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お前は今、どんな夜を探しているんだよ。 カサリンチュの歌詞を編集する。

カサリンチュという男性二人組の歌手がいる。

僕は、彼らのことが大好きで、何よりも声が好きだ。歌い始めを聞くだけで、いいなと思う。

宇宙兄弟のアニメのエンディング曲である『New World』という曲も作ってくれていて、奄美大島から出てきて挑戦をする二人の心情を表した歌詞が、ムッタとヒビトと重なる。

宇宙兄弟のファンコミュニティのリアルイベントで、平田さんにムッタのセリフを朗読してもらった後にNewWorldを流すと、その歌を聴きながら涙を流す人がたくさんいる。会場の空気が、明らかに変わる。その感動の深さをみて、彼らが稀有な才能の持ち主だと僕は何度も確信する。

でも、彼らはその才能に見合うだけの多くの人に歌を届けれていない。それで、僕は勝手にカサリンチュの後援会長になったつもりで、活動をしている。

(ちなみにこれは完全に偶然だが、僕の義理の弟もカサリンチュを大好きで、関西でテレビ番組のディレクターをやっていた時に、番組でカサリンチュを大プッシュしていた。それで、やはり血は繋がっていなくても家族は好きなものが似ているのだと感じた。)

活動の第1弾は、せりかがALSの薬を発見した時の感情を歌にした曲、『あと一歩』だ。

このミュージックビデオをみてほしい。宇宙兄弟を読んだ時の感情が、曲によってより情感豊かに立ち上がってくる。せりかを宇宙兄弟のファンが励ます、最後のシーンが僕は大好きだ。ウディアレンの「地球は女で回っている」の最後に、全てのキャラクターが出てきて、ウディアレンを励ます逆バージョン。キャラクターは、ファンに支えられて、困難に立ち向かえているのだ。

僕は深く感動したのだけど、これをきっかけにカサリンチュが、もっと多くの人に聞かれるまではいかなかった。

第二弾として、昨年、宇宙兄弟の10周年を記念した曲を一緒につくることになった。今回は、歌詞作りにまで僕も参加させてもらうことになった。

最初、カサリンチュの二人が宇宙兄弟の物語から絆に関する言葉を拾い、それを歌詞を織り込んだ曲をつくってきてくれた。とてもいい曲だと思ったものの、上品で納まりが良さすぎて、いいのだけれども、宇宙兄弟を知らない人の感情は揺さぶらないと思った。

そこで、考え方を少し変えることに決めた。

『New World』ではタツヒロさんとコウスケさんの関係が、ムッタとヒビトと重なって、魅力的だと思った。もう一度、2人の関係性に注目しつつ、宇宙兄弟の比喩になっている歌詞になればいいのだ。

2人は、仲が悪いわけじゃない。でも、10年経つことで、昔のように熱く話し込むことがなく、淡々と一緒に仕事をしていることが部外者の僕にも伝わってきた。

人は長い時間接することで、お互いに深い話をすることが難しくなってくる。

同僚、恋人、夫婦、兄弟、親子…。長い時間、連れ添った相手と本当に深いことを話すのは、実はすごく難しい。僕と小山さんも10年間一緒に仕事をしてきて、昔のように話し込むことはなくなった。なんとなく照れくさいのだ。淡々と仕事の話だけをしてしまう。そして、カサリンチュのタツヒロさんとコウスケさんにも、同じことが起きている。

他者との関係性は、単独の行動よりも人柄が出て、魅力が伝わりやすい。

例えば、嵐の先日の解散についての記者会見。解散するという事実よりも、どのメンバーが誰をどのように思いやっているかが、会話のはしばしから推測できた。ファンの人たちは、その推測を楽しんでいた。つまり、それぞれのメンバー間の関係を知ることにより、ファンはメンバーのキャラクターを深く知ることができるのだ。誰かのことを知る時に、相手の家族や友人からも話を聞いた方が、相手のことを多角的に捉え、深く知ることができるのと同様だ。

宇宙兄弟のファンは、ムッタがヒビトを思う気持ち、ヒビトがムッタを思う気持ちについて、話し合ったりする。同じように、カサリンチュのファンが、「タツヒロさんって、コウスケさんをこう思ってるよね」「コウスケは、タツヒロさんをこう思ってるよね」という会話がうまれる、きっかけになるような曲作りになればいいなと思った。

それで、コウスケさんに向けた手紙を歌詞にすることを僕からは提案した。ふだん面と向かって言えてない想いや、大切にしている2人の思い出を歌詞に込めてもらった。

何度も繰り返した打ち合わせは、すべてコウスケさんには内緒だった。曲を聴かせたら、コウスケさんはどんな反応をしてくれるだろう。それによって、2人の関係は新しくなれるだろうか、とワクワクしながら、僕らは打ち合わせをした。

完成した『満月』という曲の歌詞、味わってほしい。

満月

作詞:村山辰浩 作曲:村山辰浩、松浦晃久 編曲:松浦晃久

一人でこもってたあの部屋を
飛び出しお前に出会えたんだ
ふざけてばかりで仲良くなんて
なれないヤツだろうって思ってた

二人で食べた「満月」の焼きそばの味
帰りの車で聴いてたフラカン

どっちが先か競争してた 丘の上も
本当は怖くて逃げたかった 橋の下も
誰よりケラケラ笑っていた お前の姿が眩しかった
何よりも嬉しかった

二人であの町を飛び出して
出会えた仲間がたくさんいる
増えてく期待に応えようとして
一人で悩むことが多くなった

都会の空に満月が隠れている
見失っていた二人の距離感

もう少しだけ話したかった 雨の夜も
怒りをぶつければよかった 駐車場でも
頼り方を忘れてしまった 愛想笑いとか苦しかった
お前は今 苦しくないか?

あのとき、確かに「待ってる」って言ったよな
それだけで走りはじめたんだよ
今、今、お前は今、
どんな夜を探してんだよ

大きな夢を追いかけるとか そうじゃなくて
誰かを笑顔にするためだけ それだけでいい
もう一度一緒にあの人を 笑わせてやろうぜあの顔を
ここからまた飛び出すために

タツヒロさんは、ヒットを出したくてがむしゃらな頃の気持ちに一緒に戻りたがっていた。コウスケさんが、今に満足しているようにみえることに、孤独を感じ、苦しんでいた。

それは、まさに宇宙飛行士になるという夢はお互いに叶えたけど、一緒に宇宙に行くという夢は叶えれていないムッタとヒビトの姿に重なった。

僕はこの歌手を宇宙兄弟のファンとともに聞くのではなく、歌いたいと思っている。

みんなで一緒の歌を歌うと、絆が生まれる。

宇宙兄弟のファンイベントが終わった後、カラオケにみんなで行ったという話を聞くことがある。そういう時のための歌があるとどれだけ素敵だろうと考えていた。

宇宙兄弟ファンが合唱する『満月』を聴ける日が来るのを僕は楽しみにしている。その時は、もちろん僕も一緒に歌う。

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佐渡島庸平(コルク代表)

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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。

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