締め切りのうまい使い方
締め切りは、創作の女神と言われる。
そして、編集者の重要な仕事の一つとして、締め切りの管理というものがある。作家にどのように締め切りを伝えるか。それの工夫の仕方などを後輩の編集者には伝えていた。
しかし、僕は編集者として、作家の締め切りの管理をすることをやめた。
新人作家には、「僕が締め切りを覚えていて、リマインドしてもらえると思っていると、痛い目に遭うよ。リマインドしないよ」と伝えている。
なぜ、僕は締め切りの管理を放棄することにしたのか。
この2年間、マンガ編集者として、僕はずっと試行錯誤の中にいた。ネット対応した編集者として自分をどのようにアップグレードすればいいのか。まだ抜け出してはいないが、今、ようやく抜け出せそうな予感がしている。
その過程で、締め切りを管理するのをやめた。
いや、してはいけないとも思っている。
新人マンガ家の育成に大きく舵を切り出したのが、一年半前。そこから数百人の新人マンガ家に会い、現在、20人弱のマンガ家と一緒にマンガをつくっている。
一流のマンガ家は、マンガの技術がうまいだけではない。マンガ家として自分のありたい姿や、マンガを描くモチベーションを「言語化」できている。そのため、自分で現実と理想のギャップに気づき、それを埋めるために何が必要かを自分で考え、行動することができる。彼らにとって、編集者とは理想を実現するための伴走者であり、編集者の頼り方、使い方もうまい。
一方、新人マンガ家は自分の言葉がつむげていない。
そのため、「どういうマンガ家になりたいの?」「どういうマンガを描きたいの?」と質問を投げかけるのだが、相手は僕から詰められていると感じてしまう。
僕に言われたことに納得しても、人は変われない。
自分で言葉をつむいで、自分と約束した時だけ、主体性は育つ。
「締め切りを守ることは、メディア側、ファンとの信頼関係に繋がるから、守るように」とマンガ家のためを思って伝えても、口すっぱく言っていると、僕のために締め切りを守っているみたいになる。締め切りは、外部との約束なのだけど、僕との約束になってしまう。自分のための仕事のはずが、僕のために仕事をしているようなわけのわからない状態に陥ってしまうことがある。
マンガ家になるという夢は、作家自身のものなのに、僕が叶える夢のようになってしまう。どうすれば、彼らは自走するのか?
僕が完全に締め切りの管理をやめた方がいいと確信したのは、田中泰延さんとの対談だった。締め切りを守ることが絶対に必要なのは、メディアの運営者だ。メディアを運営する立場として編集者をしている時に、締め切りを守らせることは大切な仕事になる。新人作家を育成してる時は、締め切りを管理することは、重要な仕事にはならない。
締め切りを守らないことで、なりたい自分から遠ざかることを自分で気づくと、作家は変われる。
締め切りは、自分との約束であれば「創作の女神」になりえる。
他人との約束だと、楽しいことを作業に変えてしまう「呪いの言葉」になる。
締め切りを自分との約束にしてもらうために、僕は編集者の仕事から締め切りの管理をなくした。そして、自分との約束を作家が結ぶのをサポートするように方針転換をした。
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