門家から話を聞いたのだが、三田さんの質問が的確で、取材が終わる頃には、1話目の流れが、その場にいる全員の頭の中で完全に出来ていた。

三田さんは、あれこれ考え込まず、基本の型に従えばいいと言う。

例えば、面白いストーリーには必ず「対立」の構図が必要で、企画段階では何と何を対立させるかを考えればいい。対立のネタはいくらでもあって、人間関係があるところ全てに対立が起こり得る。どういう関係の人々が、どういう価値観の違いで対立するのか。いくつかパターンを考え、面白いものを選んでいけばいい。

そうやって対立のネタを決めたら、あとは主人公がその対立をどう乗り越え、解決していくかでストーリーを展開させていく。

今回の取材でも、三田さんは、対立する価値観として面白いものを探るために、「その領域において、どんな対立があるのか」「実際には、そういう対立に、どう向き合っているのか」などを質問としていた。漠然と質問を繰り返して、描けそうなことを探すのではない。

なんとなくで素材をたくさん集めてきても、それだけでは役には立たない。

一流のシェフは、美味しい料理の型を理解していて、その型に適切な旬の素材を探している。それと作品の取材も同じだ。マンガ家も、読者を惹きつける物語の型や、キャラクターの型を理解しているから、些細なことに気がつけるし、質問も的確になる。

結局は、型を覚えることが重要で、型を覚えれば、インプットの質が圧倒的に高まるのだ。型はアウトプットに役立つだけではない。インプットすらも変えるだ。三田さんの取材に同行し、改めて、型の大切さを痛感した。

このブログを書いている時に、ライターの古賀さんの新作の見本刷りをもらった。タイトルは『取材・執筆・推敲』。取材について、最高に深掘りされているので、このブログに興味を持った人には、おすすめ!


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取材がうまい人は何が違うのか?

佐渡島庸平(コルク代表)

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