伝えるために、「頭の中にある世界」の解像度を上げろ。
新人マンガ家と打ち合わせをする時の全てのアドバイスは、あることを目的としている。
作品世界に対する解像度をあげる。その気づきが増えるように、様々なアドバイスをする。
作品世界で起こっている出来事を、読者に魅力的に伝えるのが作家の仕事だ。作家が、作品の世界を誰よりも深く理解していないと、表面的で薄っぺらい物語になってしまう。
一流の作家は、自分の作品世界について、まるでその世界の住人のように詳しく話すことができる。
物語の世界や登場するキャラクターについて、作品に描かれているものが1だとしたら、その裏で作家は100まで作り込む。その中から、読者が楽しめるように、削る。
作品作りは、
1 世界観を作りこむ
2 分かりやすいように、作り込んだ世界を削って、編集する
この2つの工程に大雑把には分けることができる。
新人の場合、解像度が低くくて、世界観の作りこみが甘いことが多い。
今、僕が一緒に仕事をしている新人・やじまけんじというマンガ家を紹介したい。
彼には、「くまちゃん」という大切に育ててきたキャラクターがいて、フォロワーからも人気だ。
(上の漫画にであれば、くまちゃんが何に「僕も」と言ったかが、一瞬でわからない。わざと一瞬でわからなくて読者に考えてほしいのか、それとも構図の選択を失敗したのかをやじまさんに確認する)
このキャラクターを主人公にしたマンガの連載をつくるために、やじまさんと打ち合わせを始めたのだが、早速こんな質問をした。
「なぜ、くまちゃんという名前なのか?」
親がつけた名前なのか、友達がつけたあだ名のか。親がつけた名前なら、親も「くま」なはずだから、なぜ「くまちゃん」という名前になったのか。友達がつけたあだ名であれば、その界隈に「くま」は他にいないのか。
そういった質問に対して、やじまさんは答えられなかった。
その世界について描きたいと強く思っている一方で、その世界に対する解像度が低い状態であることに本人が気づけていない。
だから、キャラクターについて深く考えてもらうために、いつ、誰が、どういう理由で名前をつけたのかを考えてもらうことにした。その結果、このキャラクターに新しい名前が生まれた。
その後も、作品の解像度を上げるためのやり取りは続く。
このキャラクターは、今暮らしている街に、違う街から引っ越してきたと、やじまさんは言う。
「であれば、いつ、どんな理由で、引っ越してきたのか?」
そして、やじまさんが、引越しの様子を描いた絵を見ると、引越しセンターみたいなところにお願いをして、ダンボールを使って引越しをしている。
「このキャラクターが住んでいる街は、引越し屋が存在するような街なのか?そもそも、この街には、どんな住人が住んでいて、どんな職業があるのか?」
性格や人柄というのは周囲の環境に大きな影響を受けるものなので、キャラクターがどんな環境にいるのかを、作家は丁寧に理解してあげる必要があるのだ。
このような問いかけを繰り返しているうちに、やじまさんの作品に対する解像度が驚くほど上がってきた。
キャラクターが住んでいる街の全体像が明確になり、そこに住んでいる住人たちの姿がくっきりと見えるようになってきた。
そうして、生まれたキャラクターが「コッペくん」だ。
現在、コッペくんの連載マンガを鋭意制作中。完成を楽しみにして欲しい。
★ 今回の有料部分では、10稿以上進んでいる「コッペくん」のボツ原稿の一部を紹介します。作家がどのような試行錯誤を繰り返し、世界観の解像度をあげ、編集が上手くなっていくのかの過程をちょっとでも味わってもらえたらと思ったからです。そして、やじまさんのことを応援したい気持ちになってもらえると嬉しく思います。
1を伝えるために、100を考える。そのために、頭の中にある世界の解像度を高める。
これはマンガだけでなく、映画、小説、ドラマなど、全ての作品づくりにおいても言えることだろう。もちろんビジネスについても言えるだろう。
編集者は、クリエーターの作品に対する解像度を上げるサポートをするのだ。
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今回の有料部分では、10稿以上進んでいる「コッペくん」のボツ原稿の一部を紹介します。作家がどのような試行錯誤を繰り返し、どのように世界観の解像度を上げているのかを、少しでも味わってもらえたらと思います。
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■コッペくんのボツ原稿
現在制作中の「コッペくん」のボツ原稿を紹介します。
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