書くプロになりたければ、読むプロになれ!
一流のマンガ家や小説家には、共通点がある。
それは「作品を読む力」が圧倒的に優れていることだ。
自分が感銘を受けた作品について、作品の主題はもちろん、それぞれの表現やセリフごとに、どんな意図を作者は持っていて、どんな効果を作品にもたらしているかを彼らは事細かに語る。
プロの書き手になる前に、「プロの読み手」になっているのだ。
『君たちはどう生きるのか?』のマンガ家・羽賀翔一が、一流のマンガ家になると僕が確信する理由のひとつが、羽賀くんの作品を読む力の高さだ。
羽賀くんはドラゴンボールが大好きなのだが、それはドラゴンボールにはひとつも嘘がないからだと言う。
例えば、悟空は超サイヤ人になって、限界を超えた圧倒的な力を手にするが、それは作者の鳥山明さん自身の経験から湧いてきた展開ではないかと指摘する。週刊連載の激しい締切との戦いで、何度も限界ギリギリの状態で原稿を間に合わせることで、ある日、自分の実力が圧倒的に上がっていることを自覚する。そんな鳥山さん自身の経験が、超サイヤ人の表現に繋がってるのではないかと。
また、元気玉についても、鳥山さん自身が読者から届く激励の手紙を読むことで、マンガへのモチベーションを回復させる経験を何度も味わっていたので、発想が生まれたのではないかと、羽賀くんは言う。
羽賀くんに、そういう風に教えてもらった後に、ドラゴンボールを読み返してみると、受け取る印象が全く変わる。どの表現も、鳥山さんが実際に経験した感情の比喩になっているように感じ取れるのだ。現実離れしているようで、実は現実離れしていない。ここに、ドラゴンボールの凄みはあるのではないかと思う。
読む力が高い人は、総じて「作者の意図」を汲み取ろうとする意識が高い。
当たり前だが、プロの作家は、何度も推敲して作品を世に出している。全体の構成はもちろん、一文やひとコマの細部に至るまで、そこには何かしらの意図が込められている。この一文で、読者に緊張感をもたせたい。ここでは、後半の盛り上がりに向けて伏線をはりたい。このシーンでは、少し笑いを入れて雰囲気を和ませたい。創作において、なんとなく書いている部分なんて、ひとつもないのだ。
著者の意図が読み取れるようになれると、自分が創作する時も、一つひとつの表現に意図を込めながら、物語を作れるようになる。だから、僕は一緒にやる新人マンガ家には、「読む力をあげていこう」と必ず伝えている。
先日、新人マンガ家7人と合宿した際には、手塚治虫の『ブラックジャック』を全員で精読し、そこに込められている手塚治虫の意図と、手塚治虫の表現のスゴさを語り合った。
例えば、第一話でブラックジャックは日本医師連盟の会合に呼び出されるが、役員たちがT字型のテーブルに連座してブラックジャックを迎える。なぜ、この時のテーブルの形はT字型なのか? 長机の方が描きやすいのに、なぜあえて手塚治虫はこの形のテーブルを描いたのか?
こういった議論を繰り返していくと、自分がマンガを描く時も、いい加減な表現をしなくなってくる。なんとなく描いたコマが消え、読みやすく、記憶に残る表現ができるようになる。
インプットが大切だと言われるが、単に知識をインプットするのではなく、表現の裏にある「作者の意図」を読み取ることが重要なのだ。
これはクリエーターだけの話ではなく、ビジネスマンでも同様だろう。上司やクライアントの言葉の裏側にある意図を読み取れる人ほど、結果を残しているはずだ。
マンガや小説でなくても、何かしら自分の表現力を磨いていきたいと思う人は、読む力を意識してみてほしい。優れた作品に込められた作者の意図を発掘することが、いい作り手となる一歩なのだ。
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