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仮説01:女性読者が増えると『宇宙兄弟』がヒットし始める #ぼくらの仮説


※この記事は『ぼくらの仮説が世界をつくる』(佐渡島庸平・ダイヤモンド社)の内容を一部抜粋したものです。


ヒットする漫画の共通点は「女性読者が多いこと」

『宇宙兄弟』がここまでヒットするだいぶ前の話です。今では大ヒット作となった『宇宙兄弟』ですが、発売当初は、あまり売れ行きが良くありませんでした。

そのころの読者アンケートを分析すると、男性読者がだいたい7割を占めていました。一方、その当時売れていたマンガは共通して、7割が女性だったのです。たとえば『聖☆おにいさん』は、8:2で女性読者のほうがずっと多かった。

通常、書店のマンガコーナーに定期的に行くのは女性のほうが多いのです。実は、30〜40代の男性は、あまりマンガコーナーには行かないし、マンガを買わなくなっている。つまり何が言いたいかというと、『宇宙兄弟』の読者は、マンガコーナーにあまり行かないはずの男性が7割を占めていた、というわけです。

当時、「宇宙」をテーマにしたマンガは大ヒットしない、というのがマンガの世界における定説でした。女性に響きにくいから、というのが理由です。だから、仮に男性ファンを増やすことができたとしても、女性ファンを増やすのは無理だと言われていた。現に「過去のデータ」を見ると男性のほうが多かったわけです。

しかしぼくは、日々の経験の中の「見えないデータ」から、男性だけではなく、性別を問わず広く愛される作品になるという確信がありました。


仮説:女性読者が増えると、『宇宙兄弟』がヒットし始める

そこでぼくは、「女性読者が増えると、『宇宙兄弟』がヒットし始める」という仮説を立てたのです。初期のプロモーションは、よって「女性のみ」をターゲットにしました。

当時は、3万部とか4万部くらいの売れ行きでしたから、世の中の女性が1000人とか2000人くらい読んでくれるだけでも、読者の流れが変わるだろうと考え、まずは1000人の女性読者を増やす方法を考えることにしたのです。次に「そもそもどうすれば女性が『宇宙兄弟』の存在を知って、手に取ってくれるだろう?」と考えました。

「女性は何が好きだろう?」「日常どういうふうに行動しているだろう?」「どんな場所で本を手に取るだろう?」「見る映画をどうやって決めているんだろう?」……そんなふうにひたすら考えました。

そして「女性がよく行くところで、影響力がある場所はどこだろう?」と考えていたときに、ふと「美容室だ!」と思い浮かんだのです。


「自分の行っている美容室はダサい」と思っている人はいないはず

そこで早速、なじみの美容師さんに「この美容室には一日何人くらいお客さんが来るんですか?」と聞いてみました。すると「うちの店は椅子が6つあって、だいたい一日に3回転するから……18人くらいですかね」という返事でした。

人が髪を切るのは1〜2ヵ月に一回くらいで、それくらいの規模の店舗でも、だいたい1000〜2000人くらい定期的に訪れるお客さんがいるとわかりました。

さらに「お客さんとはどんなことを話しているんですか?」と聞くと「最近おすすめの音楽とか映画とか本とかの話はよくしますね」と言うのです。「これだ!」と思いました。

フェイスブックやツイッターを見ていても「この人センスいいな」と普段から思っている人が勧める本や映画なら見たくなるでしょう。それと同じで、美容室に行く人で「自分の行っている美容室はダサい」と思っている人はいないはずです。自分が「オシャレな人」と認める美容師さんから、「このマンガおもしろいよ」と勧められたら、きっと読んでくれるだろうと考えたのです。

こうして「女性読者を増やすためには美容室から火をつける」という具合にぼくの「仮説」は補強されて、実行に移しました。


20万という限られた宣伝費をどこに使うか

では現実的に、何店舗くらいに『宇宙兄弟』を送れるだろうか? 計算してみたら、たった20万円くらいの予算で、美容室400店に、2冊ずつ郵送できることがわかりました。

そこで「これはぼくが5年間かけて育てた新人の描いたマンガです。お店の雰囲気もあるでしょうから店舗には置けないかもしれませんが、休憩のお時間にでも、ぜひ読んでみてください。そして、もしも心に響くものがあったら、お客さんにこのマンガのことを話していただけたら幸いです」という内容で、思い入れたっぷりの手紙をつけて『宇宙兄弟』の1・2巻を首都圏の美容室に送ったのです。

すると、3巻を出したあとで反応がありました。『宇宙兄弟』のアンケートハガキに「美容室でススメられて読んでみました」と書いてくれた人がちらほら出てきたのです。実際にハガキを書いてくれる人なんて、すごく少ないですから、その背後にはその何倍、何十倍も美容師さんがきっかけで『宇宙兄弟』のことを知ってくれた人がいるということを意味します。

売れる前の作品は、20〜30万円ほどしか宣伝費が使えません。だから、どの作品も、同じような宣伝の仕方しかできなかった。書店に販促物を送るくらいしかなかったのです。

20万円という数字だけを眺めていても、今までと同じアイデアしか出てきません。そこでぼくは「一人のお客さんに買ってもらうのに販促費をいくらかけてもいいのか」を考えるようにしました。


そして、女性読者が3割から5割に

出版業に限らず、ビジネスで大切なことは「お客さんを囲い込むこと」です。特に長編マンガは、一度お客さんの心を捉えたら、20巻くらい継続して買ってくれるので「まず第1巻を読んで気に入ってもらう」ことが、ものすごく大切になります。

20冊のマンガを買ってくれるということは、一人あたり約1万2000円の売上になります。じゃあ1万2000円払ってくれるお客さんを一人獲得するためには、500円から1000円は、宣伝費をかけてもいいのではないか。美容室に本を2冊送ると、だいたいそれぐらいの費用がかかります。それで、1000〜2000人のお客さんのうち、2、3人が単行本を買うようになれば、宣伝として効果的だろうと考えたのです。

情報を用意してから考え始めても、思考停止に陥りやすいので、自分のやりたいことを決めて、それから情報を集める。それがぼくのやり方なのです。

『宇宙兄弟』の女性読者を増やすため次にやったことは、アンケートハガキを送ってくれた人、それも20代、30代の女性で、友だちが多そうで感想を書いてくれそうな人に、ポスターと手紙を送ることでした。

そうやって地道に、一人ずつ読者を増やしていく努力を積み重ねていった結果、5巻か6巻が出た頃になってようやく男女比が5:5になったのです。そうするうちに、単行本全体の売上も、じわじわと伸びていきました。


新しいことを成功させるには「仮説→検証」を楽しむ

最終的に、美容室に送るところから始めたプロモーションが、どれほど効果があったのかは正確にはわかりません。作品自体もどんどんおもしろくなっていったので、自然と口コミが増えていて、何もやらなくても一緒だったかもしれません。

でも、このように自分で仮説を立てて、情報を集めて、仮説を補強し実行していると、仕事が楽しくなっていきます。結果が出るのが楽しみになる。楽しいから、もっとやりたくなる。新しいことを成功させるときに、こうして楽しむことも、実は大切な要素だと思うのです。

『ぼくらの仮説が世界をつくる』(佐渡島庸平・ダイヤモンド社)1章より

はじめに大航海時代が始まった

【1章】ぼくらの仮説が世界をつくる ― 革命を起こすための思考アプローチ

【2章】「宇宙人視点」で考える ― 本質を見極め、常識を打ち破るための思考法

【3章】インターネット時代の編集力 ― モノが売れない時代にぼくらが考えてきたこと

【4章】「ドミノの1枚目」を倒す ― 遠くのゴールに辿り着くための基本の大切さ

【5章】不安も嫉妬心もまずは疑う ― 「先の見えない時代」の感情コントロール

【6章】仕事を遊ぶトムソーヤになる ― 人生を最高に楽しむための考え方

おわりに明日、世界が滅亡しようとも、今日、仮説を立てよう

『ぼくらの仮説が世界をつくる』
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