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ぼくのマンガ編集者の師匠

ぼくに「あまり悩んだりしなそう」と言ってくる人がいる。おそらく、そのように声をかけてくる人とぼくとは、悩むところや種類がすごく違う。

人はみんな悩む。そして、その対処法が違う。その違いに個性が現れる。

ぼくも悩みの種類によって、対処が全く違う。そして、マンガの場合は、この人と決めた人がいる。

ぼくが、編集者として悩むと、必ずその人に連絡をして、数時間一緒にお茶を飲む。

モーニング創刊編集長の栗原良幸さんだ。

モーニングもアフタヌーンも、栗原さんの思想で、マンガが作られている。

ぼくがモーニング編集部に配属になった時、栗原さんはもうすでに講談社の別会社で働いていた。だから、一緒に仕事した経験はない。でも、栗原さんの思想は、いたるところに潜んでいた。そして、どの編集者も、何かあると栗原さんの伝説や名言を飲みながら話した。ある編集者が、あんぱんを食べていると、その食べている様子だけで「あのパンの食べ方は栗原さんへの憧れがの名残だ」なんて噂話をされていた。だから、栗原さんはいなかったけど、ずっとぼくと一緒にいた。

ぼくがモーニング編集部で働きはじめて3年目くらいの時、ぼくは編集者としてどう成長すればいいのか、わからなくなっていた。そして、新人マンガ家とヒットを生み出したいけど、ぼくでは力不足で、新人作家に迷惑をかけているという気持ちを抑えることができなかった。そこで、栗原さんから学びを得たいと、メールを送った。

栗原さんからはすぐに「飯を奢ってくれたらいいよ」とメールが返ってきた。講談社の近くの蕎麦屋で昼食を奢らせてもらって、マンガの編集について、色々と話を聞せてもらった。それから社内のエレベーターで会うと話をする仲になり、定期的に相談に乗ってもらうようになった。

『宇宙兄弟』が誕生したのも、栗原さんの存在が大きい。

小山さんにとって初の連載となる『ハルジャン』がうまくいかなかった後、次は宇宙をテーマにするというのは、ピンときた。でも、具体的な方向がなかなか定まらない。

そんな時、栗原さんが「宇宙ものをやるなら、これを」と、向井万起男さんが書いた『君について行こう 女房は宇宙をめざす』を紹介してくれた。この本を小山さんに読んでもらったイメージが広がりはじめ、『宇宙兄弟』の企画が固まっていった。

ぼくは編集者とは、作家が「魂の食い物」を生み出すのをサポートする仕事だと言っているのだが、この言葉も、栗原さんからもらった。コルクを創業して少しした時にお茶をさせてもらった時に、「相変わらず魂の食い物を作ろうとしているのだな。安心したよ」と言ってもらえて嬉しくなった。

前回会ったのは、2年半ほど前。ぼくは、新人マンガ家と作る作品を縦スクロールに絞っていいものか悩みに悩んでいた。ぼくは、マンガの歴史を更新することに貢献できるだろうか。逆の行動にならないか。

栗原さんは、「枠線とコマ」の力について話してくれた。コマとコマの間にあるのは無ではなく空について。それで、ぼくは自分の決心をより固めることができた。

また、栗原さんにお会いしたくなったのは、天才を発掘してヒット作を作り出す方式から、チームで作るコルクスタジオという仕組みへと変化していることに対して、栗原さんがどんな風に考えるかを聞きたいと思ったからだ。

なんとびっくりすることに、栗原さんは、ぼくのnoteやYoutubeなどを見てくれていた。そして、かなり率直にフィードバックをくれた。

そんな栗原さんは、1947年生まれなので、70歳を超えている。でも、今でもマンガについて誰よりも考えて、誰よりもマンガに詳しい編集者で、センスが最先端だと改めて感じた。

栗原さんは、ぼくの編集者の師匠だ勝手に思っている。同時に宇宙兄弟のシャロンのような存在だ。栗原さんと会うと、自然と前向きな気持ちが湧いてくる。

人生100年時代というが、栗原さんのように、ぼくも編集を一生の仕事としてやっていきたい。


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