教師という名の感情労働について

感情労働という言葉を知っているだろうか?

子育て、介護、保育士・教師などが、そのような仕事に当たる。

今までは、知識・スキルの時代だった。一方。感情労働と呼ばれる職種は、知識・スキルはそこまで必要としない。そのため、比較的つきやすい仕事だと世間では思われている。医者や弁護士の方が、難しい。しかし、その前提が崩れようとしている。知識やスキルは、AIやロボットへと移転されていく。そして、知識やスキルが必要とされていないと思われていた仕事の本質が、浮かび上がってきた。今までと価値の逆転が起き始めている。

教師という職業の感情労働としてすごさを僕が思い知ったのは、自分の息子の不登校を通してだった。

数ヶ月前から、小学3年生の息子が学校に行きたがらない。ドラゴン桜で、東大は簡単だ!というメッセージを何度も発していたのに、小学校に息子が普通に行くようにすることが難しくてできない。

僕なりに息子の感情を理解したいと接するのだけど、その理由が、どうにもわからない。誰かにイジメられているわけでもない。妻とも何度ともなく話し合って、色々と接し方を試してみた。厳しくなったり、リラックスさせるようにしてみたり。どれも全く効果がない。

そばにいるのに、息子のことが理解できない。

でも、息子が通う小学校の先生達は違う。

妻と僕が息子と何時間話しても、気持ちを変えることができないのに、担任の先生、校長先生が5分、10分、息子と話すと、表情があっという間に変わって、息子が「行ってみようかな」「やってみようかな」という気持ちになる。

夏休みに入る直前、学校にはどうしても行けなくなり、教室に行く前の中継所として校長室に行くことになった。毎朝、僕と一緒に校長室に行き、3人で5分くらいのおしゃべりをする。話が終わるころには、息子が「教室に行ってみよう」と思えるようになる。

校長先生は、何ひとつ言い聞かせようとしない。「今日は何時に起きたの?」とか、一言、二言、聞くだけ。あとは、息子が話すのを待つ。校長先生も担任の先生も、うまく動けない息子をめんどくさがらない。どんな状態でも受け入れるという安心感を与えてくれる。

校長先生の息子への接し方を見る度に、「相手を受け入れるとは、こういうことなのか」と、いつも深い感動を覚えてしまう。

あんなに家では騒いでいた息子も、校長先生と話すと素直になる。僕が何時間もかけてもできなかったことを、校長先生はたった数分でできてしまう。この姿を目の当たりにし、改めて「教師」という職業の奥深さを感じた。

教師の役割は2点ある。

知識の移転と感情労働。

今までは、知識の移転ばかりが注目されていた。教師が、ビジネス界を知らず、世間の感覚とずれていることが批判されることもある。

教師の感情労働の側面は、ほとんど注目されてなかったと思う。しかし、たくさんの子供と接し、話をしている中で、簡単に言語化できない感情労働のスキルが教師には溜まっている。

子供の心に寄り添う、教師の仕事は、これからどれだけ時代が変化しても、決してなくならない。僕は、今回のプライベートの経験を通じて、感情労働に従事する人たちへの評価が、社会全体で低すぎるということに気付かされた。知識であれば、誰もが簡単に突破できない試験を簡単に行うことができる。感情労働は、評価制度が作りにくい。できる人の能力が可視化されづらいせいで、評価自体がされないのはもったいなすぎる。

「エモい」についてもブログを書いたが、これからは感情の時代だ。感情労働の評価制度をどのように作っていくのか。それが、社会全体の課題なのだろう。

僕は先生たちのすごさに感動と感謝をしている。しかし、それを届ける方法が社会の中にない。

ドラゴン桜も、東大に受かるための勉強法が注目される。でも、読むと感動するのはなぜか? 知識には感動しないはずだ。それは、桜木が実は、感情労働も得意だからなのだと思う。水野・矢島、天野・早瀬に寄り添い、彼らを挑戦する気にさせるのがうまい。その様子に、読者は感動するのだ。

ドラゴン桜2の最新6巻も昨日発売になった。感情労働をする桜木。その視点でドラゴン桜を読み直してみると新しい発見があるかもしれない。

ドラゴン桜の編集を通じて、たくさんの教育の知識を僕は持っていた。だから、そんなに苦労しないと思っていたが考えが甘かった。でも、息子の不登校を通じて、ドラゴン桜自体の読み方が僕の中でアップデートされた。


編集という仕事は、担当作品によって、人生を変えられていく仕事だと改めて思う。

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