"寄り添う"とは、なんなのか。
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"寄り添う"とは、なんなのか。

寄り添うとは、なんなのだろう?
どんな状態を指すのか。

小説家の平野啓一郎さんと打ち合わせをすると「文学は読者に寄り添うもの」という言葉が出てくる。そして、ぼくは、その価値観に賛同する。

しかし、どうすれば寄り添えるのか?
新人マンガ家との打ち合わせで、相手に寄り添うとは、どんな行為なのか?

近年、「寄り添う」は、ぼくの中で重要なキーワードだ。

より深く理解するために、コーチングを学んだりと、様々な工夫をしているが、それでも、なかなかしっくりこない。

相手の立場に立って、ぼくの知識を伝える。そうすると、伝えるのがぼくである必然性を感じない内容になってしまっていると僕は感じる。相手のところまで降りていくことが、寄り添うなのか。それは、相手を軽んじている行為ではないか。

相手を対等と考え、自分の視点から見えているものを、丁寧に繰り返し伝える。それがぼくの暫定解だった。

先日、他の経営者が、自分のビジョンを、伝わらないことのもどかしさで、半ば怒りながら伝えようとする様子を見た。それを見ていると、これはスタッフに寄り添えていなくて、どれだけ繰り返しても伝わることがないなと、直感的に感じた。その姿は反面教師のように見えて、ぼくもおそらく寄り添えていなくて、やっている工夫がうまくいってないだろうと感じた。

「寄り添う」とは難しい。相手のためと思っても、ひとりよがりな行為になってしまうことがある。

その場に一緒にいた他の経営者に、どんな工夫をしているか聞いてみた。彼も、組織作りに苦労していたからだ。そして、彼の仮説に僕はかなり納得した。

「視点、知識には共感できない。感情にだけ共感できる」

知識や技術は、自分の経験や見えている視野によって、価値が変わる。相手のためと思って伝えても、同じ経験や視野を共有していない受け手からすると、その価値は響かない。むしろ、ダメ出しをされているように感じて、距離を置いてしまう。

それよりも、目の前で起こっていることに対して、「自分は、どう感じているのか」と感情の共有からはじめてみる。相手の感情を理解して、それを踏まえて話すことが重要だと思っていたが、逆だ。自分の感情をまずは伝えてみる。それが寄り添うという行為なのだ。

寄り添うとは、一方的な行為ではない。お互いが、歩み寄らないと寄り添えない。一方的に相手に寄り添おうと近づくと相手は後ずさる。相手がまず、こちらに来れるように、先に感情をオープンにする。そして、相手が一歩近づくと、こちらも歩み寄る。

先程の経営者に具体的にどんな風にするのか聞いてみると、こんな答えだった。

「プロジェクトに失敗した時に、なぜ失敗したのかを一緒に考えにいかない。悔しかった思いを共有する。それで、相手がなぜ失敗を一緒に考えたいと思った時にだけ一緒に考える。相手が自分で考えるなら、自分で考えてもらう。感情を伝えにいく」

このエピソードを聞いて僕が思い出したのは『ドラゴン桜』の桜木だった。

桜木は、東大合格の知識を持っているから信頼されるのではない。まずは、感情に寄り添い、その後に知識を伝える。初めての相手には、感情を揺さぶり、そして知識を伝える。不合格の悔しさで眠ることができない矢島と桜木のやりとりを見てほしい。

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(C) 三田紀房 / コルク

この桜木のあり方は、僕が目指す寄り添うの理想だと感じた。

そして、「文学は読者の感情に寄り添う」という言葉に戻る。

いい物語は、作者の思索の開示ではない。作者の感情の告白であり、それを受け取った読者は、心の奥底に眠っている自分の感情に気づく。そして読者は、物語を通じて、初めて自分自身に寄り添うことができるのではないか。

最後に宣伝になるが、平野啓一郎の新作「本心」は、社会との唯一のつながりである母を失った青年が、喪に服し、喪失から回復していく物語だ。この作品は、現代社会で孤独を感じている人に寄り添う傑作になっていると僕は感じている。今、予約中で、5月26日発売開始だ。


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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。