小林まことの旬は今だ!!! 『瞼の母』
人の才能がもっとも輝くのはいつか?
若い時だろうか? 若い時は、確かにエネルギーと勢いはある。でも、技術はまだない。歳をとってくると、技術はある。でも、若い時のようなエネルギーと勢いはなくなってしまう。勢いと技術、そのバランスがもっともよくなった時に、作家は一番輝いている。
劇画・長谷川伸シリーズは、1巻ごとに完結する形式で描かれ、合計4作品出た。1年1作よりもちょっと遅いペースで描かれた。僕が以前レビューを書いた『青春少年マガジン 1978~1983』の後に、取り組んだシリーズだ。長谷川伸シリーズは、今の時代のペースに合った形で連載された訳ではなく、4作品とも、世間を賑わしたとはいえない。『1・2の三四郎』『柔道部物語』のファンでさえ、気づいて人がほとんどだろう。
しかし、この4作品は、読んだほうがいい。他の誰にも真似できない、絶妙なコマ割りのテクニックによって、話がテンポよく進む。コマ数が少なく、絵を大きく見せて、台詞も少ないのに、読者はあっという間に状況を理解できる。これだけの技術をもって描かれているマンガはほとんどない。小林まことが、今までのキャリアで得たもの全てを入魂しながら、丁寧に作り上げていった1作品、1作品だ。
ストーリーは、4作品とも任侠ものだ。複雑な伏線などはない。シンプルで、予想通りに話は進んでいく。楽しむところは、ストーリー展開ではない。人間だ! そこに描かれている男女は、皆一様にかっこいい。このレビューでは、ストーリーを紹介しようとは思わない。ただ、登場人物のかっこよさを存分に味わってほしい。
4作品を描き上げた後、『瞼の母』の末尾に小林まことはこんなあとがきを書いている。
”私は漫画家のくせにマンガチックなものが苦手だ。子供の頃から子供向けのものが好きではなかった。(中略)世の中、私の苦手なもので溢れかえり、私の好きなものはどんどん消えていった。(中略)こうなったら自分で描くしかない。描くなら、長谷川伸しかない。私が好きなものの原点だからだ。(中略)私は今、スゥーーッと心が癒されている。こんな奴はめったにいないかもしれないが、同じように癒された人がいてくれたら嬉しいかぎりである”
マンガという産業は、巻数を重ねて、10巻とか20巻溜まった時に映像化することで、爆発的に売り上げを伸ばして稼ぐという構造になっている。僕が編集した作品も、そのような産業構造のルールにのっかって、多くの人に読まれることになった。その構造自体は悪くはない。しかし、そのルールにのっかっていない、1巻もののいい作品が、ほとんど読者に気づかれず話題にならないのは寂しすぎる。そんな状況を変えたいと僕は思っている。
マンガHONZでレビューを書くのは、そんな本に光があたるようにしたいからだ。
小林まことの劇画・長谷川伸シリーズ
この4作品で、笑いながら、ホロリと涙を流す、そんな至福の時間を過ごしてほしい。
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