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予測不能な時代を"幸せ"に生きる鍵は『易経』にあり

近年、「居場所」「居心地」についてよく考えるようになった。自分を取り巻く環境がどれだけ変化しても、自分で自分の居心地を整え、惑わない状態になる。それが、ぼくの目指す生き方だ。

自分の気持ちの持ちようで、どんな状況でも生きていける。これは、一見、いい思考法のようにも思えるが、同時に極端な自己責任論にもなりかねない。平野啓一郎さんは、『空白を満たしなさい』や『本心』の中で、現実を変えようとせずに、心だけ満足する生き方を広げることに警鐘を鳴らす。

どのような思考法が、中庸なのか。
それをずっと考えている。

居心地について考えることは、「幸せとは何か」を追い求めること同義に近い。

この20年間くらいで、「幸せ」は学問の対象として研究が進んでいて、ポジティブ心理学と呼ばれる分野も誕生した。こうした幸福学に関する本を、ぼくも数多く読んできた

そのなかで、「幸せとは何か」という問いに対して、データ解析の視点から考えるユニークな人がいる。

ハピネスプラネット代表の矢野和男さんだ。

ぼくが矢野さんを知ったのは、矢野さんが書いた『データの見えざる手』という本だ。この本では、ウェアラブルセンサーで集めた膨大なデータから、人間や社会の知られざる法則を次々と明らかにしていく。知的興奮を覚える一冊で、勝手に本を紹介していたら、矢野さんと対談する機会を得た。

その時の縁で、ここ数年は定期的に対談をして情報交換をしている。

今年の対談は、矢野さんの新著『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』という本が、話題の中心になった。

多くの人は、幸せと仕事や健康との関係について、「仕事がうまくいくと幸せになる」「健康だと幸せになりやすい」と考えると思う。でも、この20年間あまりの研究で明らかになったのは、逆の因果関係だ。

主観的に幸せな人は、重要だが面倒で面白くない仕事を、労をいとわず行うことができる。このような仕事は、行き詰まった局面を打開したり、変化する状況に適応したりするのに役立つ。健康だから幸せなのではなく、幸せだから、健康に気を遣う余裕があると言える。一方、幸せでない人は、精神的なエネルギーが足りないため、面倒なことに手をつけることが難しい。

予測不能な変化が連続する時代において、幸せによる精神的な原資があるかどうかが、様々なことの成否に決定的に大きな影響を与える。「幸せとは何か」という問いに対して、幸せとは変化に立ち向かうための精神的なエネルギーだと、矢野さんは説いている。

では、どうすれば「幸せ」を感じられるようになれるか?

この問いへの着眼点が、とても面白い。データを使い、最先端の思考法をしている矢野さんが辿り着いたのが、古典だった。

何かというと、古代中国の教えである『易経』だ。

易経は英語名では「ブック・オブ・チェンジ(Book of Changes)」と訳されていて、中心となるテーマは、変化であり、変化への向き合い方だ。64個のパターンによって、未知の変化を分類し、それぞれの状況への向き合い方が書かれている。

儒教の四書五教の筆頭にあげられる『易経』は、江戸や明治の知識人の多くが学ぶもので、勝海舟の「咸臨丸」や陸奥宗光の「蹇々録」も、易経に定義された変化のパターンを船名や書名に当てている。

つまり、昔の人たちにとって、「学問を修める」とは知識を極めることではなく、どんなに未知の状況になっても、ぶれずに正しい態度で向き合える人になることだったのだ。

予測不能な変化は、誰しもの内面に揺さぶりをかける。社会的な変化もあれば、家族や職場で起こる個人的な変化もある。そういった避けることのできない多様な変化に、どう向き合っていくのか。それは、知識を学ぶだけの学問では対応しきれない。

詳しくは本書を読んでもらえたらと思うが、矢野さんの本では易経において体系化されたエッセンスを抽出し、どう未知の変化と向き合っていくかを現代的な視点で解説していく。

そのなかで大切なのは、未知の変化そのものではなく、自分と変化の相対的な関係に着目することだ。

活動や思考を「自分」に関することと、「他者」との関わりに関することに分類する。また、「表にみえる自分」と「表に見えない自分」に分けて考える。そうして、「私」対「我々」の二分法と、「表出」対「内面」の二分法を掛け合わせて、4つの視点から俯瞰的に変化を捉えていく。

誰しも変化を避けることはできない。変化と的確に向き合い、変化を機会とするべく、立ち向かうことが「幸せ」の本質だと矢野さんはいう。

ぼくは『観察力の鍛え方』のなかで、あいまいなものを、あいまいなまま受け入れる思考について書いた。世の中に「絶対」などない。わかったつもりにならずに、観察をし、仮説を立て、問いを見つける。それを繰り返し続けることが、観察力を鍛えることだ。

あいまいを受け入れるとは、未知の変化と向き合うこと。

未来は予測不能であることを前提に、どう変化と向き合うかを体系的に説く矢野さんの本は、ぼくの思考と重なるところがあり、すごく刺激を受けた。


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