コロナショックの今こそ進化のチャンス!SCRAP加藤さんに聞く、体験型エンタメの未来
新型コロナウイルスによって、エンターテインメントのあり方も大きく変容しようとしている。
宇野さんの『遅いインターネット』の言葉を借りると、インターネットやSNSの普及に代表される情報環境の変化は「他人の物語」から「自分の物語」へと、僕らの関心の重心を大きく移動させた。
CDの売上が減退する一方でフェスやライブの動員力が伸びて続けていることが示すように、インターネットの発展は、パッケージ化されたコンテンツ自体の簡易かつ過剰供給によって、その価値を暴落させ、人々は自分だけの体験を求めて現場に足を運び参加するようになった。そして、その場で体験したことを、自分の物語としてSNSに発信する。こうして21世紀は体験型エンタメの時代になった。
僕の友人でもあるSCRAP代表の加藤隆生さんは、『リアル脱出ゲーム』はじめとする体験型エンタメのシーンを牽引してきた第一人者だ。
新型ウイルスによって、体験型エンタメはどうなっていくのか?
この問いに対する加藤さんの考えを聞いてみたいと思い、僕のYoutubeチャンネルで対談する機会を得た。その内容について、コルクラボのメンバーがレポート記事を作成してくれたので共有する。
撮影:平山諭
加藤隆生(かとう・たかお)さん
1974年岐阜生、京都育ち。株式会社SCRAP代表取締役。2004年にフリーペーパー『SCRAP』を創刊し、誌面と連動したイベント企画のひとつとして開催した「リアル脱出ゲーム」が好評を博し事業化。毎回空間と趣向を変えて展開される「リアル脱出ゲーム」は全世界で注目を集め、現在では740万人以上が熱狂する大人気イベントとなっている。バンド「ロボピッチャー」のギターボーカルとしても活躍中。
★この対談は、Youtubeの『編集者 佐渡島チャンネル』にて動画を公開しています。動画で観たい人はコチラから。
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コロナショックで突きつけられた絶望
佐渡島:
加藤さんたちが手がける『リアル脱出ゲーム』の多くは、リアルの場に人が集まって開催されていました。新型コロナウイルスの影響をモロに受けていると思うのですが、現状の営業はどうですか?
加藤さん:
新型コロナウイルスの感染拡大がはじまってからは、基本的に全ての店舗を営業停止としました。現在は、緊急事態宣言が解除された都市から徐々に再開しているところです。
とはいえ、世の中のマインド的に、多くの人が集まる場所に出かけることへの抵抗感はありますよね。緊急事態宣言が解除されたからといって、すぐに以前と同じような集客に戻るとは考えていません。
佐渡島:
それでも、緊急事態宣言が解除されてすぐにリアル脱出ゲームに遊びに来てくれる人たちがいるのは、作り手としては嬉しいことですね。
加藤さん:
本当に嬉しいですね。
佐渡島:
加藤さんの置かれている状況は、経営者としては大きな困難に対峙する一方、クリエイターとしては、再び新しいジャンルを築くチャンスとも捉えられると思うのですが、いかがですか?
加藤さん:
そうですね。ここ近年は、僕自身が何もアイデアを思いつかなくても、会社として回っていける体制ができていました。僕は、アイデアを思いついたメンバーと関係者との間に立って、プロジェクトの流れを循環させていく役割に注力していました。
ただ今回は、世の中の流れが一気にストップする事態に直面しました。予定されていたイベントも軒並み中止にせざるを得ませんし、会社としてはその対応に追われるわけです。加えて、新しいコンテンツも作っていかなければいけない。作らないと生き残れない厳しい環境が、突如として自分を襲ってきたと感じました。
佐渡島:
直面した困難に対して、どのように思考が回転していったんでしょうか。
加藤さん:
はじめは、絶望に沈みそうになったのが正直なところです。
これまで丁寧にお客さんに提供して培ってきたリアルエンタメが、コロナショックによって、こんなにも暴力的に止められてしまうのかと。それが受け入れられませんでした。しばらくは祈るような気持ちで日々を過ごしていましたね。
同時に、周囲からは「オンラインイベントを作ったら?」と言われました。
でも、僕の一番得意なものはリアルな場でエンタメ体験を創出すること。「リアルがダメだから、オンラインで」という考えはすぐに持てませんでした。肩を怪我してしまった野球のピッチャーに対して、「じゃあ、サッカーやれば?」とアドバイスしているように聞こえたんです(笑)。
ところが、僕の中で潮目が変わったと感じた出来事が2つありました。
ひとつは、SCRAPの制作スタッフ3人による「謎の作り方」についての座談会のオンライン生配信でした。いざチケットを販売してみたら、予想を超えた数が購入されたんです。オンラインでも、お金を払ってでも観たいと思ってくれる人たちを目の当たりにして驚きました。
もう1つが、謎解き制作チームの『よだかのレコード』の存在です。
彼らが、郵送された謎解きキットと生配信を組み合わせて自宅で謎解きイベントを成立させていることを知って衝撃を受けました。「謎解き」というジャンルの中で先を越された感覚がありました。感心すると同時に、熱い対抗心のようなものが芽生えてきたんです(笑)。
佐渡島:
ライバルの存在は重要ですよね。
加藤さん:
命の危機とライバルの存在。少年マンガで主人公の成長の土台になるものが同時にやってきて、強烈なモチベーションに突き動かされました。今では、コロナショックによって会社が沈んでしまう恐怖を、クリエイティブによって打ち勝つべく動き出しています。
状況を打開する3つのリアル脱出ゲーム
佐渡島:
現在、加藤さんたちはどんな企画を進めているんですか?
加藤さん:
現在は3つのタイプのプロジェクトを進行しています。
1つ目は、「びっくり」をとにかくいっぱい詰め込んだリアル脱出ゲーム。リアル脱出ゲームの原点は、あるものを別の方向から見たら、世の中が多面的に見えるような「ひらめき」を表現することでした。一度その原点に立ち返るような、プリミティブで脊髄反射的な喜びを集めたリアル脱出ゲームを企画中です。
佐渡島:
気持ちいい瞬間の集合体というイメージですね。
加藤さん:
2つ目は、コミュニケーションを一切とらないリアル脱出ゲーム。
一切の会話をしてはいけない、つまり飛沫が飛ばないリアル脱出ゲームを考案しています。タイトルは『ある沈黙からの脱出』。会話はもちろん、BGMもない環境で淡々と謎を解いていく。最後に音を取り戻す喜びを、いかに高められるかにポイントを置いています。
今までは、論理的に考えて感動したり、物語の帰結によって感動するものを作ってきました。ただ、コチラのゲームでは、目の前で起こる瞬間的な喜びや、仲間と言葉を介さないコミュニケーションの豊かさを感じてもらいたいです。
(▼)リアル脱出ゲーム「ある沈黙からの脱出」のフォトレポートより
©SCRAP
佐渡島:
すごくおもしろそうです。人間の五感を研ぎ澄ます方向性ですね。体験によって感覚を鋭くさせるという視点が加藤さんらしいです。
加藤さん:
3つ目は、完全オンラインのリアル脱出ゲーム。
一番考えたのは、オンラインである意味です。本来は同じ空間に集まってプレイしたほうがおもしろいリアル脱出ゲーム。それをオンライン化するだけでは、単なる代替になってしまいます。
オンラインである意味とは、オンラインの画面を通して謎を解いていくことによって、臨場感がさらに増幅したり、感情移入したり驚きを感じることだと考えました。そのためには、理路整然とした物語や設定を構築していくことが重要です。
そう考えてリリースしたのが、『ある2つの通信基地からの脱出』です。
(▼)リモート通信脱出『ある2つの通信基地からの脱出』体験レポートより
©SCRAP
加藤さん:
今回は、オンラインであることの正解にたどり着いた自負があります(笑)。是非、多くの人にプレイしてもらいたいです!
撮って出しができるクリエイターが最強
佐渡島:
加藤さんは、「気持ちいい」と人間が感じるものに敏感で、多くの人は言語化できない気持ちのよさを記憶し、エンタメとして再現できるところが、本当にすごいですよね。
加藤さん:
買い物のお釣りがピッタリと500円玉で返ってきた時など、ちょっとした快感って日常にあふれていると思うんですが、確かに僕はそれに敏感なのかもしれませんね。
僕はアイデアにおける持論があるんですよ。
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