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「自分の言葉」で話すのが、作家の始まり


 新人作家を育てるのはすごく時間がかかる。とにかく待つことが必要だ。

 他人の言葉を借りて話すことをやめるように促し、自分の言葉で話すようになってから、やっと作家としての成長が始まる。そのスタートラインに立つところまでどう連れていくのかが、編集者の仕事だ。

 どれだけ必死に、自分の本心を話したつもりになっても「自分の言葉で話して。本当に思ってることは違うでしょ。」と言われ続けたら、あなたはどのように対応するだろうか。

 言葉は、社会のものだ。自分の生み出した言葉を使っている人はいない。社会が生み出した言葉を借りてきて、社会のではなく、自分の心を伝えなくてはいけない。一つ一つの単語は、社会のものでも、そのつながり方を工夫することで自分の言葉にすることができる。しかし、単語だけでなく、単語のつながりまで社会から借りてくると、どれだけ必死に話しても、自分の本心は届けられない。

 自分が話しているのは、借り物の言葉なのか、自分の言葉なのか、その差を理解するようになることが、作家の始まりだ。世の中に溢れている言葉は、そのほとんどが借り物の言葉として使われている。それに気づくことが、物語を作るよりも大事なことだ。

 スラムダンクの中で、三井寿が「バスケがしたいです」というシーンがある。多くのファンが感動的なシーンとしてあげる箇所だ。その言葉自体は、すごく普通の言葉だ。しかし、その言葉を「自分の言葉」として井上雄彦が発しているから、しっかりと心に届いてくる。特別な言葉である必要はない。自分の言葉で話す。このシンプルなことが、物語を構成する力よりもずっと重要になる。

 「自分の言葉で話す」の意味を早く理解した新人は、すぐに巣立つし、なかなか理解しない新人は、どれだけ絵や物語がうまくてもなかなか独り立ちできない。

 コルクに所属している新人作家の羽賀翔一は、まさにずっと「自分の言葉」で話すことができていなくて、停滞していた。特別なことではなくて、毎日見たことを描く練習をすることで、「自分の言葉」を話せるようになるのではないかと『今日のコルク』を課題にしてみた。

 ずっと停滞していたのは、彼の心の中に蓋をしている部分があったからだ。その蓋を自分であけない限り、彼の成長は始まらない。外から開けるのを手伝おうと色々してみたが、そんな行為はほとんど無意味で、自分で開けようとしないかぎり、絶対にその蓋は開かない。だから、僕はずっとずっと我慢して、待った。

 コルクのブログに書いた羽賀くんのこの文章が、蓋が開きだした一つのきっかけだ。羽賀くんが、マンガ家になる道を選択したときに、僕は「勇気があるねぇ」と褒めた。しかし、本当は社会に出るのが怖くて、マンガ家という夢に逃げたのだ。そのことを正直に言うと、僕に見捨てられるかもと勝手に想像して、自分の心に蓋をした。何年もたち、彼はやっとその蓋をあけることができた。

 昨日、彼は久しぶりに僕にネームを持ってきた。(僕はライザップで筋肉痛がひどくて、。このブログのためにタイプを打つのも、いつもよりも大変な状態)

 この時のネームで羽賀翔一は、やっと「自分の言葉」で話すようになった。数年待ってなんとか、作家の入り口に立てるところまできたかもしれない。僕がなかなか開けれなかった蓋がちょっとだけ開いていた。5月中に彼は、この作品をネット上にアップしていく。彼の「自分の言葉」はどのような聞き心地なのか、多くの人に届けるのを僕も手伝いたい。


僕のツイッターアカウントは@sadycork。フォローをよろしくお願いします。

羽賀くんのアカウントは、@hagashoichi。未来の巨匠を今からウオッチしてください!

note3周年のイベントが行われます。僕も登壇します!

 今回のブログは、作家を目指していない人には分かりにくかったかもです。分かりやすくなるように、何度も読み返して、言葉を噛み砕いたのですが。サポート、よろしくお願いします。



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佐渡島庸平(コルク代表)
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