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平野啓一郎の才能を世界が発見した

僕は『葬送』を読み終えた後に、すごく長い旅行を終えた後のような気持ちになった。ドラクロワやショパンがいた時代にタイムスリップをしたような感じ。日常生活に戻れるのだろうかと感じるくらいだった。

これを一人で書き上げるなんてことができるのだろうか。まるで、教会やピラミッドなどの壮大な建築物のような小説だった。たくさんの人の叡智が集まってできたのではないか。それを20代の男性が、部屋に籠って書いたということが信じれなかった。現代文学のベストだと思った。ベストな作品のうちの一つではなく、ベスト。

平野啓一郎という作家は、日本を代表する作家なだけでなく、世界を代表する作家であり、時代を代表する作家になるのではないか。そんな風に考えて、一緒に仕事をしませんかと提案しにいった。

それ以来10年近く一緒に仕事をしていて、最新作「本心」は、新聞で連載をしている。編集者は打ち合わせをすることで、平野啓一郎の目を通して、現代の社会を同時期に観察できる。僕は、平野啓一郎という才能の立会人になっているような気持ちになる。

平野啓一郎の才能に、世界の人にも興奮してほしい。韓国や中国では、翻訳されて、高評価を得ているのに、英語圏では今まで出版されていない。英語圏で出版したい!と密かに思っていた。

そして、ついについに、平野啓一郎の『ある男』の英訳版 『A MAN』が、6月1日に発売された。

なんと、『A Man』は発売後、翻訳部門(World Literature)で1位を獲得。全体でも最高で4位にランクイン。レビューも5割以上が「★5」を獲得するなど、信じられないような好評だ。つい、下記のようなつぶやきをしてしまった。

絶対、世界も平野さんの才能に興奮すると思っていても、本当に反応が返ってくるまでは、不安でドキドキでした。

Amazonが、全作品の中からたった8作品だけを毎月選んで、パワープッシュする。その中に『A Man』が選ばれた時に、まずは編集者から最高の評価がきたと一安心した。でも、読者の声を聞くまでは本当の安心はできない。

それがあっという間に、レビューがどんどん来て、現在、Amazonには160以上ものレビューが投稿されている。そして、感想も嬉しい。僕らが平野さんの魅力だと思っているところを、英語圏の読者も魅力と思っている。

その多くは、平野さんの文章の「美しさ」に驚いてくれている。

- "This book was beautifully written and translated. It was interesting, thoughtful and introspective."

- "I found the writing style of the Japanese-to English translator to be very engaging."

- "I was captivated by the story, characters and fluent writing style from the first chapter. "

平野さんは、ページをめくる手が止まらない小説ではなく、「ページをめくりたいけどめくりたくない、ずっとその世界に浸りきっていたい」と思える小説を書きたいと言う。

作家人生を通じて、先が気になる物語の面白さだけでなく、心が震えて、いつまでもその場に佇んでいたいと感じる「美しさ」を、平野さんは追求してきた。

その「美しさ」が、日本だけでなく、英語圏でも評価されたことが、僕は何よりも嬉しい。

翻訳作品でこのような評価を読者からもらうためには翻訳家も重要だ。

今回、翻訳を担当したイラーイ(Eli K.P. William)さんは、日本在住であり、日本文化を深く理解しながら、英語で自分の小説も発表している小説家だ。

『ある男』を『A MAN』にするために、イーライさんと平野さんは密に連絡をとり、かなり細かい部分まで話し合って翻訳をした。レビューを見ると、平野さんの他の小説の英訳をする際は、イーライさんとのコンビでお願いしたいという声が実に多い。翻訳家のすごさも英語圏の読者に伝わったというのは、本当に嬉しい。

予想外だったのは、僕らが日本的だと思って描いていなかったことを、日本的だと英語圏の読者が楽しんでいることだ。

例えば、城戸と香織の夫婦関係。ふたりは、表面上は穏やかな夫婦関係を維持している。だが、心の内では、関係の破綻が忍び寄っている足音をふたりとも感じている。お互いに思っていることを議論せず、決定的な衝突を避け、表面だけ取り繕っている姿は、アメリカでは考えられないというレビューが結構あった。

平野啓一郎の才能を英語圏の読者は、発見した。これから、じわじわと好きになってもらい、熱狂してもらう。その戦略をエージェントとして考えるのは、最高に楽しい。

【お知らせ】
6月27日(土)14時から、平野さんと『A Man』の翻訳家Eli K.P. Williamさんの対談をYoutubeでライブ配信します。ふたりが、どのような点を意識して、『A Man』を作りあげたのかを知りたい人は、是非!

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コメント (1)
すごいですね!おめでとう!おめでとうございます!時間をかけても、いつか葬送も読みたいなと思っています。
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