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「小説」と「映画」の幸福な関係

いよいよ今週の金曜日、映画『マチネの終わりに』が公開になる。

先日、国際フォーラムで行われた完成披露試写会で3回目となる鑑賞をした。何度も観ているにも関わらず、エンドロールではスタンディングオベーションで「ブラボー!!」と心の底から叫びたい衝動に駆られた。

それほど、映画『マチネの終わりに』はいい。

僕は原作の編集者であり、思いっきり関係者だ。そのせいで、僕のこの映画に対する感想が、多くの人に割り引いて読まれてしまうことが悔しいくらいこの映画はいい。僕が今まで観てきた日本映画のベスト3に確実に入る。いや、正直に言うと、トップだと思っている。

小説を映画化すると、原作の方がいいと思う時が多い。小説には、抽象概念が書き込まれる。でも、映画だと、小説のストーリーライン中心になる。映画は2時間という制約もある。小説が持っていた魅力が映画になると削ぎ落とされてしまうことが多い。

だが、『マチネの終わりに』も原作に劣らない魅力がある。もちろん、映画の尺の関係で、蒔野と洋子の愛の行方に焦点を絞って、物語は展開されている。なので、削られた部分はある。でも、文章の代わりに映像的な美しさ、音楽の魅力が加わっている。そして、抽象的な描写の代わりに、感情豊かな役者の演技が加わっている。映画化によってあまりある魅力が付け加わり、僕は両方が違う魅力を放っていると思う。

映画が素晴らしいものになったのは、たくさんのスタッフのおかげなのだけれども、何よりも、井上由美子さんの脚本が素晴らしいものであることから全てが始まった。オリジナルで何本もヒット作を生み出している井上さんが、すごく多忙な中『マチネの終わりに』だったらと引き受けてくださったことがすごく大きい。

そして、監督の西谷さんが圧倒的にすごい。日本人の映画監督で、このような映画を撮れる人がいたのか!と感動した。映像が美しいのはもちろんのこと、絶妙なタイミングで音楽が入る。また、そこで使用される福田進一さんのクラシックギターの音色が恐ろしく綺麗なのだ。福田さんによる小説連動のCDや『マチネの終わりに』のサントラがSpotifyやApple musicで聴ける。ぜひ、予習して映画を観に行ってほしい。

そして、何と言っても、福山さん、石田さんの演技が素晴らしかった。三谷役の桜井さんも、伊勢谷友介さんも。繰り返し、観れば観るほど、こんなに繊細な表情をしていたのか…と発見がある。ちょっとした眉毛、唇の動かし方からも感情が伝わってくる。その感情が、なんとも簡単に言語化できない複雑な感情で、こういうものは映画でしか表現できない。映画の終盤は、二人の表情を観てるだけで、感極まって涙が出てきてしまう。

こんなに小説と映画の幸福な関係を、僕は見たことがない。

是非、映画『マチネの終わりに』は、何度も繰り返し観てもらいたい。1回目は、物語の流れをハラハラドキドキと追いかける楽しさがある。そして、2回目以降は、物語の展開がわかっているので、細かい演技や演出をじっくり味わえる。

映画『マチネの終わりに』はフジテレビのプロデューサーが引っ張っていってくれた。先日、フジテレビで働く僕の知り合いからメッセがきた。そこには、フジがこんなに素晴らしい映画を作れる会社だったことを知り、自分の会社が誇らしくなったとあった。僕も全く同じ思いだ。映画に対して、僕は原作サイドとして関わっただけだ。何も貢献していない。でも、この作品に関われることができて、自分の仕事を誇らしいと思う。そんな風に自分を思わせてくれる素晴らしい映画だった。

また、映画の公開に合わせて、漫画家・ホリプーのマンガ版『マチネの終わりに』の単行本も11月2日から発売がはじまる。こちらも映画に負けないカッコよく繊細なイラストで、全編オールカラーだ。

ebookjapanで連載しているので、ぜひ読んでみてほしい。

映画に、マンガに、小説と、『マチネの終わりに』の世界に浸ってください!


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