グラゼニ1巻表紙

お金で野球を語る!狭い切り口だけが到達する深いポイント『グラゼニ』

『グラゼニ』1巻 原作:森高夕次 漫画:アダチケイジ

テレビのディレクターから、興味深い話を聞いた。

2001年の9.11のテロを境に、世間の人々が面白いと思う番組が変わってしまったというのだ。それ以前は、「進め!電波少年」「ガチンコ!」が人気番組だった。どちらもリアリティを売りとしたバラエティ番組で、やらせ疑惑が問題になるタイプの番組だった。人々は、リアリティを装ったフィクションを楽しんでいた。

でも、9.11で、圧倒的な現実の前にすべてのフィクションがかすむ。ましてや、リアリティのフリをしたフィクションは、白々すぎて見れなくなってしまった。

それで、その次に流行ったのは、身近な現実。嘘かどうかを気にしなくていい、情報番組が流行った。「伊東家の食卓」や「トリビアの泉」だ。

誰も意識していたわけではないけど、社会全体として、好みが変わったのだ。

このディレクターの意見が、本当かどうかわからない。あくまでも仮説だ。

でも、その感覚はよくわかる。

マンガも、壮大な話よりも、しっかりと情報が入っている現実的な物語の方が、読者に好まれるようになっていった。

以前紹介した『キャプテン』や『クロカン』などは、キャラクターの魅力と、ストーリー展開で読者を惹き付ける。読むと野球をしたくなるし、主人公を好きになる。でも、野球については、さほど詳しくならない。

野球マンガの流れが変わった作品として『甲子園へ行こう』や『おおきく振りかぶって』がある。どちらも、野球についての知識を得ながら、物語を楽しむことになる。野球がうまくなるためのテクニックの情報が満載なのだ。『ドラゴン桜』が、学園マンガではなく、学園を舞台とした教育情報を伝えるマンガとなっていたことも、もしかしたら、社会の空気も関係していたかもしれない。編集者として、僕自身がそれを意識していたことはなかったが、無意識にそのような社会の流れを感じ取っていた可能性はある。

『グラゼ二』という作品は、さらに情報が細分化している。野球の情報というより、野球にまつわるお金の情報に特化しているのだ。原作の森高さんが、別名コージィ城倉で絵も自分自身で描いている野球マンガは『砂漠の野球部』や『おれはキャプテン』は物語としてとても面白い。でも、世間の興味をより惹いたのは、情報をたくさん詰め込んでいる『グラゼニ』の方なのだ。

物語の切り口を、野球のお金周りの情報と狭めてしまうと、面白みが減るように感じるかもしれない。しかし、逆に、狭めることによって、普段の勝敗の行方を読者に気にさせる野球マンガでは描かれることのない、野球選手のリアルな感情を描くことができている。

マンガのキュレーションサイト「マンガHONZ」に掲載されている、『グラゼニ』原作者の森高夕次さんと堀江貴文さんの対談は、前編後編もすごく面白い。野球という切り口だけで、世の中の流れ、ビジネスまで語れてしまうのだ。

このような台詞は、今までどんな野球マンガにも出てきたことがない。現実において人が感じることでも、フィクションでは語られることがない台詞というのは多数、存在するはずだ。そういう台詞を描くことができる設定を思いつくというのはすごいことで、そこに『グラゼニ』が多くの人が面白いと思った理由があると思う。

漫画家は毎回、今までにない面白さを提供しようと四苦八苦しながらアイディアを考えている。その中で、自然とできている流れが、テレビのバラエティの大きな流れと一致しているところがあり、さらに引いてみると、社会を揺るがした事件、事故による影響が関係しているというのは、面白い。

最後になるが、作画を担当しているアダチケイジさんは、『宇宙兄弟』の小山宙哉のところに、アシスタントとして来ていた時期がある。

『宇宙兄弟』に登場する「ケンジの石のエピソード」は、実はアダチさんが仕事場で話した雑談が元になっている。

新人漫画家だったアダチさんを小山さんやツジトモさんが、「アダチ君は才能があるからブレイクするよ」とよく言っていた。

森高さんが書く原作の面白さもヒットの理由としてあるだろうが、アダチさんが絵を描かなければ、このような味のある「野球版ナニワ金融道」にはならなかっただろう。


グラゼニ コミック 1-17巻セット (モーニングKC)

グラゼニ 東京ドーム編(1) (モーニング KC)

キャプテン (1) (集英社文庫―コミック版)

クロカン―桐野高校野球部監督 (1) 

甲子園へ行こう! (1) 

おおきく振りかぶって (1)

砂漠の野球部 第1巻 (少年サンデーコミックス)

おれはキャプテン(1) (講談社コミックス)

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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。
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