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知識は沢山あっても困らない、という誤解

『育成の本質』という本のこの文章を読んだ瞬間、自分の浅はかさに気がついた。

”教えたくなるのは、知識が中途半端に少ないときだと思います。そういうときって、持っている知識を全部出したがる。逆に知識が多い人は「全部は教えられない」と悟っているから、相手の準備ができたときに必要なことを伝える感じになります。”

このフレーズをみて、僕は頭をガツンとされた気分だった。

編集者は、自分で漫画も書かなければ、ストーリーも作らない。でも、作家の作品については指摘しないといけない。どうやったら作品が面白くなるのか。それを先輩から学んだり、本から吸収したら、すぐに作家に伝えていた。

振り返ると、知識を話すタイミングは、僕がその知識を得た時で、相手に必要な時ではなかった。


例えば、昨年からはじめた『コルクラボマンガ専科』でも、以前の講義では、相手(受講生)のタイミングを待たずに知識を渡してしまっていたと反省している。

昨年3月から9月までのコルクラボマンガ専科1期はすごく盛り上がり、半年間のカリキュラムを実践することでフォロワーが1万人を超えるマンガ家も現れた。講義内容は、僕とネームタンクのごとうさんの知識を体系的に整理し、学べるようにしたものだ。手前味噌ながら、よくできている。

ただ、受講生のマンガのアウトプット量が思うようには高まらなかった。

マンガ専科のゴールは、正しいマンガの知識を伝えることではない。マンガを描く習慣を身につけて、マンガ家として成長し続けられる状態にすることだ。

必要なことは、整理された知識を手渡すことではなかった。体験をしてもらい、適切なタイミングで知識が渡されると「自分ごと化」する

それまでの僕は、すべきことばかりを相手に伝えていた。でも、理想を語られても、その知識は自分ごと化しない。相手にとって大切なのは、「今日の自分より明日の自分のほうが面白いマンガを書ける」と信じられることだ。そう思えたら、自分で動き出す。

現在行なっているマンガ専科2期の講義は、ワークショップが中心になり、渡す知識の量はグッと絞り込んだ。すると、受講生のアウトプット量が圧倒的に増えてきた。

求めている人が、知識を受け取ると、飲み込みが早い。自分ごととして咀嚼し、アウトプットにすぐに反映される。求めていない人にたくさんの知識を渡すと、難しいと思って、そのこと自体を敬遠してしまう。

「知識はあればあるだけ困らない。自分の持っている知識は積極的にシェアしたほうが相手のためになる」と考える人は多いと思う。僕もそうだった。だが、大切なのは、必要最低限の知識しか伝えないで、求められるまでひたすらに待つことだったのだ。


知識を料理に置き換えると、よくわかる。

どんなに手間をかけて美味しい料理を作ったとしても、お腹いっぱいの人には受け入れられない。一方、富士山の頂上で食べるカップ麺は格別と言われる。料理の価値を決めるのは、それを味わう相手のシチュエーション次第だ。

知識も同様で、どんなにマンガに関する正しい知識をまとめても、相手がそれを求めていなかったら何の役にも立たない。まずは、相手の状態を知る。そして、相手を見て、知識が伝わるタイミングで、伝わることだけを言う。

これまでの僕は、とにかく自分の料理の腕を見せびらかしたいシェフのように、新人マンガ家たちに接してしまっていた。それも全て知識量が中途半端だったからだ。「育成の本質」を読んで、僕は自分の浅はかさを大いに反省した。

物語に出てくる長老たちは、聞きにくるまで、知っていることを話さない。小さい頃からずっと、僕はそれを不親切だと思っていた。「教えにいってあげればいいのに!」と。でも、自ら教えてに行っても、その話を相手を聞かないのだ。だから、長老たちは、聞かれたことだけを話す。

僕は基本、おしゃべりな方だと思うけど、自分から話すのを控えるようにしたほうがいいなと思い始めている。

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