音楽にも「編集」が必要だ。 編集者とミュージシャンが組む理由。
コンテンツが膨大に溢れた現在、エンタメのどの分野においても、コンテンツを届ける難易度は格段にあがっている。
特に音楽は、ここ10年間で環境が劇的に変わった。spotifyやApple musicなどの登場により、数千万曲を超える古今東西の楽曲に囲まれて生活できるようになった。
プロアマ問わず、楽曲が簡単に手元に届く時代において、僕は元ロードオブメジャーの北川けんいちさんの楽曲作りに今年から関わっている。
取り組みが開始してから約半年が経ち、先日コルクラボで、けんいちさんと対談を行った。主なテーマは「編集者として、僕がけんいちさんに魅力を感じる理由」。そのダイジェストを、コルクラボのライター部のメンバーがまとめてくれたので共有します。
〈ライター = 代 麻理子(コルクラボ)〉
北川けんいちさん。
高校生の頃からバンドを始め、2002年テレビ番組の企画にて、ボーカリストとして選出され、『ロードオブメジャー』が誕生。デビューシングル『大切なもの』は、ミリオンヒットとなる。インディーズバンド初のオリコン初登場1位を記録し、現在もまだこの記録は破られていない。その後も数々のヒット曲をリリースするが、2007年7月、ロードオブメジャー解散。解散3ヶ月後の10月には「北川賢一」からソロ名義『北川けんいち』としてソロ活動を開始。
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「編集」とは、コンテンツとコンテクストを煮詰めること
佐渡島:
けんいちさんがボーカルを務めたロードオブメジャーの「大切なもの」は、90万部超えの大ヒットだったそうですね。
まずは、どのようにデビューしたかを教えていただけますか?
けんいちさん:
テレビ東京系の番組で、バンドメンバーをヘッドハンティングして、ひとつのバンドをつくる企画がありました。
それまでは全くの他人だった4人が集結し、100日間で全国50カ所を回ってライブをしました。発売したCDがオリコンで初登場50位以内に入れば「メジャーデビュー」、そうでなければ「即解散」という企画です。そこで、ボーカルとして選ばれ、デビューしました。
僕は番組以前から、地元である神戸でバンド活動をしていたのですが、それまでは曲づくりをしたことがなかったんですね。
この企画では、曲づくりから自分たちでやらなければならなかったのですが、僕ら全員が曲も歌詞もかいたことがないメンバーで(笑)。
そんなメンバー4人が集まり、試行錯誤しながらツアー中につくったのが、「大切なもの」という曲です。
佐渡島:
それがいきなり大ヒットしたのはすごいことですよね!
けんいちさん:
ただ、大ヒットと言われても、どこかずっと他人事というか…、自分たちがやったことではないような感じがしていたんですよね……。
それはなぜだろうと考えたら、テレビ番組の「企画力」が大きかったからではないかと思います。
佐渡島:
なるほど。「コンテンツ」を作ったのは自分たちだけど、それを届ける「コンテクスト」は番組が生み出しているので、自分たちでやりきっている実感が持ちにくかったのかもしれませんね。
僕は、プロの編集者を育成することを目的とした、『コルクラボ編集専科』というものを現在行なっています。
そこでは、ヒットを生むには「コンテンツを強くすること」と「コンテクストを作ること」のふたつが大切だと伝えています。
コンテンツを「プレゼント」に例えるとすると、コンテクストは「プレゼントの送り方」。良いプレゼントを用意したとしても、送り方ひとつで受け手の印象は全く変わります。コンテンツとコンテクストの両方を煮詰めていくことが、「編集」なんですよね。
「コルクに所属してもらいたい」と思った理由
けんいちさん:
僕は今年の4月からコルクに所属しています。
ただ、佐渡島さんから「コルクに入りなよ」と言われた時、「どうして僕なんだろう?」と正直思いました。
ロードオブメジャー解散後、ソロ活動をしていたんですが、活動も徐々に減ってきて、ちょうどお声がけをしてくださった頃は「もう辞めよう」と思っていた時で……。
ライブをしても、「スベってしまったな…、ダメだと思われただろうな」と思ってしまったり。「あれもダメ、これもダメ」というネガティブな考えがぐるぐる頭の中をめぐってしまう状況でした。
「もう辞めて普通に働こうかな…」と妻に嘆くと、「普通に働くって、なんなの?あなたは音楽しかしてきてないよね。音楽がダメだから、普通に働くって、普通に働いてる人のことをナメてない? 」と言われました(笑)。
彼女がそう言ってくれて、自分の失敗に対する概念や、ソロとしての自分のスタイルを見直すきっかけになりました。
佐渡島:
僕が、「けんいちさんにコルクへ所属してもらいたい」と思った理由は、ふたつあります。
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